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【百木田家の古書暮らし1巻感想】冬目景『イエスタデイをうたって』以来の恋愛群像劇を描く

この世の漫画のキャラで最も「ああーこじらせているなあ…」と感じる人物は、『イエスタデイをうたって』の森ノ目榀子だと思っていた。
百木田カラキダ家の古書暮らし』を読むまでは。


森ノ目榀子よりもやべえ女、現る

以前アニメ『イエスタデイをうたって』の感想を書いたときにも触れたが、私は読者からの評判がすこぶる悪かった森ノ目榀子という女性が非常に好きである。

未亡人にすらなれなかった、恋仲にすらなれなかった、過去の恋愛を捨てられない女性。
「地雷」とも評されるその不安定さが、私にはとても魅力的に映った。
そして、榀子以上に恋愛感情をこじらせためんどくせえ(私目線では誉め言葉)女は、今後漫画やアニメの世界で出会うことはないだろうと思っていた。

先日、冬目景先生の新作『百木田家の古書暮らし』第1巻が発売された。
冬目先生にとっては、『イエスタデイをうたって』以来の恋愛群像劇ということで、イエスタデイファンの私は、試し読みもせず無条件で第1巻を購入した。

ストーリーを一言でいえば、「亡き祖父が残した神保町の古書店を次女が継ぎ、そのお店に三姉妹が暮らす」という感じであろうか。
取材に裏打ちされた古書店経営に関する細やかな描写と、三姉妹の恋愛模様が物語の軸となっている。
そしてその三姉妹のうち、長女のイチカが榀子の比じゃないぐらいやべえ女なのである。

※以下2話以降の内容のネタバレを含むため、試し読みできる1話以上の情報を見たくないという人は、引き返してほしい。

このイチカという女は、バツイチらしい。
イチカには学生時代から長年片思いをしている都築という先輩がいたものの、それを承知の上で元夫は彼女にプロポーズした。
しかし「都築先輩のことがやっぱり忘れられない」という理由で、2人は離婚。
イチカは、「あんなにいい人を傷つけてまで片思いを優先する、自分の愚かさに自己嫌悪」することになる。

…やばくないか!!!!!!!!!!?????????????????
私は1人単行本を読みながら思わず、「やべえ女キタアアアアアアアアア」と興奮して絶叫してしまった。
死んだ幼なじみをずっと忘れられない森ノ目榀子とかいう女より全然やべえよ、あんた。
あー-------------たまんねえー-------------(語彙力)。

冬目景作品に出てくるこじらせキャラの行動原理

これまで散々名前を挙げてきた榀子にしろ、莉緒との同棲を解消するほど榀子のことが忘れられなかった浪くんにしろ、冬目先生の恋愛漫画には、「いやお前、なんでそんな行動とんねん」と客観的に見るとツッコみたくなるようなこじらせキャラが多いように感じる。
今回『百木田家の古書暮らし』を読んで、その行動原理が少し理解できたように感じた。

今作品第2話で、イチカが以下のような言葉を発する。

否応無しに正常な判断力を奪っていくのが恋愛の怖いところだよ

『百木田家の古書暮らし』第2話

そう、榀子も、浪も、イチカも、その他キャラも、恋愛感情のせいで正常な判断力が奪われているのである。
そんな正常な判断力が奪われているキャラの言動を、

理解できない 共感度ゼロ

『百木田家の古書暮らし』第2話

と、百木田家次女のツグミのように思いながら傍観するのが、冬目景作品の楽しみ方なのではないだろうか。

会っても会わなくてもツラいんなら会えば?
だってもう会わなければ忘れるってレベルじゃないじゃん
こうなってみたらとことん極めてみたら?片思い
絶望的な恋の果てには何が見えるのか教えてよ

『百木田家の古書暮らし』第3話

イチカの都築先輩に対する「絶望的な恋の果て」を、最後まで見届けていきたい。
1巻を最後まで読み終えて、切にそう思っている。

なお、個人的に刺さったイチカを中心に感想を書いてしまったが、ツグミと三女のミノルの恋愛事情もなかなか一筋縄ではいかなそうなので、ぜひ実際に読んでみてほしい。

また特に紙のコミックスはかなりこだわった装丁になっているので、ぜひ手に入れていただきたい。

なお、2巻は2022年夏頃に発売されるとな。(刊行ペースが正常だ!)


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