愛の不時着と「火」


こんにちは。

愛の不時着、2周年おめでたいですね〜(大遅刻)

というかこれを書いている間にヒョンビンさんとイェジンさんがご結婚なさいましたね おめでとうございます…!!!!

全国遅筆選手権3位くらいのわたしは去年2月からこのnoteを書いていましたが、お祝いのためにやっと完成させました 例によって愛の不時着が好きすぎる人間が勢いで仕上げたので、大したことは書いてないです!

⚠️愛の不時着本編のネタバレがあります





何度も愛の不時着を見ている中で、ずっと気になっていることがある。これは偶然かもしれないし、何の裏付けもないけれど、ひとつの感想というか、新しい視点として読んでもらえたら嬉しい。

それというのは、タイトルにもある「火」だ。あの有名な焚き火のシーンをはじめ、愛の不時着には多数、ジョンヒョクとセリ、または他の登場人物が火のそばで話すシーンがある。更に、幼い頃見つけてもらえなかった夜の浜辺から、セリを縛り続けていたあの夜から解放してくれたのもまた、ジョンヒョクが灯して目印にしてくれたアロマキャンドルの火だった。

その火が、なんらかの変化を見ている人に与えて、その人に口を開くチャンスを与えているように見える。このnoteではいくつかの火にまつわるシーンをあげて、それについて見ていこうかなと。


2話:停電後のろうそく

ここは、初めてジョンヒョクとセリが共にろうそくの「火」を囲むことになるシーン。そして、2人はこんな会話をする。

セリ「株って知ってる?…知らないわよね。たった一日で価格が数百億ウォンも変動するの。投資した30億ウォンがパアになったこともある。だけど、その時よりも悲しい。30億ウォンを失った時より、今のほうがずっと悲しい。だってそうでしょ?全く興味のなかった北朝鮮に来て、知らない人が見てる前で泣くハメになるなんて…イヤになる」
ジョンヒョク「(火を消す)もう見えない、心配するな。災いのあとには幸せが来るものだ。きっと何とかなる」
セリ「本当に?」
ジョンヒョク「本当だ」

北に来たことはお金では買えない良い経験だと、自分に言い聞かせていたセリ。ピョ・チスの"北の悪口"に、"南の悪口"も聞かせようか!と対抗したセリ。ふだん3食のうち2食は肉だから肉を食べさせて!と言って、焼き方にもうるさく注文をつけたセリ。石鹸はどこ?シャンプーは?ボディーウォッシュは?と、ジョンヒョクの職場に鬼電したセリ。北に来てからも、セリはセリらしくずっと強気でいた。だからジョンヒョクも、第五中隊のみんなも、私たち視聴者も、知らずのうちに彼女は大丈夫だと思っていた。そのはずだった。

でもこのシーンは違う。江南だったら非常時以外ありえない停電に見舞われ、頼れる人も近くにいない、電話も繋がらない。そんな状況で、ひとりで不審者に立ち向かおうと花瓶を手にして待っていたら、そこには、初めてこの国でできた知り合いが、自分のためにキャンドルを買ってきてくれた姿がある。今まで気丈に振る舞ってきた、今まで弱音を誰にも吐かなかったセリが、本当は押し込めていた果てしない恐怖と、ジョンヒョクの顔を見て感じた安堵、その押し寄せる感情の波の中で初めて泣く。

株で30億ウォンを失ったときより、今のほうがずっと悲しい。その、今まで誰にも言えなかった、北に不時着したセリの本音が、初めてあらわになる。それが、ジョンヒョクと「火」の前で、なのである。


ジョンヒョクは火を消した後、「災いのあとには幸せが来るものだ」と「断言」する。

アオジ炭鉱に送られるかも!と言うセリに「それはない」と言っておいて、保証するかときかれたら「できない」と答えていたジョンヒョクが。「(保衛部の取り調べ後に)無事に帰してもらえるかも」と言っておいて、帰れない可能性を指摘されたら「仕方ない」と答えていたジョンヒョクが、だ。こうやって、真面目で正直な様子がずっと描かれていた彼が、初めてセリに、確証のない未来のことを断言する。「火」を見た後に。

