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「郵便局が挑戦した、まちの保健室」| 思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

「いつも会うあの人の元気を応援したい」

はじめに
日常生活でふと感じる、体のちょっとした違和感。しかしその多くは「なんでもない」「忙しいから」などと言って、つい病院に行くのを後回しにしてしまうことも多いのでは。
そんな後回しにおせっかいを焼いた、地域おせっかい会議メンバーの三刀屋郵便局の板倉局長さんにお話を伺いました。
みなさん行きつけの郵便局で健康の不安を何気なく相談できたら、どんなことが起きたのでしょうか。

・板倉孝夫(いたくら・たかお)/雲南市三刀屋郵便局 局長

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板倉さん(一番右)

−−まず最初に、「まちの保健室」とはなんですか?

 日本看護協会、全国の都道府県看護協会で展開されている、健康に関するよろず相談室です。学校の保健室のように身近にあって、健康のことを相談できる場所、というイメージです。
隣の鳥取県でも看護協会と郵便局が協定を結び、保健師さんが半日~1日常駐して相談を受ける事業をしていると聞き、雲南市の郵便局でもやれたらなと思っていました。

−−郵便局の方が、そこまで健康づくりの事業に関心があるのは意外な気もします。その理由はなんでしょうか?

 郵便局って年金支給日に、お年寄りの方がたくさん来られるんですよ。
けど多くの人は、お金をおろす用事だけを済ませて帰られるんですよね。
ただ我々は普段からこられたお客さんと少し雑談するのですが、その話題の多くは「膝が痛い」とか病気や健康についてだったんです。
そこでせっかく年金支給日に郵便局に来ても、お金をおろすだけではなく、住民さんに何か一つでもためになる情報などを持ち帰ってもらえないか、ということを考えていました。

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−−そのアイデアが地域おせっかい会議を通じて実現していったのですね。ちなみに、郵便局の皆さんが会議に参加されたのはどういったきっかけだったのでしょう?

 実は一番最初のきっかけは、雲南市と郵便局が地域の見守り活動などを連携する協定を結んだことから、コミュニティナースについて勉強しようと、雲南市内の郵便局の局長全員で講習を受けに行きました。
そこで初めてCommunity Nurse Company株式会社(以下CNC)の、矢田さんや宮本さんと出会いました。その講習の中で出し合ったアイデアの中に、すでに「年金支給日に保健師さんに常駐してもらう」というものがあったんです。
そのあとたまたま、1~2年に一度の雲南市長と郵便局長の協定についての意見交換会がありました。その懇親会に宮本さんと中澤さん(CNC取締役)も参加されていて、そこでもお話をするなかで、「第2回地域おせっかい会議が今度あるので来ませんか?」と誘っていただきました。お酒の勢いもあって「行くわ!」と即答して(笑)、まずは自分が参加し、そこから回を重ねるごとに他の局長も合流していきました。

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−−地域おせっかい会議に参加されてみて、率直な感想を教えてください。

 最初はメンバーの皆さんの多くが医療系だし、お互いが知り合いのようだし、自分たちは畑違いだなという感想を、他の局長含め持っていました。
けれど会議の中でお互いの強みが見えてくるうちに、自分たちの感じていた「業務の中でキャッチした住民さんの健康に関するお困りに、郵便局も何か役に立てないか」という課題感を、皆さんのお力を借りて解決できるかもしれないと感じました。
 私たちは地域の住民さんたちと、日常で関われることが強みです。けど住民さんのお困りをキャッチできても、手が出せない、踏み込めないこともあります。そういう部分も、地域おせっかい会議の皆さんと協力し合えば、もっと住民さんの役に立てるのではと思いました。

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−−「まちの保健室」のアイデアは、どのように実現にいたったのでしょうか?

 最初に12月の地域おせっかい会議で年金支給日の健康相談について話すと、光プロジェクト株式会社の杉村さんがすぐに「用具の貸し出しや運動指導もできるよ」と声をかけてくださいました。そこで開催場所など具体的に話し合い、スペースに余裕のある三刀屋郵便局での開催が決まりました。
 翌月の地域おせっかい会議ではさらに、健康相談やリハビリ器具の体験、リンパマッサージ体験などのアイデアも増えました。そして当日協力してくれる方7名で、個別の打ち合わせも行いながら、2/14の開催に向け準備を進めました。

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−−その準備の間、板倉さんにはある宿題があったと聞きました。

