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Suspended 4thに出会って、”感性の死”から脱出した話

 「大人になると、新しいバンドを探したり、毎週アニメを何本も見たりするのが難しくなるぞ!そういう気力がどんどんなくなっていくぞ!」。高校生のころ、そういった言説をTwitterでよく目にした。そういうツイートはRT数もいいね数も多くて、10代ながらに「これは本当のことなんだろうな」と思っていた。ただその当時は、「仕事を始めたら、時間がなくなるだろうしなー」と、7,8年後のまだ遠い未来のことなんだろうと楽観視していた。

 大学卒業まであと数カ月となったこのごろ、この4年間で新しくハマったミュージシャンがどのくらいいるのかと、ふと考えることがあった。そして驚いた。両手で数えられる程度しかいなかったのである。4年間で。しかもその中に、バンドは1組もいなかった。アニソン、アイドル、洋楽など、浅く広く雑多に音楽を聴くことが趣味とはいえ、やはり自分の音楽好きの原点は邦ロックであると思っていた。この4年で新しくハマったバンドがいなかったという事実には、自分自身驚かされた。

 最近のバンドが全く分からなくなったわけではないと思う。ラジオやYouTubeから好みの曲が流れてきたら、誰のどの曲であるか調べて、繰り返し聴いたりもする。ただ、「他にどんな曲を作っているんだろう?」という好奇心や、「アルバムを聴いてみよう」という意欲は、10代のころに比べて大幅に失われてしまった。この4年間で、名前しか知らないバンド、代表曲数曲しか知らないバンドがかなり増えた。

 そんなことを考えていたとき、フルカワユタカ氏が自身のコラムにてこのようなことを書いていた。

"20歳の時に聴く音楽は14歳の時のそれの半分ほどの影響しか与えられない。"

 「大人になると、新しいバンドを探するのが難しくなる」というのは、遠い未来の話ではなかった。高校を卒業してわずか2年の20歳の時点で、"感性の死"は確実に近付いてきているのである。

 ただこの4年間、音楽リスナーとしての私の人生は非常に充実していた。中高時代に大好きになったバンドが、いまだにかっこ良かったからである。ユニコーンは精力的に活動を続けてくれて、ライブでは5人が集まって演奏することの楽しさがひしひしと伝わってきた。the band apartは、ライブに行くたびに他のバンドでは味わえない高揚感を味わわせてくれた。50歳を超えてもチバユウスケとウエノコウジは死ぬほどかっこ良かったし、クハラカズユキのブログはおもしろかった。(一応補足しておくと、ドラマーとしてキュウちゃん大好きですからね!!)去年はストレテナー、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLEGARDENのスリーマンツアーが実現して、今年はついに私がバンドにハマるきっかけとなった東京事変が"再生"した。例を挙げればキリがない。幸いなことに、「このバンドは昔の方が好きだった」という経験をすることがあまりなかったのである。昔から好きであったミュージシャンの活動を追っていれば、それだけで十分楽しい音楽ライフを送ることができていた。

 前置きで1000字以上書いてしまった。Suspended 4thというバンドの存在を知ったのは、推しの職業作曲家のツイートがきっかけであった。

   そのツイートをきっかけにして、サスフォーにハマるフォロワーさんの姿を見てきたし、去年はいろんな媒体でサスフォーの名前を目にした。それでも1年強の間、私にとってサスフォーは「名前だけ知っている、最近売れ始めているバンド」であった。「推しが好きだから、趣味の合うフォロワーさんが好きだから、ちょっと聴いてみよう」という気力すら、当時の私は失っていた。

 2020年1月13日。推しがまたサスフォー関連のツイートをしていた。これまでの私だったら、「翔本当にサスフォー好きなんだな。いつか聴かないとな~」と思う程度で終わっていたであろう。だがそのときは、授業料がもったいないから余分に取った、卒業に必要のない授業の課題が面倒くさかったからか、なんとなくそのYouTubeのリンクを開いた。

