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やじろべえ日記 No31 「唐突」

わたしは野良のキーボード弾きである。といっても今日はキーボードを持っていない。

先日あった本番の打ち上げが今日なのだ。それで私は会場へ向かっていた。あの本番から数日が経ったが,私はあの時のことが忘れられなくなっている。

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先日退いたサークルで孤立した挙句公園で弾いていた私に声をかけてくれたのがそもそもの発端だった。私はその時は誰でもいいかと思ってセッションをしたが,その時声をかけた浅井さんがなかなか合わせがうまい人だったのでいい感じのセッションになった。

その数日後に今度は公園で演奏してた伏見さんとセッションすることに。この人は何だが勢いで私と一緒に演奏してくれるようになった。

それで数日前の本番に至る。伏見さんと浅井さんの間に緊張が走った時はどうなるかと思ったが最終的に何とかなったのは幸運だろう。

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打ち上げ会場につくと伏見さんがもう来ていた。

「市村さん,こんにちは。」

市村さんというのは私のことである。

「伏見さん,こんにちは。数日会ってないだけなのでずいぶん会ってなかったように感じるね。」
「はい。ただ…」
伏見さんが会場に目をやるとそこにはなかなか盛り上がっている会場だった。
「皆さんは…もうテンションが上がっているようです。」

会場に入ると浅井さんがのりのりでコーラを飲んでいた。

「浅井さん,今日はコーラなんですね。」
「真昼間からお酒飲むわけにもいかないしねえ。」
「それにしても皆さんすごい盛り上がりですねえ。こんなテンションになれない…」
「君はそうだろうねえ。まあ気楽にしゃべってくれていいよ。」

お言葉に甘えて私はアイスティーを飲むことにした。そうしているとなんだか賑やかな声が聴こえてきた。

「うおー,建成じゃないか!久しぶり!」
なんだか元気な人が乱入してきた。建成というのは浅井さんの名前である。
「うおお陸人!久しぶりだなあ。お前参加してたっけ?」
「してたさ!といってもあるチームの手伝いだけどな。…あれ?この間一緒にセッションしてた人?」

唐突に話しかけてくるな…とおもった瞬間,浅井さんが気をきかせて紹介してくれた。

「市村さん,こちら戸村陸人(とむらりくと)。ドラムやってるやつ。」
「こんにちは!初めまして!戸村です!この間の演奏見てたよ!ほんとすごかったね。なんというかぱっと見そこまで力がなさそうなのに,演奏始まると支配者になるというか。」
それはなんか悪役っぽくないだろうか。
「陸人,お前それほめているのか?」
「え?誉め言葉に聞こえない?」
「全く。聞きようによってはむしろけなしていると思われそうだ。」
そんなあと戸村さんは頭を抱える。浅井さんとのこのテンション,どう見ても友人だろう。
「あのう,お二人で話すこともあるでしょうし,自分はほかのところ行きますか?」
「ああ,そうしなくていいよ!俺君に用があってきたから。」
戸村さんは私の目の前に座りなおす。

「市村さんだったよね!今度セッションしようよ!」

…唐突すぎたため私は言葉を失った。

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