「トランスアクト」3話目(ジャンププラス原作大賞・連載部門応募用)

「よーし、ミカちん! 今日も張り切って行っちゃおう!」
「かしこまりました、キララ」

 テンション高く腕を振り上げるキララに対して、彼女のアーク・ミカは義務的な応答をする。

「わーい、お姉様とお仕事うれしいー!」
「よろしくね、ユリア」

 対して渚のアーク・ユリアは甘えるような声で渚に接する。
 飛来する魔王の尖兵から、光線が放たれる。二体は危なげなく避けると、それぞれ別々の尖兵に向かっていく。
 キララの手首・足首にはリング状のアタッチメントが装備されている。キララの動きに追従してミカが動き、攻撃はあらかじめキララがセットした魔法から最適なものを選んでミカが自動で放つスタイル。
 渚は最低限の指示以外は総ての動きをユリアに任せ、自身は戦況を見ながら魔法を作り上げるスタイル。自身は砲台に徹するため、より強力かつ最適な魔法を放つことが出来る。
 どちらも役割分担した戦闘スタイルで、勘は鋭いが難しいことを考えるのが苦手なキララと、運動は苦手だが頭脳戦の得意な渚の能力をそれぞれのアークが補っている。
 機敏に攻撃を回避しながら手数で尖兵を倒すキララ・ミカと、飛び跳ねるような動きで攪乱して尖兵をスナイプする渚・ユリア。
 二組の戦いぶりを見て「すげぇ……」と呟く真琴と、「あれくらい私だって出来るし」とふて腐れたように言うシエル。数分のうちに、それぞれ三体ずつ尖兵を打ち倒した二組は、最後に残った一体に競うように向かっていく。
 その一体が、遙か遠くから伸びてきた太い光線に貫かれ、爆散する。

「にぇ!? ナニナニ今の!? ヤバ!」
「援護……なわけないね。まさか、味方を犠牲にしたのか」

 危ういところで光線を回避したキララと渚が感想を述べる間に、光線が来た方向から新手が現れる。
 先ほどまでの尖兵と違い、その球体にはひょろりとした四肢のようなものが垂れ下がっている。なぜか左腕にあたる部位だけが異様に太く、アンバランスな形状をしている。

「ナニあれ、キモいんですけど!!」
「見たことない形だね。少し警戒した方がよさそうかな」

 率直な感想を述べるキララに警戒を呼びかける渚。異様な尖兵はしばらく彼女たちに向けてゆっくり近づいていたが、唐突に左腕の部分をキララの方に向ける。
 その先端から、先ほどと同じ太い光線が放たれる。

「キララ!!」

 渚が叫ぶ向こうで、ミカが咄嗟に展開したシールドが砕け散る。同時にキララも回避運動していたが、わずかに間に合わず、ミカの左膝から下を失う。

「ゴメン! ゴメンねミカちん!」
「問題ありません。オートバランサーを最適化し、パフォーマンス値の低下を2%まで抑制可能です」

 泣きそうな声で謝るキララに、ミカが冷静に答える。それを聞いて袖口で目元を拭うと、キララは異様な尖兵をにらみつける。

「マジおこだよ! てってーてきにボコすかんね!」

 宣言するキララの無事を確認して、安堵すると同時に対策を考え始める渚。
 映像を見ていた真琴とシエルは、顔を見合わせる。異様な尖兵の放った光線は、昨晩彼らが放ったレールガンに似ている。左腕が武器化しているのも類似。ラボラスも思い当たったのか、思案顔をしている。

「コレは……学習したのかネ? 初めてのパターンだヨ」
「ヤバいんじゃねぇか!? あんなの何体も現れたら……」

 真琴の危惧に、ラボラスは一瞬思案してから首を横に振る。

「イヤ、可能性は低いヨ。そんなことが出来るなら、最初から全個体があの形態でやってきたはずだからネ」
「あ……確かに」

 納得する真琴を見つつ、ラボラスは危険性を軽視はしていない。あの一個体が有用と『魔王』に思われたら、量産される可能性は高い。実際、ここ十年の間に尖兵の形状は変わらずとも攻撃性が増している印象がラボラスにはあった。そもそも、『魔王』が尖兵を送り出す理由もまだよく分かっていない。
 モニターの向こうの戦況は動いていない。連射は出来ないようで、異様な尖兵の左腕は下がっているが、普通の尖兵と同じ光線も使える上、左腕の攻撃は射出速度が異常に速いため迂闊に近づけず、遠距離からの攻撃は回避されるかシールドで弾かれている。
 焦れる表情で見ていたシエルが、堪えきれずに提案する。

「マコト、行こう! 私たちの魔法が盗まれたんだよ!? 黙って見てらんない!」
「いやいや、俺は昨日魔法少女になったばっかりだぞ!? 足手まといになるだけだって!」
「ならないわ! 私が一緒なんだから!」

