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ヒグチ アイさんと、『元カレかるた』&雑誌『うふふ』のはじまりを辿ってみた。

クラウドボックスが出会ったひとVol.7
[座談会]
ヒグチ アイ(シンガーソングライター) ×
徳永健(クラウドボックス代表・かるたプロデューサー)
きょしょうさん(イラストレーター)

シンガーソングライター・ヒグチアイさんとクラウドボックスの出会いは、今から遡ること4年前。雑誌『うふふ』(編集長 ヒグチアイ)の創刊号の制作にあたり、クラウドボックスがデザインを担当することになり、その打ち合わせで顔を合わせたのがはじまりでした。世の中がすでにコロナ禍に突入していた頃のこと。ビジネス界隈では、zoom での打ち合わせが主流となりつつあって、実際に顔を合わることができたのは、その約半年後になりました。雑誌『うふふ』は2024年2月にvol.03が発売。『うふふ』に連載していた『元カレかるた』は、2023年12月に商品化され好評発売中です。雑誌制作とかるた制作にまつわるアレコレを、かるたプロデューサー徳永と、イラストを担当したきょうしょうさんとで語り合う座談会を行いました。

2024年1月9日 クラウドボックスオフィスにて/進行・文 WordDesigner 竹野恭子
協力:ナガオ考務店
2024年2月発売の編集長ヒグチアイによる雑誌『うふふ』vol.03

ーーー『元カレかるた』が昨年末に発売され、2024年2月初旬発売の雑誌『うふふ vol.03 』が、まさに今日(2024年1月9日)校了を迎えたわけですが。そもそもなんで「かるた」になったんだっけ?っていうところから…

アイ それすごいみんなに聞かれて。多分雑誌『うふふ』に掲載する記事のテーマを考えていて、一番最初に元カレの話を書きたいみたいな話をしたときに「かるたにすればいいじゃん」って感じになったんだっけか?と思って。

徳永 2020年明けてすぐくらいだったと思うんだけど、多分僕が、何でもかんでも「それ、“かるた“にしたらどうですか」って言ってた時期ですね。

アイ そうそう、多分その時期でした。

徳永 それで『うふふ』創刊号の編集会議で、台割りとか決めてるときに、箸休め的なコンテンツがあるといいよね、みたいな話になって

アイ 編集会議といえば、創刊号のときはずっとzoomでやってましたよね。

徳永 そうだった、そうだった。zoom便利ですね〜なんてコメントが、当時のmessengerに残ってた(笑)。そもそも何で、元カレのエピソードってなったんでしたっけ?

アイ よく覚えてないんですけど…元カレへの恨みとかだったら、けっこういろんなエピソードがあるって話は多分してたかと。

徳永 創刊号を作ってたときって、そもそもヒグチアイ一人称で作っていくのか、それともある程度客観的に作ってくのか、そのバランスをどうするかって話をしてたじゃないですか。

アイ してましたね。

『うふふ』創刊号と、そこに掲載された『元カレかるた・あ札』

徳永 創刊号って巻頭特集なんかは特に客観的な記事になっていたから、そうしたコンテンツの間に、箸休め的にプライベート感のあるものを挟んでいこうってなって。それで元カレっていう要素が出てきたんじゃなかったかな? 議事録見てみれば何か残ってるかな…

アイ 遡ったら何か出てきそうですね

ーーー雑誌『うふふ』が創刊から4年でvol.03までたどりつきましたが、現在に至るまでに気持ちの変化はありましたか?

アイ 4年前と今とでは、自分の活動自体も変わってきているところもあるし、言ってしまえば、稼げるお金も変わってきたし。自分の中の隙間みたいなものって、そういうことで埋まっていくものなんだというか、人から求められることがあるだけで、こんなに「さみしさ」というものに影響してくるんだなと。

ーーー雑誌『うふふ』のテーマでもある、「このさみしさに 終わりはあるのか」の部分ですよね。

アイ あの頃は本当に元カレにひどいことされたことをずっと恨んでたりしていたけど、結局そこで別れたから、今こんな人生になってきたんじゃん。幸せなこといっぱいあるじゃん、って思えるようになってきて。「さみしさ」というものがなくなっていくのは当たり前なのかなという、感じになってきています。でもまさか、4年ぐらいでこんなに人間って変わる? って思いますけど。

徳永 そんなに変わったんですね、この数年で。

アイ 変わりましたね…。なんか本当に「さみしさ」に関しては、本当に変わりましたね。

徳永 欠落感みたいなものがなくなったということなのかな?

