コンクリートのまとめ#3 ~災害とコンクリートの付き合い方②~

ごぶさたしてます。
前回は、大阪北部地震とその際に問題となったブロック塀倒壊について取り上げました。

前回のおさらい

・ブロック塀の倒壊や、それによる物的・人的被害は半世紀以上も前から問題になっていた。
・大阪での倒壊事故が発生する以前から、専門家による指摘や法律・規準の強化は行われていた。
⇒建設技術者や専門家以外の方々の理解や関心が大事(と、私は思います)。

で、今日お話ししたいことは以下。

【本記事の目次】
・ここ最近起きた2つの災害をふりかえる
・コンクリートを中心とした社会インフラに対する点検・補修・補強などの予防保全技術の動向
・日本のコンクリートが抱えている問題はなにか

・平成30年豪雨とイタリアの斜張橋崩落

前回の記事を書いてすぐ、6月28日から7月8日にかけて、台風7号と梅雨前線等の影響により、西日本を中心とした集中豪雨と大規模な被害が記録されました。
気象庁が「平成30年7月豪雨」と命名した7月9日、共同通信は被害状況を簡潔にまとめた以下の記事をリリースしています。
なお、この記事が同災害に関するニュース記事の中では、NewsPicks上でもっともPickされています。(8月16日現在 361Pick)

災害発生当初は連日のようにメディアやSNS上で速報が飛び交いましたが、災害から1か月以上が経過したいま、少なくとも私が暮らしている東京ではすっかり忘れ去られたように思えてしまいます。
なんてことが気になったので、少し調べました。
災害発生から現在まで、同災害に関するニュース記事がNewsPicks上でどれくらいのユーザーにリーチしているか(Pickされているか)を調べてみました。
具体的には以下の図のように、NPのブラウザ上で「西日本 豪雨」のワードで記事を検索し、総Pick数=Pick数×記事数と、記事数の推移を調べてみました。
なお、ノイズのような記事を除去するのと作業の簡略化のために、Pick数3以上の記事に限定しています。

結果は以下のグラフの通りです。

棒グラフで総Pick数を、折れ線グラフで3Pick以上の記事数を示しています。
これを見ていえるのは、災害から2週間(7月21日)程度で報道が収束したということです。それ以降でもょこぴょこと背の高い棒グラフがありますが、折れ線グラフで記事数が低いことからもわかる通り、これは単発の記事がバズっているだけです。(ここでは紹介しませんが、被災内容に直接関係のするものではありません)
いうまでもなく、災害発生直後に報道数が増えること自体は被害状況を伝えて安否確認を補助し、避難等の適切な災害対策を促すためにも当然のことです。
ただ、災害が落ち着いた後の記事にこそ未来があるのではないかと私は考えています。
技術的な調査により原因追及がひと段落し、専門家を中心とした有識者による対策の立案がされたり、あるいは現地で未だ残る災害の爪痕や被災地とそれ以外での認識ギャップを改めて知る期間が、この2週間というラインの後にくるのかなあと個人的には考えるのですが、どうやら響いていないように思えています。
たとえば、以下などは良記事だと思うのですが…

話題は変わって、今月15日に発生したばかりのイタリアでの斜張橋崩落事故などにおいても、同様の懸念を抱いています。
この問題については未だ原因解明が待たれるところですが、インフラの経年劣化やメンテナンス不足が原因であれば日本国内にも全く通じる問題であり、学びが多いものと考えています。
(もちろんイタリアと日本では地震リスクも設計手法も違うので構造物を同様にあつかうことはできないのですが)
なんですが、後者の記事の過疎具合からもわかる通り、往々にして災害後の技術調査の記事はメディア上では響かないのです。

前置きが長くなったけど…

竣工50~60年後に崩落したイタリアの斜張橋と同様に、日本国内においてはコンクリート構造物が多数を占める社会インフラの高齢化が問題となっています。
幸いにも近年ではダムや橋の崩落といった大災害は起きていないものの、適切なメンテナンスや更新を行わなければイタリアのような事故、あるいは10年前のミネアポリスでの高速道路橋崩壊のような事故が起きないとも限りません。
そういった事態を防ぐための取り組みを、最近のニュース記事からご紹介しましょう。

コンクリートってメンテナンスフリーなの?

