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コンクリートのさんぽ ~オンライン編~

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いやあ、世の中大変ですね。

今日から連休だけど、お出かけすることはできないので、バーチャルコンクリート散歩をしましょう。

というわけで今回お世話になるのがこれ。

はい、グーグルストリートビューです。

というわけで今日は、グーグルストリートビューを使って古今東西の名コンクリートを見に行きましょう。
いいですか、名コンクリート建築ではなくて名コンクリートです。お間違いのなきよう。

散歩の前に、ストリートビューの使い方とポリシーをおさらい。

フムフム。要は、マップやストリートビューのスクショはNGだけど、埋め込みはOKのようですね
こんなふうに。

スカイツリー(の手前のコンクリートの壁)です。
スカイツリーは、まあ見ての通り鉄骨オンパレードの構造物ですが、展望台とかの人が立ち入るスペースにはもちろんコンクリートが使われています。
山間部を除いた都市部ではおそらく、日本で一番高い所でコンクリートが使用された場所でもありますね。
(反対に、一番地下深くでコンクリートが使用されたのはおそらくスーパーカミオカンデ)

さらに、スカイツリーのふもとには、「生コンクリート工場発祥の地」という記念碑が立っております(画面奥。ズームしてみましょう)。
日本で初めて生コンクリートが作製されたのは、1949年のここ東京・業平橋とされております。
住友セメント(当時)が東京コンクリート工業を設立したのが発端で、同社の業平橋工場から国内初の生コンクリートが出荷された様です。
ちなみにこの記念碑は、圧縮強度が150N/mm2の超高強度コンクリートでつくられているようです。後ろのコンクリートの壁の5倍くらいの強度ですね。

こんなふうに、いろいろなコンクリートを見に行きましょう。
今日の目次は以下。そんなに長くないです。

コンクリートのルーツをたどる

前回、コンクリートの歴史に関する記事を書いたので、コンクリートのルーツをたどって行きましょう。

こちらはローマのパンテオン
観光地としても著名ですが、天井などに使用された約2000年前のローマン・コンクリートが今でも残っているように、コンクリート工学においてもとても重要な建造物の1つですね。
早くこんな風に多くの人が訪れられるようになるのを祈っています。

ローマから南東へ200km以上移動し(この間3クリックくらい)、ナポリに到着しました。

正面に見える山がヴェスピオ火山ですが、このおかげでこの地域では良質な火山灰である「ポッツォラーナ」が豊富で、これがローマン・コンクリートの材料の一つであり、その強さの秘密であると考えられています。
現在のコンクリート工学でも、例えば石炭火力発電所で生成される石炭灰(フライアッシュ)のような物質はアルカリ分と反応することで徐々に強度を発現する性質を持っており、これを「ポゾラン活性」と呼びます。
ローマン・コンクリートを産み出したイタリアはコンクリート工学のルーツであると考えていますが、遠いところまで来た甲斐がありました。(身体は現在千葉にいますが)

いきなりですがイギリスに来ました
ここはイギリス南東のポートランドという島ですが、現在、工業セメントとして流通している「ポルトランドセメント」の語源になったしまです。
ポルトランドセメントが開発されたのがイギリスですが、このセメントの硬化後の色がポートランドで採れる石と似ていることからポルトランドセメントと名付けられたと言われています。
セメントを水・石・砂と混ぜて作るコンクリートは「人工の石である」と考える技術者は多いですが、セメントを開発した人もそのような思いをこめてこの名前をつけたようです。
ということはここに移っている石がセメントの目標かしら?

