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生きづらさと共に生きる作家たちと地域をつなぐ「個性展」| 思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

個性を発揮し分かち合える場を目指して。

みなさんは「心の病」と聞いた時に、どのようなことを考えますか。また「心の病」と「個性」との違いとはなんなのでしょう?そして私たちにとってもどのくらい身近で、困った時には誰に相談すればいいか知っていますか?
今回お話を聞いたのは「個性展」という展示会を企画運営したプロジェクト。個性展とは、雲南市内で心の病もしくは生きづらさを感じている方が作品を通じて個性を発揮し、観た人に「心の病」へ関心と理解を向けてもらう作品展です。
その企画運営をしたグループ「心のベースキャンプ」のメンバーから、原谷さんにお話を伺いました。

・原谷 直樹(はらたに・なおき)/訪問看護ステーションコミケア 看護師

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—まず「個性展」を企画した経緯について教えてください。

 最初のきっかけは雲南ひまわり福祉会で相談支援も担当されている岡田さんが、相談員の存在や精神的ケアのサポートについて、地域の中でもっと頼りにされるにはどうすればいいだろうか、と考えておられたのが発端です。例えば心の病や生きづらさを抱える人の中には、偏見を恐れて助けを求められず、自分の中で悩み続けて支援に行き着かないという現状があります。そこでそういった方も安心できる場や機会が作れないかということを、岡田さんからコミケアの古津さんに相談があり、そこからコミケアの中で精神疾患や発達障害のケアも担当している僕に声がかかって、どんな取り組みがあるといいかを3人で話しあいました。
 するとまず、心の病や生きづらさといった事情を身近に感じて欲しいという声があがり、古津さんからも素敵な絵や工作を作る利用者さんがおられるので、皆さんの作品を寄せて展示会をしてはというアイデアが上がりました。
 けれど僕は最初反対したんです。

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—えっ!素敵なアイデアだと思うのですが、なぜ反対されたんですか?

 理由は大きくは2つあって。まずは「ハンディキャップがある人は芸術センスがある」というイメージが強くなりすぎることへの懸念です。たしかに優れた作品を生み出す人も多くメディアで取り上げられますが、全員が創作や表現を好まれるわけではありません。しかしそのイメージが先入観となり、苦しい思いをする人を生み出しているという思いがあったのです。
もう一点は、見る人が知らないうちに「ただの観客」のような意識にならないかということ。「病気や障害がある人がこんなに頑張っていますよ」ということだけでは、生きづらさを持つ人に共感し身近に感じることは難しいのではと思いました。
そこからさらに3人で話し合い、絵や作品を展示するだけではなく作者の方の事情や普段感じていること、こんな世の中になって欲しいというニーズなども含めたその人らしさも展示しよう、ということで「個性展」としてはどうかと決まりました。

—「個性展」の開催に向けて、地域おせっかい会議はどのように活用されましたか?

 ちょうど心の病の診断を受けている作家さんから作品を集めている際に、「精神患者という名目で作品を出したくない」と言われた方がおられました。そこで「繊細さん」のように性質を柔らかく言い表す言葉はないかと思い、地域おせっかい会議で地域の皆さんからアイデアを募ることにしました。ただ当日はそこまで話せなかったのですが、一般の市民の方の「精神障害」のとらえ方に、当事者や自分たちと差があるということが分かりました。たとえば当事者の方の中には「精神疾患」という言葉に傷つく人もいますが、普段関わりがないと思っている人はその言葉を特に悪いこととは思わずに使うこともあります。
 なので個性展で市民の皆さんに心の病についても伝えるには、とても工夫がいるなとわかりました。

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—今回の作品ではどのような点を工夫されましたか?

 今回「個性展」の会場は古津さんを通じて三刀屋郵便局さんの会場を使わせてもらうことが決まっていました。そこで会議にも参加してくれていた建築家ユニット”teamTEN.(チームテント)“の方から、せっかく郵便局で開催するので郵便局らしいところも混ぜたら面白いのではと、空間の使い方や作品展示の方法についてアドバイスをもらいました。
 たとえばまず、作品にはあえて詳しい説明をつけずに展示して、アート作品として鑑賞してもらいます。そのうえで見た人が作者自身に関心を寄せたいと思えたら、作品の近くに配置した作者からのお手紙を開けてもらうんです。そこには疾患によって日頃感じていることを書いた人もいれば、白紙のまま入れている人もいますが、それを含めて展示会に来てくれた「あなたへのメッセージ」が入っています。そして今度は「個性展」に来てくれた人から、作者や展示会への感想やアンケートを手紙にして、会場においた手作りのポストに投函してもらいそれを僕たちが作者さんへ配達する、という形式につながりました。

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—「個性展」の反響はいかがでしたか?