安全神話、という言葉があります。錯覚にしか過ぎないのに物事の安全を確信してしまっていることの状態ですが、かつて「コンクリートはメンテナンスフリーである」という誤解が建設業界でもありました。
それが崩壊したのがアルカリ骨材反応を取り上げた1984年放送のNHK番組「コンクリート・クライシス」によるのか1995年の阪神・淡路大震災によるのか1999年の山陽新幹線のコンクリート剥落によるのか2003年の朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故によるのかはわかりませんが、とにかく、コンクリートは必ず劣化します。
だからこそ初期コストをかけてでも高品質なものにするか、痛んだらお金をかけて補修してあげることは絶対に必要なのです。

上の記事で述べているように、これはコンクリートの内部に鉄筋が入っていることが大きな原因の一つです。もちろん他にもいろいろあるのですが、すくなくとも減価償却などは内部鉄筋の腐食・中性化による劣化をベースに考えています。

じゃあ、コンクリートって弱いの?

ではコンクリートが耐久性に劣るのか、あるいは他の材料で置き換えられるか、といえば全くの”No”です。ちょっとでもコンクリートの気持ちになればわかります。
気温や湿度が大きく季節変動するこの国で1年中野ざらしにされ、通年の寒暖差は40℃以上になることも。道路では寒さ対策の融雪剤として塩分をまかれて、過積載のトラックが上を走って排気ガスは浴びまくり。内部には鉄筋を含んでいるし骨格をつくる骨材(石や砂)は膨張性や塩分を含んでいるかもしれない。かと思えば表面から海風にのった塩分や人間の吐いた二酸化炭素が飛んできて塩害や中性化が始まる。ろくに点検もされずじっと耐えているのに、政権与党にヘンテコなキャッチコピーまでつけられる始末。涙が出てきますよ。

コンクリートをこれからどうやってメンテナンスするの?

ようやく本題です。各記事の詳細についてはリンク先にコメントをしていますのでそちらをご参照ください。

【画像解析による点検技術】
顔色から体調をうかがうように、透明でないコンクリートにおいても、表面に出てくる様子から内部に異常が発生しているかどうかを見極めるのは基本的な点検手法です。

コンクリートの代表的な表面異常が「ひび割れ」ですが、非常に複雑で奥が深い分野です。さまざまな要因が影響しあう上、形状や幅や進行具合から補修を行うべきかどうかには技術者の判断力が問われます。
これをカメラとAIにより画像処理しよう、というのが最近の動向のひとつです。目視点検に比較して効率化でき個人差も解消できる上、近づきがたい狭隘部や暗所への対応も期待されます。

【機械学習による打音検査の進化】
聴診器を当てるのと同じように、コンクリートの健康具合を「音」から判断する打音検査は基本的な検査手法です。といってもコンクリートは脈動しないのでハンマーなどで叩いてその音を聞くのですが。

音、というのは結局波動ですが、音に限らずコンクリートの表面から反動として得られる物理現象を利用して内部の欠陥を知ることができれば、適切な予防保全につながります。
これまた人間と一緒で、だれの目に見えても危なくなる前の定期診断で内部の健康異常を知ることができた方が、医療費は絶対に安くなるのです。
打音検査の課題はまずは精度向上、あるいは曲面や粗面、湿潤・乾燥状態などの様々な表面状況への対応、そして最後はヒトの手で実施・判断ができるように現在の技術も継承していくこと、でしょうか。

【ドローンはコンクリート診断士になれるのか】
ドローンというのは、NPが大好きなイノベーションの代名詞としてよく取り上げられ、ややもすれば本来の特性を離れた過大な期待がされがちですが、あまりニュースにならない建設分野においては地に足ついた技術開発がされています。浮いてるけど。

例えばコンクリートの学会に行けば企業ブースで技術展示などをよくしているのですが、ゼネコンを中心にドローン展示はここ数年本当によく見ます。
コンクリート工学会誌の2018年1月号はコンクリート構造物の点検・モニタリングの特集号でしたが、ドローンの記事もしっかり載っています。
NP上ではよく、山間部の過疎地等への物資配達などへのドローン活用が期待されていますが、高所などの人間が立ち寄りづらい環境が多い建設現場はまさにうってつけの活躍場所と言えそうです。
これからの課題としては、ドローンにアクセシビリティを持たせるでしょうか。目視点検だけでなく、打音検査なども行えれば範囲対象がグンと広がりそうです。