さて、遺跡とか山とか石を見ててもしょうがないので、早くコンクリートを見に行きますか。

北のコンクリート

帰国しました
ここは北海道の稚内で、目の前に見えるのは稚内北防波堤ドームです。
帰ってきたばかりからか、アーチ曲線で構成された構造はローマ建築みたいに見えますね。
こちらは1936年につくられ、その後1980年と2003年の2度大きな改修・補強が行われていますが、宗谷海峡からの厳しい波浪から人々の生活を守る稚内のシンボルになっています。
北海道大学一期生の土谷実という若い技術者が設計したようですが、詳しくは土木学会の解説をご覧ください。

小樽まで南下しました。ここは小樽港の北防波堤
廣井勇という港湾の神様みたいな土木技術者が指揮を執って1908年から建設されたものですが、国内初の本格的な外洋防波堤であり、同時に国内で現存する中で最も古いコンクリート構造の1つです。
100年以上前に作られたものですが、コンクリートの品質試験を現在でも継続して行っているんですって。スゴすぎる。
大抵のコンクリート技術者って、自分が作ったコンクリートよりも先に死んじゃうんですが、子供たちのためにも自分がいなくなった後のコンクリートのことも考えておかなきゃなあと思わされますね。

ヴァーチャルなので物理的な位置関係を気にする必要はないんですが、北海道は特徴的なコンクリートが特に多いので、このまま道内を散策しましょう。

こちらは東本願寺函館別院。簡単に言うと、日本で初めてコンクリートで作られた寺社ですね。
建設されたのは1915年ですが、当時コンクリートはまだまだ馴染みのない材料でしたので、少なからず抵抗があったようです。観光情報によると、”コンクリートの材料は砂利などであることから、人が踏んだものを寺院に使うことに多くの檀家が抵抗を示したため、材料をひとつひとつ手洗いしたという逸話が残されている”とかなんとか。本当だったらすごい話ですね。

そこから歩いて行けるすぐの距離に、日本最古のコンクリート電柱があります。1923年に作られたもののようです。
コンクリートに限らずとも電柱ってふつう円柱状ですが、四角いのはめずらしいですね。
ちなみにコンクリート製の電柱がなぜ円柱状なのかは下の記事を見るとわかりやすいです。

(余談ですが、コンクリートの強度を確認するためのサンプルは日本やアメリカでは円柱状ですがヨーロッパでは立方体だったりします。サンプルの形状によって強度の値も変化します。)

北海道編はそろそろ終わりにしましょう。最後に、私と同い年の美利河ダムを紹介して北海道を出ましょう。

河川を横断して建設されたダムとしては日本一の長さがあるそうですよ。

ダムとコンクリート

美利河ダムで脳内のダム中枢が刺激されたので、コンクリートダムを見に行きましょう。
ダムいう構造物はコンクリートという材料と非常に相性が良く、大量に使用でき、かつ重量が水の2.4倍のコンクリートは膨大な水圧に耐えることができます。
形式としては重力式コンクリートダムとアーチ式ダムが代表的ですが、詳細はググってください。

(たぶん)世界で一番有名なダムにきました。
こちらはアメリカのフーバーダムですが、とにかくスケールの大きなダムです。デカすぎでストリートビューだとデカさがわからないのが致命傷です。

上のリンクではアーチダムの上の道路(国道93号)におり、画面上で手前側に位置するミード湖の水を蓄えています。
この道路が狭く交通上の問題となっていたためにバイパスとして作られたのが、画面上奥側に位置するフーバーダムブリッジです。
(ちなみに、作ったのは大林組です)
貯水量は400億トンですが、これはなんと日本の全てのダム2500基の貯水量(250億トン)より多いと言われています。意味がわかりませんね

ここがフ-バーダム・ブリッジの上。見晴らしがいいですね。

ところでフーバーダムが世界最大のコンクリートダムかというとそんなことはなく、貯水量とコンクリート量は必ずしも比例しません。
フーバーダムはアーチ式コンクリートダムですが、この構造は両側の強固な岩盤に支えてもらうことでコンクリート量を少なくできます。これに対して、コンクリートの重さのみで水圧を支える重力式コンクリートダムは当然コンクリート量も多くなります。