「火」が、なにかその人の心につっかえていた、言えない気持ちや感情をひきだすトリガーだったとしたら、どうだろう。セリはその「火」をジョンヒョクと囲みながら、自分の、隠していた恐怖や悲しさを初めて言葉にしたわけだ。

そしてジョンヒョク。未来に良い期待をして、裏切られるのが怖いと、そう後に語るジョンヒョク。もう将来に期待などしないと決めていた、その彼が、初めて未来を語るのはここかもしれない。

これはジョンヒョクの、「悪いことの後には良いことがある」って、ただそれだけの慰めや励ましではなくて、決意をした瞬間でもあったのかなと。不確定な未来に対して、決意をする勇気を引き出すのを、火がちょっぴり手伝ったんではないだろうか。

そしてその決意というのは、災いの後の幸せを、ジョンヒョクがセリに、約束してあげるという決意なんじゃないだろうかと。

実際には、セリはこの後、幸せどころか、チョルガンに銃をつきつけられたり、船渡しが失敗したり、更なる災難に遭った。「来週には江南のカフェでエスプレッソが飲めるわよね?」ときかれても、ジョンヒョクは気の利いたことひとつ言えなくて、セリに怒られた。

けれどそのかわり、彼は上官に嘘をついて中隊員を家に呼び、貝を買ってきて貝プルコギを振る舞って、セリに思い出をつくった。江南のカフェには行かせてあげられないけれど、コーヒー豆をわざわざ仕入れてもらって、かまどで煎って、手間をかけてセリのためにコーヒーを入れた。そして無事に帰れる手段を探し回って、彼女の幸せを第一に考えて動いていた。

ジョンヒョクは、「災いの後には幸せがくる」を、その手でセリに実現してあげたのだ。未来に期待するのを恐れていたジョンヒョクが、セリのために未来の幸せを断言する。そしてそれを叶えるために行動する。


6話:大同江ビールとキャンドル

平壌・大同江で名物のビールと甘い唐揚げを食べる2人。突如また停電が起こるが、都心部なのですぐに復旧する。その間に店員さんが2人の前にキャンドルを置く。ジョンヒョクの肩に頭を乗せて、重いと言われながら、セリがこう続ける。

セリ「少しだけ我慢して。私の頭が重いのは、頭の中が混乱してるからなの」
ジョンヒョク「帰れるのに、なぜ混乱する?喜べばいいのに」
セリ「幸せなの。幸せだから混乱してるの。だからなの。…何も知らないくせに」

船渡し失敗後には、死んでも構わないから行かせろとまで言ったセリは、待ちに待った帰国を今では手放しで喜べていない自分に混乱している。それは、最初は悪い夢のようだったはずの北での暮らしが、ジョンヒョクと隊員たちのおかげで記念を残したいと思うほどのものになったから。韓国では地位も名誉もお金もあったセリが、唯一持っていなかった居場所を、北で見つけられたから。

一方でセリは、ダンから結婚の日取りを決めたことを告げられている。自分は南での、ジョンヒョクは北での人生があって、それは金輪際交わらないし、交わってはいけないとも分かっている。セリが残したいと思った「記念」も、ジョンヒョクには「理由がない」ものだとわかっている。(本当はジョンヒョクも記念が欲しかったと後々判明するけれど)

帰らなければいけない自分。このまま結婚して幸せな人生を送るはずのジョンヒョク。だから、胸にしまっておこうとした北に対しての前向きな感情を、セリが初めて、言葉にして認める。それはまた、ジョンヒョクとキャンドルの「火」の前なのである。



8話:学校のストーブ

8話、ガソリンのなくなった車を降り、学校のストーブで暖を取る2人は、こんな会話を交わす。

ジョンヒョク「本当にするのか?」
セリ「何を?」
ジョンヒョク「結婚」
セリ「書類上だけよ」
ジョンヒョク「それでも結婚だ」
セリ「しないと帰れないもの」
ジョンヒョク「結婚はそんなふうにすべきじゃない」
セリ「あなたこそ。結婚相手に私のことがばれたみたい。…知ってたの?」
ジョンヒョク「ああ」
セリ「通報されたらどうする気?そしたらあなたの結婚はダメに?」
ジョンヒョク「僕の結婚のことが心配?」
セリ「人生が心配なの。あなたの人生が台無しになってしまいそうで、それがイヤなの」