 開いた瞬間に、目と耳を疑った。「なんだこのスラップは!!!!!」。中学生のとき、初めて日向秀和のベースプレイを聴いたとき以来の衝撃だった。「このバンドはただものじゃない」と、動画開始数秒で確信している自分がいた。バンドの楽曲を聴いてこんなにも強く衝撃を受けたのは、本当に久々だった。

 そこからの8分間は、あっという間に過ぎていった。「上手のギター絶対アベフトシ好きじゃん推す~~~」「下手のギターめちゃくちゃうまいな、えっボーカルなん!?声もいい!」「途中から曲調が変わったけど、まさか違う曲…? incl.VENETZIAってそういうこと…??」「演奏はみんな好き放題やっているのにメロはキャッチーで、このギャップがすごくいいな」「あれ…、なんかドラムめちゃくちゃすごくなかった…?(コメント欄を見る)え!!?20歳!!!??年下!!!!???」―。こう言語化するとあまりにも陳腐になってしまったが、とにかくこの動画を見ていた8分間、様々な感情が私の中をめまぐるしく駆け巡っていったのである。

 そこからは無我夢中だった。サスフォー公式YouTubeチャンネルとTwitterがアップしている動画を一気に全部見たり、ウェブ上のインタビューやライブレポを見付けられるだけ全部読んだりした。

(ちなみにこの動画が編集含めて一番好きでした。むうさんのバカテクスラップ本当にすごい…!)

 現段階で手に入った音源は、何度も繰り返し繰り返し聴いた。よっぽどそのバンドのことが好きにならないと覚えることないメンバーの個人名も、すぐに覚えた。

 このときの私は、これまでの新しいものに触れる気力を失っていた自分とは、明らかに違っていた。「新しいバンドにハマっていくことって、そういえばめちゃくちゃ楽しかったな」。未知のものを発見して深掘りしていくこと、未知のものが既知になることの楽しさを、久々に実感していた。20代になって死んでいた"感性"が生き返ってきたという感覚が、自分でも強く感じられた。

 「ライブが見たい」。サスフォーについて知れば知るほど、その思いは強くなっていった。どうやらこのバンドは、CD音源とライブアレンジが結構違うらしい。「ライブ=CDとは異なるアレンジを聴く場」と事変に刷り込まれてきた私にとって、それはとても魅力的なことであった。「そういえば、2月にバンアパと対バンするのでは!」。

 アジゴシのライブ予定ページをブクマして、定期的に更新されていないか確認している身として、(新しいライブが決まったら、ひっそりとこのページが更新されるだけのバンドなのです、バンアパは…。)そのライブの存在について知ってはいた。ただ1,3月にすでにバンアパのライブを見る予定があり、わざわざ名古屋まで遠征することもないだろうと、情報解禁時の私は思っていた。でも、今は意味合いが異なってくる。大好きなバンアパと激ハマりしているサスフォーが対バンするのである。ダメ元チケットを探してみると、どこも予定枚数終了になっていたが、ぴあで1枚リセールが売られていた。2/1はまだ東京にいる。(めちゃくちゃ私的事情の話になりますが、2/10に実家の広島に引っ越すのです。だから東京公演は、引っ越し前日で参加が難しいのです。そもそもチケットソールドしているけど。)東京から名古屋なら、往復バスを使えば1万円もかからず移動できる。これは遠征するしかない!

 結局私は、引っ越し1週間前に名古屋までライブを見に行く決断をした。そして、列伝ツアーの地元公演のチケットも取った。2月は2回サスフォーのライブを見られることになる。若手バンドを月2で見るなんて、もはや初めてなのではないだろうか。今から楽しみで仕方がない。

 20歳のときに聴く音楽は、14歳のときに聴いた音楽の半分ほどの影響しか与えられないという。おそらくこの言説は間違っていないし、生きていく以上"感性の死"には抗うことはできない。それでも、私が22歳で出会ったSuspended 4thは、14歳で出会った東京事変やユニコーンなどと同じぐらい大切なバンドになる。そんな予感がしている。

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