例えば、水力発電ダムでは世界最大と言われている中国の三峡ダムの体積は1600万㎥(約3800万トン)だそうですが、日本で1年間に出荷される生コンクリートの総量が8000万㎥であることを考えると、眩暈がするほど大きな値です。(日本の全てのコンクリートを使っても1年間にこのダムを5個作るので精一杯!)
まあ、中国なのでストリートビューは無いのですがね。

さて国内。こちらは新潟の奥只見ダムで、重力式コンクリートダムとしては堤高の最も高いダム(157m)のようです。

静岡・愛知の天竜川に位置する佐久間ダムも大きいですね。しかし当然ながらダムの大きさを感じられる位置に大抵道路は走っていないので、ストリートビューで見ているとつまらない気がしてきました。

なんてことを思いかけましたが、さすが皆さん大好き黒四ダムはそんなことはありませんでした。これどこから撮っているんだ…

もう少し高いところから。ちょうど放水時の写真を載せるあたりサービスが良いですね。

東京とコンクリート

ダムに飽きたので、大都会の中のコンクリートを探しにいきましょうか。

とりあえず江東区の本邦セメント工業発祥の地からスタートします。

ちょっと東に行くと木場公園という公園がありますが、こちらに架けられている橋はプレストレストコンクリート(PC)製です。
斜張橋のため塔から飛び出ているケーブルが特徴的ですね。1991年竣工ですが、高流動コンクリートが初めて土木構造物に適用された例でもあります。
何でもないように見えますが、街を歩いていると実はスゴい構造物がごろごろしています。

少し移動して築地なうです。こちらは築地本願寺別院です。
1931年につくられた、国内最大級の鉄筋コンクリート(RC)寺院ですね。翌年にはこの近所で銀座和光ビルが震災をきっかけに建て替えられますが、その材料としてコンクリートや御影石が採用され、この建築様式は界隈の百貨店ビルに影響を与えています。
伊藤忠太による設計ですが、古代インドチックな洋式と伝統的な寺院造りが融合する様は非常にカオスですので、おすすめです。

ちょっと移動してこちらは銀座の歌舞伎座です。外装にはガラス繊維補強セメントが使われてたりしますね。建物自体は鉄骨鉄筋コンクリートです。

歌舞伎座から南に位置するおどろおどろしい建物は中銀カプセルタワービルです。黒川紀章の設計で、1972年竣工。
中身は今でも近未来的に感じるデザインですが、外面の汚れが目立ってきていますね。

少し移動して御茶ノ水まできました。聖橋(工事中)です。関東大震災の復興事業として1927年に建てられた橋です(個人的にスキ)。

ちなみに聖橋の名前の由来ですが、

北側の湯島聖堂(現在のものは1935年竣工、伊藤忠太設計の鉄筋コンクリート造)と、

南側のニコライ堂(1891年竣工、だいたい煉瓦と石だけどドーム部は鉄筋コンクリート)、この2つを結ぶことから聖橋と名付けられました。

御茶ノ水から東へ秋葉原方面へ下ります。

昌平橋。昌平さんが建てたわけではなく、孔子が産まれた昌平という場所に由来するそうです。現在のものは1923年竣工。
それにしても、橋という構造物は見ることと渡ることが同時にできないのが残念です。昌平橋は渡るだけでガマン。

もうちょっといくと万世橋。こちらは川から眺めてみましょう。綺麗なアーチ状ですね。

秋葉原駅の電気街口に出ました。目の前に掛かる歩道橋は「アキバ・ブリッジ」という名前ですが、けっこうスゴい橋なんです。
桁下の道路等の都合による建築限界で高さが制限され、非常にスリムな構造が要求されたため、高強度(圧縮強度120N/mm2。普通の4倍くらい)のコンクリートを採用しています。かつ、高強度コンクリート特有の問題である、自分自身の化学反応により内部が乾燥してしまう現象を、吸水性の高い石を材料として使用し内側から保湿することで解決したものです。また、橋の下に見える補強ケーブルも断面積のスリム化に一役買っています。
というわけで、見る人から見たらびっくりするほど薄い橋ですが、まあ言われないと気付きませんね。でも土木構造物ってそういうものだと思います。