 はい。コミュニティナースの宮本さんから、「局長として今回の場にどういった効果を期待するか。まちの保健室をどんな場にしてほしいか」に答えるという宿題をいただいていました。
 答えはやはり、ずっと思っていた「郵便局に来て、郵便局とは別で役立つ情報を住民さんに持ち帰って欲しい」ということです。それは用事が済んだらパッと帰るだけじゃなく、お茶でも飲みながら住民さん同士で世間話をしたり。そこで健康についての話題が出たら、専門家がその場で相談に乗り、住民さんは教えてもらったことを「帰ってやってみるわ」と持ち帰る。そういう「憩いの場で、なおかつちょっとためになる場所」というイメージを持っていました。

−−当日はどのような様子でしたか?

 まず、保健師さんによる骨密度や血圧等の測定が、順番待ちが出るほど人気でした。骨密度一つとっても、自分の現状を知ってもらうことに繋がっていたようです。参加された皆さんはその後にも、NALU助産院の高木さんからリンパマッサージの話を聞いたり、宮本さんから体操を習って「これなら家でできるわ!」と言っておられる人もいたり。そういう姿をみると、ああ本当にやってよかったなと。こういう場というか、空気感を理想としてたんだなと思いました。
 あとは来ていた人の中で、途中で電話をかけて別の人を誘ってくれたりする場面もあり、来場者数は3時間で約60名という、三刀屋郵便局の催しでは、これまでにない人数でした。

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まちの保健室の様子①

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まちの保健室の様子②

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まちの保健室の様子③

−−来られた住民さんだけでなく、医療のスタッフ側にとってもいい機会だったと伺いました。

 はい。例えば来られた方で足が痛いという方には、コミケアのスタッフさんがすぐにリハビリ用具を持ってきて喋っておられ、そこで今後にもつながる関係ができたようでした。
 また当日来られた保健師さんからは、「普段仕事では時間の制約もあって、本当に困っておられる人のところにしか行けない。けれど本当は、市民の皆さん全員とこういった健康相談をやりたかった。今日はお困り一歩手前のような人たちと、色々話ができてよかった」と言っておられましたね。

−−今回、地域おせっかい会議のメンバーと、お互いどんな強みで協力し合えたと思いますか?

 医療系の皆さんは、健康づくりの専門家です。私たち郵便局員はそっちに関しては素人だけど、医療系の皆さんとは違う地域の人をたくさん知っているんです。医療チームの方が関わる人って、すでに本当に困っている人。
一方、郵便局に来られる人は、中には困っている人もいるかもしれないけど、とりあえず家から出歩くことができて、普段の生活に支障がない人たちだと思います。
私たちはそんな皆さんの顔だったり、時にはデータも持ちえています。
強みのジャンルが違うからこそ、専門家とお困り一歩手前のような人とが、まとまって出会う機会をつくれたと思います。
その結果、住民さんの「ちょっと気になるけど、病院はまだいいかな」という小さな不安を、郵便局で少し解決できたのだと思います。

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 今回まちの保健室に来られた方の「また開催されたら来たい!」という感想に答えるべく、次回開催に向けて試行錯誤を重ねておられる板倉さん。
新型コロナウィルス感染症の影響などもあり、一筋縄では行かなそうだとのことでしたが、感染予防は住民の多くが関心あることだからこそ、その情報提供もできれば、とおっしゃっていました。

「ATMなどでできる手続きが増え、郵便局に来る人はだんだん少なくなっています。それなら郵便局の事業以外にも、住民さんにとって役に立てる場所になりたい。理想は暮らしの相談室。健康のことや生活にまつわることで、どこに聞いたらいいの?に最初に応えれる場所になれたら、と。そのイメージがはっきりすれば、まちの保健室ももう一度できるな、と思っています」
その言葉からは、長年地域の住民さんに寄り添いながら仕事をされてきた「郵便局員」としての、誇りと自信が感じられました。

普段何気なく利用する郵便局の方が、こんなにも住民の健康を気遣ってくれていたなんて。医療の専門家と暮らしを支える人をつなぐ地域おせっかい会議を通じて、元気になるおせっかいを焼く人に町中で出会う日も、そう遠くないかもしれません。

ライター 平井ゆか

まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人を私たちは「コミュニティナース」と呼んでいます。
誰かを喜ばせたい、元気にしたいと願うあなたの思いと行動の第一歩として、全国のコミュニティナースが集うオンラインコミュニティ「コミュニティナース研究所」へご参加ください。
https://cn-laboratory.com/join


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