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早稲田大学でサンキュータツオさんの演習を履修し、キュウの漫才を見たり、大喜利をしたりしていた頃の話

早稲田大学文化構想学部の授業

私が在籍していた早稲田大学文化構想学部には、一風変わった講義や演習がたくさんあった。

どのくらい変かというと、4年間で「内田裕也の政見放送を見て感想を述べさせられる」という授業に3回遭遇した。
(そのうちの1回は、先日亡くなった宮沢章夫先生の講義だった。)

3回とも「I don't have no idea.」のところで、教室が笑いに包まれたのを覚えている。なんだよ「I don't have no idea.」って。言うなら「I have no idea.」だろ。都知事選に出馬するのに「no idea」じゃ駄目だろ。あと「I was born in Kobe, 1999」も大好き。未来人か???????そして最後に尺を持て余して、無言でカメラを見つめているところも最高。

……なんで全編英語なんだよ!!!!!!!!!

冒頭から話がそれてしまったが、これ以外にもJ-POPの歌詞を考察する講義や、オタクの教授が深夜アニメ語りをする講義など、挙げれば枚挙にいとまがないほど、奇特な授業がたくさんあった。

「親に高い学費を払わせて、何を学びに行っているんだ」と指摘されてしまうと、まあ正直ぐうの音も出ない。
実際文化構想学部は、その自由な授業内容と卒業に必須となるコマ数の少なさから、「あそ文構」とも揶揄されている。

大学4年時に受講したサンキュータツオさんの演習

そんな学部で4年間過ごした中で、最も印象に残っている授業は、漫才師「米粒写経」として活動しながら複数の大学で非常勤講師をしているサンキュータツオさんの演習であった。

「東京ポッド許可局」や「熱量と文字数」といった番組をよく聴いていた私は、元からタツオさんのファンだった。
お笑い、アニメ、落語、国語辞典と、自分と趣味があまりにも合っていて、大変親近感を覚えたのである。
そして好きが高じて、大学2年生の時には早稲田祭にタツオさんを呼んだりもした。

(ちなみにMCは後輩にやらせたので、私は末廣さんではない。)

タツオさんの演習は、「笑いと語りの文学」というテーマで行われていた。

この演習では、笑いとテキストの研究にまつわる諸問題を整理します。
笑いは身近なテーマでありながら、心理学、哲学、社会学、言語学などが横断的に乗り入れるテーマです。
自分の身の回りで起こったこと、見かけたこと、読んだものなどといったものなどから、どこにおもしろみを見出したか発表してもらうことを通して、テキストの扱い方と、笑いの研究の諸問題を明らかにしていきます。
ぬるい覚悟の方は来ないでください。
エンタメではなくガチの授業です。

シラバスより

発表の課題

演習では、半期の間に人前での発表とレポートの提出があった。
当時大田プロの事務所ライブに毎月通っていた私は、前者については納言の街disについて発表した。

当時作ったパワポがドライブに残っていたので、デジタルタトゥーを覚悟で引っ張り出してみた。
私自身が地方出身だったこともあり、「地方在住民が、東京のdisで笑えるのか」というテーマで発表を行った。
確かタツオさんからは、「基本的には、東京になじみがなくても笑えると思うよ」といった(これはあくまで概要で、さすがにもうちょっと芯を食った講評だったと思う)コメントをいただいた。
しかし私は、「それはタツオさんが東京出身だからそう思うのでは???」と、内心毒づいた記憶がある(タツオさんごめんなさい)。

レポートの課題

レポートについては、M-1の敗者復活で初めてネタを見て以降激ハマりしていたラランドの「はじめてのおつかい」を全文書き起こして発話分析をした。
当時の私は若手男女コンビにハマっていたのだろうか???

誰も興味がないとは思うが、こちらも実際に提出したものをネットの海に投下しておこうと思う。
発話分析をすることによって、無能だと思っていた(超絶失礼)ニシダのツッコミが、ラランドの漫才において結構重要な役割を果たしているのだなという気付きを得られた。

「このネタ面白いな」と思ったら、どうやってできてんのやろ?ってノートに全部バーって書いてました。
ここの振りでこのボケが生きてるんだとか、ソレのパターンを盗んで書いたりとか。
M-1でも各組のボケ数を数えて、決勝いってる人は30個以上ボケあんな、準決勝は全員30いってないなとか。
書き起こしてパターンを洗い出して。

1日2000ボケ。生きてる時間全部大喜利に使っていた『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキの正体

ちなみにかの有名なツキヤタカユキさんも、ネタの書き起こしをしていたとのこと。
この演習を通じて、発話分析の有効性を身を持って体感した。

キュウの漫才を見るという演習

全15回の演習の中で、特に印象に残っている回が2つある。
1つ目は、今年のM-1ファイナリストにも選ばれたキュウが早稲田のキャンパスまでやってきて、狭い教室で漫才を披露してくれた回である。