マニア向けのコンクリート

アキバ・ブリッジのように、普通とは少し違う変わったコンクリートを見に行きましょう。

山形県酒田市の「酒田みらい橋」です。以下、うんちくですので飛ばしてください。

酒田みらい橋は、2002年に竣工された、日本で初めて超高強度繊維補強コンクリート(英:Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete, UFC)を使用して作製された歩道橋である。200N/mm2のきわめて高い圧縮強度を持つこのコンクリートを使用することで、ウェブ厚80mm・床版厚50mmと極限まで薄肉化が図られている。土木学会田中賞(作品部門)、日本コンクリート工学協会賞(作品賞)、プレストレストコンクリート技術協会賞(作品賞)、 日経BP技術賞(建設部門)、グッドデザイン賞(建築・環境デザイン部門)等、およそ橋という構造物が獲得し得る賞を総ナメにしている。

要はアキバ・ブリッジ同様、強い材料を作ってスリムにした橋です。構造形式は「超高強度繊維補強コンクリート(UFC)製PCa外ケーブル方式ポストテンションPC歩道橋」といったところ。必殺技か。

明石海峡大橋。この世界最長の吊り橋の主材料は鉄ですが、ケーブルの固定には巨大なコンクリートブロック(アンカレッジ)が使用されています。
ダムなんかもそうなのですが、これだけ大きなコンクリートを作ると、自身の反応熱(コンクリートの硬化は化学反応なので熱を発生します)で内側がアツアツになってしまい、これがひび割れの原因になってしまいます。
そのため、セメントの成分を調整して発熱量を抑えたものを採用しています。

愛知県江南市、布袋の大仏。愛知県は聚楽園(しゅうらくえん)の大仏も鉄筋コンクリート造として有名ですが、せっかく道路沿いから見えたので。

高崎市の群馬音楽センター。1961年の竣工で、設計はアントニン・レーモンド。
この人は国内で打ち放しコンクリートをいちはやく取り入れた建築家ですが、打ち放しは表面の美しさが大事なので、型枠を外した時に気泡とかがあるとその区間の締固めを担当した作業員がこっぴどく怒られたという逸話があります。
薄いコンクリートを折板状に重ねていく構造が個人的にスキ。

静岡県の潮騒橋。1995年竣工。まず、名前が良い。ロケーションもいい。シルエットもいい。
床板や鉛直材には工場製(プレキャスト)の軽量コンクリートを使用しているそう。

東京都北区の音無橋。小っちゃい聖橋のようなイメージ。橋の下の親水公園とも非常にマッチしている。ぜひ橋の下から覗いてみてください。

福岡県の旧志免(しめ)鉱業所竪坑櫓(たてこうやぐら)。1941年、戦火の影響を受けて炭鉱での増産が求められ、建設が着手されたようです。かつては九州で100基ほどあった竪坑櫓も、現存するのはここだけのようです。なんとノスタルジー。

広島の岩鼻架道橋(画面奥)。世にも珍しいトラス構造(棒材で構成され、鉄には多いがコンクリートには少ない形式)のプレストレストコンクリート橋。高強度コンクリートや高性能減水剤等、1973年当時では最先端の材料を積極的に使用しています。

長崎市の軍艦島(端島)。日本で最古(1916年)の鉄筋コンクリート造の集合住宅がこの30号棟であると言われています。最古である同時に、海のど真ん中という鉄筋の腐食が起きやすい環境のため、国内でも最も劣化の進んでいる(はずの)鉄筋コンクリートの一つであると考えられます。

なんと建物の中にも入れます。腐食して露出した鉄筋なども観察できます。


飽きたので、今日はこれでおしまい。次回は未定。
良い連休をおすごしください。

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