 三刀屋郵便局のスペースをお借りして11/16~12/4(土日祝除く)に開催した「個性展」は6人の作家のちぎり絵、絵画、ポエムなどを展示し、のべ約140名の方にご来場いただきました。来場者の中には、心の病を持ちながら地域で暮らす方もおられ、展示の仕方を褒めてもらったり、作品に惚れ込んだ方が市内の奥出雲葡萄園というワイナリーの地下ギャラリーでの「個性展」の開催を提案してくれたりと、手応えを感じました。

—郵便局やワイナリーなど暮らしに身近な場所で作品展示をすることで、「個性展」の企画の出発点だった「心の病や生きづらさといった事情を身近に感じて欲しい」という願いに沿うものになっている気がします。開催してみて企画のポイントは何だったと思いますか?

 まずは中心となった3人の間にもズレがあったことで、それがよい相乗効果を生んだと思っています。例えば古津さんは3人の中でも比較的一般的な感覚を持っているので、良かれと思ってすることが知らないうちに当事者の方の思いと違う方向に進みそう…という場面もあったんです。けど逆に言うとチームの中に世間の感覚に近い意見があることで、どうすれば見に来てくれる市民の方にも伝わりやすいか考えるときに、とても助けになりました。

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 おそらく今回、最初から古津さんが危なげなく進めていたら、自分は多分関わっていなかったと思います。古津さんが上手につまづきそうになるのを、ついつい気になって助けていくうちにここまで来たという感覚です。僕自身、精神疾患や発達障害の方のサポートは、仕事で担当している以上に個人的にも関心があったので何か行動はしたいと思っていましたが、一人では動き出していなかったし顔も広くないし。けれど古津さんがつながりを多く持っていたので、多くの方に力を借りることもできました。また岡田さんは作者の方を紹介してくれるだけでなく、3人の中でも話をいつでも否定せずに聞いてくれ、僕と古津さんの間に入って調整役となってくれました。なのでよく板挟みになっていることもありますが、本人はそれも楽しいと言ってくれるので、彼がいなければここまで3人でやれていなかったと思います。

—原谷さん自身は第一弾の個性展を終えてどんなことを感じましたか?

 まず自分たちで企画して設営した会場ができあがったときに、そこがすごくあたかいような柔らかいような、居心地の良い空間になったなあと感じました。今回初めて絵や作品展示などのアートに携わったことで、日頃僕が訪問看護をしていくときの人との関わり方や見方はアートの見方に似ているんだなと感じました。昔から周りと違う人を見るのが好きでしたが、それは違いをただそのまま受け入れて味わうように関心を向けていたのだと気づいたんです。一般的な枠にはめて評価するのではなく、せっかく現れているその人をそのまま認める。それはアートとの付き合い方と通じる部分があるかもしれないと思います。
 またグループ名の「心のベースキャンプ」は、僕が精神看護を学ぶ中で知った用語から名付けました。この心のよりどころとなる場や人の存在は、生きづらさの有無にかかわらず誰にでも必要なものだと思ったので、このグループ名を通じてそのことを知ったり調べてみてほしいなと思います。

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「個性展はまず第一に、作者本人のための作品展。だからどうすればその作品が魅力的に見えるかを、僕らは一生懸命考えるんです」原谷さんはそう静かにきっぱりと話してくれました。
それもすべて、「心の病や生きづらさといった事情を身近に感じてもらい、そういった方も安心できる場や機会を増やしていく」ため。個性を発揮し分かち合える場は、きっと誰にとっても勇気を得られる場所なのかもしれません。ある人は個性展、ある人は地域おせっかい会議がその場所かもしれませんが、そういう場が地域に多様にあることで、多くの人が心の安全基地を持ち、また誰もが誰かの安全基地になれる。そんな未来を予感するインタビューでした。

ライター 平井ゆか

まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人を私たちは「コミュニティナース」と呼んでいます。
誰かを喜ばせたい、元気にしたいと願うあなたの思いと行動の第一歩として、全国のコミュニティナースが集うオンラインコミュニティ「コミュニティナース研究所」へご参加ください。
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