セリは、本当はジョンヒョクのことが好きで、心配でたまらない。けれど、スンジュンに「ここで生きるしかない人に迷惑をかけるな」と言われたように、ジョンヒョクを突き放さなくてはならないことも分かっている。車で迎えに来たときも「勘違いしないで」と釘をさしている。そうでもしなければ、ジョンヒョクはセリのために危険な行動すらしてしまうと知っているし、自分も彼への感情をいつまでも捨てられない。突き放されたジョンヒョクも、それら全てを了解していて、その上でセリが安全に帰れるならと、ひとりで来た道を戻ろうとする。ふたりはお互いへの本当の気持ちを、相手の幸せのために、隠し、犠牲にするつもりだった。

けれど、ガソリンの入っていない車を降り、学校のストーブで暖を取る2人は、こんな会話をした。お互いが、お互いのために飲み込んでいた言葉が、ぽつりぽつりと溢れて交わされている。

ジョンヒョクは、本当はセリに誰かと_たとえ書類上でも、自分も叶えてあげたかった念願の帰国のためでも_結婚してほしくない。

セリは、思いを断ち切るために、ジョンヒョクの帰国案は「失敗続き」だったと非難したし、「一緒にいるだけで犯罪」なんだと、現実を突きつけた。

でも本当はジョンヒョクに心から感謝しているし、自分がジョンヒョクの人生の邪魔になりたくないだけなんだ。そんな気持ちを、この場面でジョンヒョクに打ち明ける。






8話:てもとのろうそく

火の前で誰にも言えなかった気持ちを吐露したのは、セリやジョンヒョクだけではない。

おそらく、学校で暖を取るジョンヒョクとセリと時を同じくして、ひとり家の外でお酒を飲むマンボクのもとに、ミョンスンがろうそくをもってやってくるシーン。

ミョンスン「あなた、夜中に深酒しないで」
マンボク「心配で来たのか?気にせず寝ろ」
ミョンスン「心配なの?リ中隊長が」
マンボク「なぜそれを…」
ミョンスン「耳野郎と結婚して10年よ、分かるわ」
マンボク「そうか」
ミョンスン「あなたは国の命令に従っただけでしょ。結果にまで責任を感じることないわ」
マンボク「ミョンスン、リ・ムヒョク大尉を覚えてるか?」
ミョンスン「もちろんよ、私たちによくしてくれたわ」
マンボク「_俺が彼を死なせた」
ミョンスン「任務だったから…」
マンボク「弟が、リ・ジョンヒョク大尉だ」
ミョンスン「本当に?」
マンボク「弟まで死なせてしまったら、俺は生きていけない。恩人を死に追いやり、俺を人間扱いしない連中に忠誠を誓うなんて、そんな人生は、不幸すぎないか?」

マンボク自身のことも、彼の家族のことも救ってくれた恩人であり、誕生日を祝ってくれる優しい唯一の友人であったムヒョク。そんな彼の死に加担してしまった自分を、マンボクはずっとずっと、ひとりで責め続けていたに違いない。誰にも相談できず、誰にも許しを請えず、また許されず、そして今もチョルガンの手下として暗い地下で働く生活を送る。生きていくために、自分の気持ちを押し殺さざるを得ない彼の人生もまた、地獄のようだったはず。

そんな彼の、ひとりきりで抱え込んでいた思いが、ミョンスンと「火」の前で初めてはっきり吐露される。ジョンヒョクの優しさに触れて、第五中隊の絆や楽しそうな雰囲気、暖かさに惹かれて、セリの強さにふれて、徐々に動かされてきたマンボクの気持ちが、ここで初めて明かされる。「火」の前で。


初めてふたりがお互いの人生について語らった、あの焚き火の前。それ以外にもいたるところに散りばめられている火と人物の描写。

北と南、38度で隔てられたふたりが、交わすことを許されないような言葉を、許されないゆえに飲み込んでしまっておこうとした感情を、2人の間にあった「火」がいつも少しだけ、引っ張ってくれたんじゃないのかと、そんなふうにおもう。

そして、北で「耳野郎」として生きるしか道がなかった彼の道もまた、「火」が照らしてくれたのかもしれない。



と、このnoteを、愛の不時着2周年のお祝いの言葉とさせてもらいます。

おめでとう㊗️


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