 尻込みする真琴に啖呵を切るシエル。真正面から真剣な視線を飛ばすシエルに、真琴が折れた。

「分かった、行こう! いいよな?」

 確認と言うより念押しのような真琴の言葉に、おどけた調子で「止めないヨ」とラボラス。
 真琴はまだ残る気恥ずかしさを振り払って「贖罪執行」を唱え、変身。キララたちのようにはまだ飛べないため、走ってシエル本体の元へ向かう。ヒト型のシエルは消えて、本体の目に光が点る。
 シエルに乗った真琴は、キララたちのやや後方に転送される。事情をラボラスから聞いて把握したキララたちは、真琴・シエルを両脇で援護するような体制をとる。

「マコちん! なんか良いアイデアあるん?」
「マコ……えっと、相手の左腕の兵器は、多分俺たちの魔法の真似だと思うんです。なので、これ以上真似されないように、同じ魔法で倒します!」
「なるほど、キララのシールドを貫くほどの威力なら、相手のシールドも貫けるってことだね」

 異様な尖兵の光線を避けながら、キララの問いに真琴が答え、渚が同意する。

「ただ、あの魔法は俺の魔力じゃ一発しか撃てないんです! だから、一瞬でも動きを止められれば……お願いできますか!?」
「もっちろん! キララの代わりに、ミカちんの仇をとってやって!」
「私の機能は停止していませんが」
「全力で動きを止めてみせるよ。いけるね、ユリア」
「お姉様のお願いなら、張り切っちゃう! 後でご褒美いっぱいちょーだいね!」

 キララ・ミカと渚・ユリアは一斉に行動を開始する。二手に分かれ、異様な尖兵に攻撃を続けることで相手の攻撃を引きつけ、真琴をフリーにする。動き回る尖兵だが、挟み撃ちにすることで徐々に避ける方向を制限していく。
 シエルは流れ弾を避けながら、尖兵の移動方向軸に重なるよう位置する。真琴は集中し、昨晩思い描いたレールガンを想像し、左手の人差し指を異様な尖兵に向ける。
 シエルの左腕装甲が変形し、レールガンを形作る。魔力が充填され、発射可能になった時点で、真琴が叫ぶ。

「お願いします!」
「合わせてナギちん!」
「心得ている!」

 キララと渚は、シールドの応用でミカとユリアの間に壁を作り、異様な尖兵を挟み込む。固定された尖兵だが、左腕を無理矢理壁から引き剥がし、真琴・シエルの方へと向ける。

「しまった!!」
「マコちん!!」

 渚とキララが叫ぶと同時、尖兵の左腕から光線が発射される。さらに同時に、真琴とシエルの声が重なった。

「レールガン!!」

 同一軸上で相対する光線が、中間地点で互いに排斥し合い、わずかに軌道がずれる。どちらの光線も目標に当たらず、遙か彼方へと消えていく。

「そんなぁ!」
「駄目か……」

 キララと渚の悲痛な声が聞こえる中、魔力を使い尽くした真琴の意識が途切れそうになる。悔しさに歯がみしつつ暗くなる視界の中、智恵の実を囓ったときに見た少女の後ろ姿が見える。
 少女は少しだけ振り返ると、口元に困ったような笑みを浮かべて真琴に言う。

「君は、一人で戦ってるのかな? もう少し、パートナーに頼ってみたら?」

 消えていく少女に伸ばした手を握りしめ、真琴は自分の頬を殴る。痛みで意識をつなぎ止め、真琴はシエルに向けて叫んだ。

「俺の魔力の絞りかす、全部持ってけ、シエル!!」
「……!! 遠慮、しないからね!!」

 真琴の覚悟を飲み込み、シエルは彼の魔力を限界まで吸い上げる。同時に、シエルの背から光り輝く翼が左側のみ現れる。
 魔力で形成され、大きく広がった光の翼は、燃えるように輝いて拡散し、左腕のレールガンに充填される。そして、いまだかろうじて壁で固定されたままの尖兵に向けて光の帯を形成する。
 中心部を撃ち抜かれた尖兵は、なすすべも無く爆散する。左手の人差し指を向けたまま、真琴は「ざまぁみろ」と呟き、今度こそ意識を失った。
 キララと渚が快哉を叫び、シエルの元にやってくる。気を失った真琴を心配しつつも、勝利の喜びを分かち合う二人と三体。
 その様子を見ていたラボラスは「ヤレヤレ」と呟き、肩をすくめる。真琴とシエルの二発目のレールガンは、本来なら内部の魔法少女に負担がかかりすぎるために施されたリミッターが解除された結果だ。それを解除する方法を、真琴は知らない。それを伝えたのは、真琴の中に智恵の実とともに流れ込んだ『ヤミお嬢様』の残滓だろう。
 かつてルシファーから力を分け与えられた『原初の魔法少女・ヤミ』のことを思いつつ、ラボラスは再び思索する。こちらの魔法をコピーしようとする尖兵の出現、そして、原初の魔法少女の残滓を受け継ぐ少年。それらが今後の戦況にどのように作用するか。詮無きこととは思いながら。

 異様な尖兵が爆散した地点から少し離れた場所で、尖兵の肉片が蠢いている。肉片は寄り集まり、融合し、徐々に形を変えて、小さな少女に似た姿をとる。尖兵の肉片から出来上がった不完全な形の少女は、口を模した器官を釣り上げて笑みを作り上げた。


(続)

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