【お金をかければ良いものができる】
コンクリートには安全神話ともうひとつ、「お金をかけてはいけない」という風潮があるように思えます。
これは、まだまだライフサイクルコストの考え方が浸透していないとか、明治時代の会計法に端を発する「公共工事は可能な限り安価で行う」という談合問題の根本的な考え方とか、建設業界の多重下請け構造とか、いろいろな要因が絡み合っていると思うのでここでは議論しません。
が、当たり前ですが、お金をかけてでも良い材料を使ったり丁寧な施工をしたりすれば必ず良いものができあがります。

前者は建築分野、後者は土木分野の取り組みです。
安藤忠雄の建築はコンクリート打ち放しのイメージが強いのですが、粗雑な施工でコンクリートを打ち放したらすぐにダメになります。丁寧な施工で密実なコンクリートを打込み、表面を塗料でコーティングして劣化因子からシャットアウトすることで寿命を確保できます。
コンクリートと鉄筋の相性の良さは奇跡に近いと考えていますが、やはり腐食(サビ)の問題は無視できません。鉄に成り代わる有機系の新材料によりコンクリートを非鉄化することができれば、「塩害・中性化」というコンクリートにとっての成人病ともいえる大病リスクを一気に解決することができます。
とはいえ、建設予算が縮小し続ける日本で全ての社会インフラをこのように高級な材料でつくることは絶対にムリです。そのためには社会インフラの重要性の理解と位置づけ、選択と集中のための意思決定が必須です。

これからのコンクリートはどうなるのか?

災害と経年劣化の大きなリスクを抱えている中で、技術者のわれわれもがんばって技術開発を行っています。
じゃあそれだけでなんとかなるかというと、私はムリだと思います。
多分だけど、イノベーションではもうこの国のコンクリートの劣化は避けられません。

【確実に顕在化しているコンクリートの劣化】
だいたいコンクリートのニュースって暗いものばっかりなのですが、それにしたって最近は多いと思います。とくに個人的に増えているなと感じるのが、コンクリートの剥落事故です。

表面コンクリートの剥落は内部膨張に押し出されることにより起こりますが、例えば凍害によるポップアウトや、内部鉄筋の腐食によるものや、反応性骨材の膨張によるものなどが原因です。
竣工から時間の経った道路構造物を中心に、コンクリートの剥落事故が増えている印象を受けています。
小林一輔先生がかつて「コンクリートが危ない」(岩波新書)で警鐘を鳴らしていたように、高度経済成長期に一気に作ったコンクリートが一気に経年劣化を迎え、崩壊の危機に迫りつつあるのは紛れもない事実です。

【お金がない、とにかくない】
平成28年の「建設工事施工統計調査報告」によると維持管理にかかる費用は年間15.6兆円で建設投資額の28%に相当します。
つまり現在、建設業の仕事の4分の1以上は、「建設した後」の管理にシフトしつつあり、この割合が今後さらに増加するのは明らかです。
建設投資にかけられるお金が潤沢にあればいいのですが、生憎そんなことはありません。
国交省が発表している報道資料から建設投資額の変遷をグラフにまとめると以下のようになります。

土木・建築・政府・民間まとめていますが、とにかく言えるのは、いまは最盛期(バブル期)の半分くらいの予算で建設投資を行っていることです。
さらに建設需要最盛期は新設需要、つまり新しく建てるインフラへの投資が多数を占めておりましたが、これからは既存インフラのメンテナンスにもお金がどんどんかかっていくのに、です。
このギャップを技術開発だけで埋められるかと言われれば、私はそうは思えません。
なにより、この傾向は今後ますます加速します。
国土交通省の見通しによると、建設後50年(更新の目安時期)を経過する社会資本の割合は下表のように、向こう20年でさらに増加する予測になっています。

じゃあどうするのか?

と訊かれますと、正直なところ、これといって有力な解決策は私の頭の中にはありません。(無責任ですみません)
ただ、前回から申し上げているように、社会資本の投資は国民が主体になる問題です。
まずは現状を理解することから全ては始まると思い、この記事を書かせていただきました。

方針の一つとして、「選択と集中」は避けられないのではないかと個人的には考えています。
可能なら避けたいのは誰しもがおもうところでしょうが、そうも言ってられない現状に差し掛かりつつあります。

以上、長々とお付き合いいただきましてありがとうございました。
次こそはいいかげん、もっと気楽な話がしたいですね。
コンクリート随筆のテーマを随時募集しております。

ではまた。










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