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やじろべえ日記 No40 「迷子」

「やっぱり…市村さん,なんか様子変だね。」
「そう…ですね。やっぱり,気にしてるんですかね…」
「…やっぱり,『期待外れ』って言われるの,こたえただろうね…」

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私は野良のキーボード弾きである。といっても今日は一緒にセッションしているメンツが自主練習を買って出たので私も部屋で自主練することにした次第だ。
今練習しているのはお世話になっているセッション仲間の浅井さん,伏見さんとやるセッションの曲だ。一応あらましを説明すると先日ドラマーで浅井さんの友達である戸村さんとセッションを行ったのだがどうも戸村さんのお眼鏡にかなわなかったようだった。それを二人に話したところなぜか二人は怒り出し,戸村さんを見返すためのセッションを行うことにした…という話だ。

期待外れ,か。

『どうして昨日と同じようにやってくれないの』
『毎日変えられるとやりにくい。』
『その演奏じゃあ,安定したセッションはできないでしょう。』
浅井さんと出会う前,サークル仲間に再三言われたことだ。もとい,サークルは現在離脱したわけだが,あの時言われたことはそうそう簡単には消えない。期待に添えないことが心苦しいのはわかっていた。それを考慮してもここまでやられているとは。

そもそも論として振り返るが,戸村さんとのセッションは今までとどことなく違う。戸村さんは確かに私に何かを期待していたようなのだ。ただ「自分に合わせること」を期待していたわけではない。あの口ぶりからして確かなのはそれだけだ。

何を期待していた?期待していた理由は?私が人前でここの所演奏したのは数えるほどしかない。一つは浅井さんリクエストで行った公園リサイタル。二つ目は即興で伏見さんとやった公園セッション。観客がいたのは全く意図していなかったが。そして三つめはこの間3人でやったあのセッション。戸村さんにセッションを持ち掛けられたタイミングを考えても,戸村さんに何かしらの期待をさせたのは三つめだろう。

ただ,だとしたら何を期待したのだ?

確かにあの演奏はいい出来栄えだったと思う。私もあの2人と並んでまともにセッションで来たような気がしたのだ。実際あの2人にも好評だった。ただ,あのセッションを見て私に注目する要素があるのかといわれると…正直わからない。

まず選曲の大半だがボーカルが目立つ曲が多かった。だからうまさの注目が集まるのはどうしたってボーカルになる。そして中間でやった蝶の曲。あれはひたすら私はアルペジオの曲だ。主旋律は主に伏見さん。となれば私が目立つ要素はほぼ皆無だ。

あのセッションを見て私に着目した,その理由がわかれば。彼の『期待したこと』がわかるのではないか。

ただ,結局のところまた会うのも気まずいので真相を確かめるすべもないのだ。あーあと肩を落として私は練習にもどったのだった。

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