カミングアウトという名の自由《Club with Sの日 第12回レポ》
ちょうど一年前。
2020年10月11日。
National Coming Out Day
自分はクィアであることをSNSでオープンにした。
もっと早く言ってもよかったのだけど、ちょうどそのタイミングでカミングアウトデーの存在を知り、日付が近いこともあって、その日に合わせて発信することにした。
どんな反応がくるのだろう、とソワソワした。
できるだけ肯定的なメッセージがきたらいいな、と思っていた。
でも実際は
無。
びっくりするくらい無反応だった。
そんなもんか、と感じた。
寂しさよりも虚しさが強かった。
スッキリするかと予想していたのに、カミングアウトという行為にいったい何の意味があるのだろう、とかえって混乱したりもした。
投稿した時、自分は夜の公園にいた。
当時、自分自身と向き合うためにスケボーをやっていて、(実はスケボーって体力面と同じくらい精神面が重要なんだよ)、練習の合間に文章を打ち込んだ。
ベンチに座って、足でコロコロとデッキを滑らせながらiPhoneの投稿ボタンを押した瞬間のことをよく覚えている。
ひとりだった。
カミングアウトする前も、した後も、自分はひとりだった。
ため息だけが秋の夜に取り残された。
2021年9月。
今年もあの日がやってくるな、とカレンダーを眺めながら思った。
かつての自分のように、当日に向けて決意を固めている人がいるのだろう、と想像した。
そして、正直に打ち明けた後、彼らに待ち受ける現実に思いを巡らせた。
もう、誰もひとりにしたくなかった。
もう、誰も無視したくなかった。
直接届かなくても、君のカミングアウトを尊重し、肯定し、共に向き合いたいと願っている人が、今、確かに、ここに、存在している。
その事実を伝えたかった。
方法は知っていた。
2021年10月6日。
久しぶりのClub with Sの日。
テーマは『ノンバイナリーのカミングアウトとは?』
自分はクィアとして、ジェンダー・アイデンティティを大切にしてもらえる居場所を手に入れた。
そして同時に、コミュニティは相手のジェンダーを大切にしたいと表明できる手段でもあった。
「悔しかったこと」「自分が欲しかった、でも手に入らなかったもの」
そういうひとつひとつの実体験がベースとなってClub with Sは形作られているような気がする。
しばらく期間があいたから、ミーティングの始まりは妙に緊張した。
あれ、いつもどんな感じで進めてたっけ?
でも、ここは自分の知る限り世界で一番安全なコミュニティだ。
すぐに感覚を取り戻す。
Club with Sは、息がしやすい。
約一ヶ月間、お休みをいただいた。
前回のミーティングが命に関わるテーマだったこともあり、完全にエネルギーが尽きてしまった。
簡単には立ち直れないくらい身も心もむき出しにして挑んだ時間を、これから超えることなんてできるのだろうか?
Club with Sが活動したって世界は何も変わらないのに、僕らは本当の意味で誰かをサポートできているのだろうか?
コミュニティの存在意義を何度も何度も自問自答した。
一度冷静になりたくて、生活の中で日本語を遮断したりもした。
その代わり、英語で様々な国の人達とお話した。
彼らは本当に自分を肯定してくれた。
自分がノンバイナリーであることを知っているにもかかわらず。
あまりにも繰り返し過度に褒めてくれるから、舞い上がりすぎて、一周まわって眠れなくなった(笑)
自信を喪失していた自分に、彼らが様々な表現で伝えてくれたメッセージ、それは
You are special in your own way
あれ、これ、どこかで聞いたことある。
Club with Sだ。
立ち上げた時、一番最初に投稿したnoteで届けたメッセージだ。
相手がジェンダー・マイノリティだと知った上で全力で肯定する。
これもClub with Sだ。
僕らが今までやってきたこと、その意味に、その可能性に、今やっと気付いた。
過去を超えなくていい。
なぜなら、超えることが目的じゃないから。
たくさんの人を救えなくていい。
なぜなら、大切なことは数字じゃないから。
僕らは、“変わらない”という正解を選んだ。
We are who we are
そして、これからも同じメッセージをいろんな方法で伝え続ける。
カミングアウトした人へ。
僕らはきっと君のことが好きだ。
とても勇敢だと思う。
そして、LGBTQ+の中でも特に認知されていないマイノリティなら、カミングアウト後もたくさんの障壁があったにちがいない。
自分も、プロフィールにはっきりと記載しても、何度もミスジェンダリングされたり、その度に説明しなきゃいけなくてうんざりした。
カミングアウトが一回じゃ終わらないことほどキツいものはない。
だからこそ、そのすべての行動を、尊敬している。
君が君自身のジェンダーやセクシュアリティをオープンにすることで、世界のどこかにいる当事者が確実に救われている。
本当にすごいことをやっているよ!!
今からカミングアウトする人へ。
僕らはきっと君のことが好きだ。
たくさん悩んだと思う。
たくさん迷ったと思う。
カミングアウトという一瞬の行動だけでなく、そこに至るまでの葛藤を尊重したい。
だって、考え続けるって体力や集中力のいることだし、才能だと思う。
もしかしたらすぐに決断できない自分を責めているかもしれないけど、それは君がたくさんの視点や深い洞察力を持っている証拠だから。
君の想像力が羨ましい。
まだカミングアウトしていない人へ。
僕らはきっと君のことが好きだ。
そして、これは本当に大切なことだからはっきり書いておきたいのだけど、僕らは君にカミングアウトを求めない。
カミングアウトを推奨したくてこの文章を書いているわけじゃない。
それは、君の自由だから。
だから、焦らなくていい。
カミングアウトしてもしなくても、君がクィアであるという事実は変わらないし、その事実こそ特別だと思っている。
ジェンダーやセクシュアリティの前に、君自身と話がしたい。
君は“カミングアウト”という名の自由を守り続けてほしい。
そのために、なにか僕らにできることはある?
ミーティング中、カミングアウトについて語りながら、自分はひとりじゃなかった。
ノンバイナリーをオープンにして、素敵な出会いがあった。
「実は自分も……」と打ち明けてくれる人もいた。
カミングアウトが誰かとの関係性の“終わり”ではなく“始まり”となったらいい。
Club with Sはそんな願いの実現を目指している。
ミーティング終了後。
あの日のため息はいつの間にか消えていた。
最後に。
Club with Sの再開を待ってくださった方、再開後もミーティングに参加してくださった方には感謝してもしきれない。
確かにコミュニティを始めたのは僕らだけど、続けてくれているのは君たちだ。
居場所を守ってくれてありがとう。
読んでくださってありがとうございます。いただいたサポートは【Club with S】運営メンバーがジェンダー論を学ぶ学費(主に書籍代)に使わせていただきます。