拡大するMLB年俸と一般賃金との「格差」

高給獲りのイメージが定着したMLB。一般の市民と比較して、そのサラリーの水準はうらやむほど高く、格差があるのは言うまでもない。
一方、昨今よく言われていることの1つとして、富裕層に資産や富が集中し、それ以外の層との間で経済格差が拡大していることが挙げられる。

MLBの選手のサラリーと一般の市民の給料との差も、昨今の貧富の差と同様、明らかに大きな拡大傾向にある。数字をみると、日本の一般市民とMLB選手との「格差」は、この20年ほどで、おおむね3倍近く拡大したことになる。

右肩上がりのMLB年俸

MLBの年俸総額や平均年俸はどのくらいで、どのように推移してきたのか。また、一般的な平均賃金の推移と比較してどうなのか。

FORBESによれば、MLB選手の年俸総額の推移は以下の通りで、2018年時点の総額は約45億4,800万ドル。2004~2005年、2010年、2018年を除けば、おおむね右肩上がりで推移している。

(参考)
Maury Brown
MLB Spent Less On Player Salaries Despite Record Revenues In 2018
https://www.forbes.com/sites/maurybrown/2019/01/11/economic-data-shows-mlb-spent-less-on-player-salaries-compared-to-revenues-in-2018/#1c2acbf939d7

前年比でいえば、2001年、2013年は約20%、2003年、2006年は15%強の上昇を示している。そして、大幅な上昇があった後に上昇幅が縮小に向かうかあるいは減少する、という傾向もある。2004年~2005年の下落は、2003年の上昇の反動、2006年の上昇はその直前の下落の反動ともいえる。2006年~2013年の間の推移は、2008年のリーマンショックの影響も少なからず作用しているはずだ。それでもなお、大幅な下落にはなっていない。

なお、2018年は、前年に比べ約1億1,500万ドルの減少で、金額ベースでは2004年以来2番目の大きな下げ幅とのことだ。2017年オフ~2018年は、エンカルナシオン、ダルビッシュなどの大型FA選手の契約がなかなか決まらなかった年。この傾向は2018年オフも引き継がれている感じで、1月11日現在、ハーパー、マチャドといった大型FA選手の契約が未だ決まっていない。トレンドで言えば、2013年の大幅な上昇の反動がここにきて来ている感じだ。2019年は横ばいくらいの推移になるのではないか。

1人あたりの平均年俸の推移は以下の通り。以下のMLBPA公開資料(2018 AVERAGRE SALARIES IN MAJOR LEAGUE BASEBALL)に基づいた。
http://www.mlbplayers.com/pdf9/5480505.pdf




当然年俸総額の推移と傾向は似通ってくるわけだが、2000年(前年比+17.3%)、2001年(同+12.9%)、2013年(同+12.9%)、2006年(同+9.0%)の上昇幅が大きくなっている。2017年~2018年は微減だった。

一般的な賃金水準との「格差」が拡大

一般的な平均賃金の推移と比較した場合、MLB選手の年俸総額や平均年俸は、圧倒的に大きな伸びを示し、いわば庶民との「格差」が拡大している。

以下、1999年を1とした、MLB選手の年俸総額や平均年俸、アメリカ・日本の平均賃金の推移を比較してみた。平均賃金は現地通貨ベース。OECDのデータに基づいた。



結果は一目瞭然。比較可能な2017年の値は、MLB選手の年俸総額は3.19、平均年俸は2.53になるのに対し、アメリカの平均賃金は1.65、日本の平均賃金は0.92。アメリカの平均賃金は概ね上昇傾向、日本の平均賃金は緩やかな下落傾向にあるのに対し、MLB選手の年俸総額や平均年俸は、全体に、次元の違う上昇を示している。一方、MLB選手の年俸総額は、年による振れ幅も大きい。
一般市民との格差は、この20年間ほどで、アメリカのそれと比較した場合1.5倍、日本のそれと比較した場合3倍近くに拡がった(通貨レートは考慮外として)、ということになるか。

MLB選手のサラリーの上昇には、有力選手に対する需要の高まりのほか、その裏付けとなる原資も当然必要。MLBは、ビジネスの拡大により、収入の増加に成功した。詳細はここでは割愛するが、簡潔に書くと、TV放映権料の増大、デジタルコンテンツの展開(アメリカ外の視聴者も対象としたネット中継「MLB.TV」など)、グッズ収入が大きな要因となっている。これができた背景には、MLB機構が収入を一元的に管理するシステムを構築したことがある。いわゆる「ぜいたく税」(Luxury Tax)の導入もそうだ。

50%台:選手の「人件費」の収入に対する比率

MLB選手及びマイナー選手の年俸の、球団収入に対する比率の推移、すなわち、収入に対する選手の「人件費」の割合の推移は、以下の通りで、50%台での推移を続けている。

(出典)
Maury Brown
Final MLB Payrolls For All 30 Teams Show Second-Largest Decline Since 2004
https://www.forbes.com/sites/maurybrown/2018/12/17/final-mlb-payrolls-for-all-30-teams-show-second-largest-decline-since-2004/#7b9c9d5be474


球団職員への人件費を含めれば、経営上の人件費はもっと上がるはずだ。
一般的な企業の数字と比較した場合、多くのサービス業に近い高い数字。MLBの場合、設備投資一番大事なのは個々の選手のパフォーマンスであり、有力選手には相応のサラリーを支払う必要があるので、当然選手のサラリーの比率は高くなる。なお、この比率は、3年続けて減少傾向。選手側からは、もっと払えるのではないかという声が出ても不思議ではない。
一般企業の人件費率の例は下記などを参照。
https://blog.sr-inada.jp/keiei/jinkenhiritsu.html

55%以上のものとして、以下のものがある。
キャバクラなど 情報処理サービス 訪問介護、ヘルパー ビルメンテナンス 人材派遣業

他のプロスポーツとの比較はどうなるか。日本のプロ野球(NPB)は、経営データが公開されていないので比較できない。データが公開されているJリーグの場合、2017年度における平均の人件費率は、J1で46.9%、J2で42.7%、J3で32.4%と、MLBより低い数字だった。
(出典は以下の公開資料)
https://www.jleague.jp/docs/aboutj/club-h29kaiji.pdf

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