タツオさんは、キュウのことを「彼らの漫才が、M-1では3回戦止まりという評価なのが悔しい」と紹介していた。

毎週最前列で演習を受ける意識高い系学生だった私は、位置取り的にキュウの漫才を真横から見ることになった。
「袖でネタを見るを見る芸人さんの視界は、こんな感じなのかな」などと、馬鹿みたいなことを考えながら、私は至近距離でキュウのルパンの漫才を見た。

僕笑いの授業を早稲田大学で学生相手にやっていて。3年前にキュウにネタをやってもらったんだけど、(学生は)キョトンとしていましたね。

TBSラジオ 東京ポッド許可局 キュウ論
サンキュータツオさんの発言

ちょうどM-1前日の許可局でタツオさんが上記のような発言をしていたのだが、正直確かにバカウケしていた印象はない。
私自身も一人だけ爆笑する勇気がなく、大人しく漫才を見ていた。

漫才を披露後、キュウへの質問コーナーが設けられたので、オタク特有の早口で質問してしまったことを覚えている。
「一つ前の出順の芸人が明るく楽しいタイプのネタをやっていると、やりにくくないですか?」
という私の質問に対し、
「自分たちは出てきた瞬間に、場の空気を変えられる自信があるので、やりにくくないです」
と、ぴろさんが誇りを持って答えてくださった
のが、とてもかっこ良かった。

広島お笑いLIVE ワンチャン
広島お笑いLIVE ワンチャン

その演習の2カ月後、大学の授業が終わり実家の広島にUターンした矢先、たまたまキュウが広島でライブをする機会があった。

キュウのサイン
キュウのサイン

ワーキャークソ女なので、ライブ後に「早稲田の演習受けていました!面白かったです」と言って、サインをもらった。
サインペンのインクが切れてしまったので、ボールペンでサインをもらった(クソ客過ぎる)。

大喜利をするという演習

もう一つ印象に残っているのは、受講生で大喜利をするという回である。

演習の終盤に、タツオさんから「こんなおかあさんといっしょは嫌だ」というお題が出された(多分)。
演習後に受講生が毎回提出するコメントシートに回答を書き、翌週の演習で面白いものを発表していくという。

正直、大喜利なんて私にはできないと思っていた。
お笑いとお笑いラジオが大好きだった私は、「大喜利=芸人さんとハガキ職人さんのもの」というイメージをいつの間にか持ってしまっていた。
大喜利のことを、「ワーキャー女が立ち入ってはいけない神聖なもの」と勝手ながらに思っていたのである。

でもタツオさんは、「大喜利はコツさえ知っていれば簡単」と言った。
普通の回答からどこかをずらす」。
コツはこれだけだという。

大喜利なんてやりたくない。
でも、コメントシートに回答を書かないと帰れない。
悩みに悩んだ挙句、私は「おかあさんといっしょ」のロゴを描き、「おかあさん」の部分を「ジンベイザメ」に変えて提出した。

ジンベイザメと一緒
さすがに当時のコメントシートは残っていないので、急ピッチで今書いた。クオリティー……

翌週の演習で、タツオさんが選んだ回答が発表されていった。
そのうちの一つに、私の回答も含まれていた。
私のコメントシートがプロジェクターに投影されると、教室からクスクスという小さな笑い声が聞こえた。泣きそうになるほどうれしかった

タツオさんからは、「コメントシートの上の方にイラストを描いてしまったのが減点。大喜利でも、回答はフリップの真ん中に書くでしょう。余白をうまく使えると、よりいいでしょう」という、かなり的確なアドバイスをいただいた。

「この経験を機に、私は有名ハガキ職人として名をはせるようになった」といったエピソードがあれば、きれいなオチがついたのだが、さすがにそんなことはない。
それでも、これまで「私の出る幕じゃないな」と勝手に思っていたラジオの大喜利コーナーに、今では気軽に投稿できるようになった(採用されるかどうかはもちろん別問題)。

挑戦する前から諦めては駄目だ」。
そんなことは本当に当たり前で、誰だって頭で理解はしていると思う。
でも実際は、挑戦する前に諦めることの方が、人生多かったと思う。

私はこの大喜利の演習をきっかけに、自分の中で勝手にハードルを設けて挑戦しない愚かさを、身をもって知ることができた。
タツオさんの演習を受けて、この気付きを得られて、本当に良かったと今でも思っている。

早稲田大学文化構想学部には、一風変わった講義や演習がたくさんある。
そんな文化構想学部は、その自由な授業内容と卒業に必須となるコマ数の少なさから、「あそ文構」とも揶揄されている。

でも私は、そんな「あそ文構」で受けた3年も前に受講した演習について、今4000字書いている。
だから私は、こう言いたい。
「あそ文構」も、捨てたもんじゃないよ。

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