双方向的な一方通行
加筆修正予定有。
DIABOLIK LOVERSシリーズネタバレ有。
理不尽で怒りにまかせて暴言を吐き散らし、時には泣き喚くヒステリックなヴァンパイアの少年。
私は逆巻カナトくんが好きだ。
ソロのキャラクターソングを中心に逆巻カナトくんを視たい。
『切断(キリサキ)☆舞踏会(CARNIVAL)』
ようこそお姫様 ここは誰も知らない夢のお城
悲しいコト辛いコト ぜんぶ忘却れて
素敵なお伽話を唄ってあげる
「ようこそ」から始まるこの曲のように、彼は始めから他者の干渉を拒んでいる訳では無い。寧ろ歓迎している節すらある。ただそれには条件があり、「ぜんぶ忘却れて」が守れなければそれはすなわち死を意味すると言っても過言ではない。頼まれたホットケーキを焼いただけで「いつまで待たせるんですか!」とフォークで刺してくるような少年だ。
彼以外のことを考えるなら殺す。
つまりはそういうことなのである。
ヒトツ 目を瞑って 「アリガト」
フタツ 口を閉じて 「ダイスキ」
ミッツ 耳を塞いで 「アイシテル」
ひとつひとつ、外界を遮断していく。世界からカナトくん以外を消していく。そうすることでやっと、彼は安心して“私”を愛することができるのだ。
ほら 聞こえてきたでしょう? 素敵な悲鳴が
饐えたバターの香りに 目覚めた熊の人形
ナイフを持ったら 準備万端
「素敵な悲鳴」は「すてきなねいろ」と読む。一般常識的な考えではひめいはねいろではないし、すてきではないはずだ。特に、“私”の精神や思考をDIABOLIK LOVERSの主人公である小森ユイ(初期)に近づければ近づけるほど、ひめいはすてきなものではない。
「ほら 聞こえてきたでしょう?」はテストだ。“私”がどこまで常識を、世界を捨てられるか。
ちなみに「熊の人形」は「Teddy」、彼の相棒・テディである。本来はくまのぬいぐるみというのが正しいが、「人形」とあてられているのは彼の相棒のお腹の中に答えがある。はらわたに隠された小瓶は紛れもなく「人形」であり、熊の人形が目覚めるのは“私”が彼と世界を共有した証である。
つまり、世界を共有したなら、その後に挟まれる「さぁ、切り裂いてあげる……」のセリフに喜ぶことになる。
さあ、踊りましょう 僕の掌で
右に左にほら!複雑怪奇な傷が花開く!
深紅い紅茶に摩訶不思議なJINGER COKKIE MAN
ふたりで踊ろう 愉快しい舞踏曲!
終わらない切断☆舞踏会のハジマリさ
これがサビである。
僕の掌で踊りましょう。その中にあるのは、思い通りにしたい気持ちではない。僕と、ずっと一緒に踊りましょう。孤独だ。
ずっと一緒に、僕の世界で、ふたりだけで。
彼の一曲目の一番。彼のパーソナリティをまるごと落とし込んだその曲は、彼と生きるためのすべてであり、彼の孤独のすべてをたっぷり食べた曲である。
今回は省略するが、2番は現実を覗いてしまった“私”やその周囲の末路である。この曲の“私”は、最後まで彼の世界で生きることはできなかった。
サヨナラお姫様 誰も知らない寂しい愛の終演
“私”も、彼の孤独を癒す、彼と共に生きていくに足る人じゃなかった。ただそれだけの話である。だからこの曲は女性が殺されるようなSEで締められる。
新たな“生贄の花嫁”が送り込まれるまで、また彼の世界は彼とテディの2人きり。そう考えると、彼はしっかりと他者を求めているのである。
ところで、一度曲を離れてゲーム(やアニメ)における彼の過去の話をする。
彼と兄のアヤト、弟のライトの三つ子の母・コーデリアは、奔放な人だった。
アヤトには第1夫人ベアトリクスへの対抗心をぶつけ、「あなたが当主になるのよ」と厳しく勉強をさせ続けた。ライトとは性的な関係を持ち、それが“愛する”ことだと教え込んだ。
その中で、中途半端に放っておかれたのがカナトくんである。
彼の歌声を気にっていたコーデリアは、気分で彼を呼んでは歌わせた。しかし夫の弟(彼にとっては叔父である)リヒターとの不倫の中、カナトくんのことは基本的に放っていた。
最終的にコーデリアを殺したのは三つ子だ。
アヤトが刺し、ライトが突き落とし、カナトが燃やした。
コーデリアの遺灰は、小瓶に詰められて、小さな熊のはらわたに包まれている。
彼の根底にあるのは孤独だ。
愛してほしい。かまってほしい。
表現の仕方もわからないし、誰が愛してくれるのかもわからない。そんな、真っ暗闇のなかの孤独だ。
2曲目の『GREATFUL☆DEAD☆MARCH』における2番サビ前のセリフ「僕のことだけ見てればいいんだよ?」、ラスサビ前の「ふたりで一対だから 視線を凝視めた蝋人形 幸福さ!」。
3曲目の『快感DEATH-TRUCTION』はもっと直接的になる。
(死んでも) 記憶はない
(生きてる) 理由はない
(それでも) 愛されたい、どうしても!!!!!
何も分からない、それでも愛されたい、どうしても。このフレーズは彼の叫びだ。愛されたい、愛されたかった。母に。でもコーデリアが死んでー殺してー、愛して欲しい相手がいなくなってしまったけれど、それでも愛されたい。愛への飢えだけが残って、どうしようもなくなってしまったカナトくんの叫びがいちばん直接的に叫ばれている。
産まれて此の方、赦されたことがないからどうしようもない
もしかして、この瞳孔フィルターに映る世界がチ・ガ・ウ?
これまでに述べてきた通り、彼の世界は確かに“普通”とは言えない。そのことに彼はちゃんと気づいている。ただ。
「何が間違ってるんですかぁーーーー…………!!!」
誰も教えてくれないから
「夜」に強襲われて 眠れない日々さ
答えられないQuestion そんな顔で見ないで
ただのお人形のくせに
誰も教えてくれないから、不安、寂しさ、愛されたい気持ちに強襲される。でもどうしようもなくて、それを目の前の“私”にぶつけてしまう。
愛してる(壊したい) 虐めてる(突き放して)
愛してる、けど、壊したい。
虐めてる、けど、突き放して欲しい。
矛盾で、動揺で、混乱だ。どうしたらいいのかわからない。誰も、教えてくれないから。
その『心』を刳り貫いて
僕のスベテ 詰め込みたい
この曲は『切断☆舞踏会』の1番、カナトくんの愛し方に着地する。全てを忘れて僕のことだけ考えて。そうしてくれるなら、あなたが愛してくれるなら、僕はあなたと二人で生きていきます。生きていけます。だからはやく、「僕のところまで堕ちてきて」。
長くなった。
結論から言うと、私の彼への愛は上から目線で下から目線なのだ。愛してあげる、だから愛してください。
カナトくんは愛したら愛してくれる。100に対して100、もしくはそれ以上で返してくれる。双方向的な一方通行とも言えるその形は、変わることがない。
だから好きだ。
永遠に片想いで、永遠に想われることができる。
理不尽で怒りにまかせて暴言を吐き散らし、時には泣き喚く「産まれて此の方赦されたことがない」彼を赦すこと。
彼と同じものを見ること。
外界を見ないこと。
彼のところまで堕ちて、そばにいること。
逆巻カナトくん。
あなたのことが好きです。
愛してるから、愛してください。
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