アイ そうですね。自分の中で「さみしさ」って、もうちょっと湿ってる感じだったんですけど、それが乾いたっていう感じでしょうか。 痛みは虚しさの方にあるかなというか、うん。今、「虚しい」は結構ありますね。自分にとっては新しい感情です。でも「虚しさ」って「さみしさ」よりも、笑えないというか…。

徳永 『さみしさかるた』と『むなしさかるた』があったら、『さみしさかるた』のほうが笑えると?

アイ はい。虚しさって何か、人の生きる気力をなくしていく感じがするので…。虚しさも何かにうまく変換できればいいですけどね。そんな風に、こう、あれこれと考えている自分がいて、30代前半って色々と思う時期なんですね、きっと。

徳永 なるほど、創刊号がちょうど30歳のときだったしね。レーベルも変わりましたよね?

アイ そうですね。そう考えると、色々と自分の人生に変化があるときに『うふふ』をずっと作り続けているということになりますね。

徳永 今喋りながら、編集会議の資料を漁っていたんですけど…2020年4月13日の会議の中で、短歌にハマってるって、アイちゃん言ってますね。

アイ あー、短歌。やってましたね。

徳永 「朝焼けに 照らされたのは枕元 知らぬイニシャル 掘られた指輪」っていう短歌が議事録に残ってます。多分そこから『元カレかるた』の話になっていったのかと。

アイ そういうことか!短歌かあ。ハマってました!それがもうそんな前なんだ…。

徳永 この短歌ちょっとえぐいけど笑えるね、みたいな話をしてて、“かるた“ にしたらどう? これで50音全部作作れるんじゃない? 少しずつ誌面で発表して、最後は商品化! って目論見を立てたような…。

アイ なるほど。それが始まりですかー。

徳永 今も短歌は詠んだりするんですか?

アイ 短歌はやってみて、難しいってことがわかりました。かるたは、わからなくてもいいというか、絵があるから、説明してくれるんだけど、短歌に関してはそこだけで、全てを説明しなきゃいけないっていうのが、私にとっては作詞より難しくて。すぐにぱっと言葉が浮かんでこなくて、詠まなくなりました。

ーーー短歌、雑誌、そしてかるた。作詞とは別の方法で言葉を表現してみて、また曲作りに戻っていく。そこで得たものはありましたか?

アイ ありましたね。かるたを作り始めたのは雑誌のひとつの企画としてだったけど、この雑誌自体は、自分より年上の方とか、一人で生きて頑張ってる人が、どんな風に生きているのかを聞きたかったから始めたものなんです。まず「インタビューをする」というところから始まっていて、Twitter(X)で「不思議な仕事やってる人いませんか」って呼びかけて、その中から女の人だけに連絡をとって、会いに行って、お話を聞くということをしていました。

徳永 雑誌の発行が具体的に決まっていない状態で、インタビューからスタートした『うふふ』だったわけですね。

アイ そうなんです。Twitterだから、私の音楽を聴いてくれている人だと思うんですけど、とにかく音楽をやっている人じゃない人に話しを聞きたくて。2019年くらい、コロナ禍になる少し前からとにかくいろんな人に会ってインタビューをしてました。その中に、雑誌を作りたいという話をしたら、ナガオ考務店(『うふふ』の発行元)を紹介してくれた方がいて、今に至るわけです。でもコロナ禍真っ只中での創刊になったってこともあって、掲載できなくなっちゃったものもいっぱいあります。スポットライトが当たってないような人の人生にもすごくいろんなドラマがあって、本人はその人生をすごく考えていて。普通の人の普通の話がこんなにも面白いんだって感じることができたインタビューになりました。私は周りのミュージシャンたちと比べて、自分のことを普通の人間だと思っているところがあって。何で私はこんな普通なんだろう…って思うことがあったけど、インタビューをしたことで、このままでいいんだって思わせてもらった感じです。普通というものにスポットライトを当てる。これだけいろんな普通があって、そこに光を当てていく人間になれたらいいなって、そういう歌を作れればいいなって思えたんですよね。これは本当に『うふふ』のおかげだと思います。

徳永 インタビューを始めた時点で、その内容を歌にしようと思ってたんですか?

アイ いや、違いますね。ミュージシャンで、私より少し年上の人とか、同年代の人って、出産をして、そのまま辞めてしまったり、ペースを落としたり、ママや子どもに向けた曲しか歌わなくなったりという人が少なからずいて。そういう人たちを見ていると、結婚しようとも思ってない、子どもも欲しいと思ってない自分は、この先何を歌っていけばいいのかわからない…みたいな気持ちになってたんです。世の中一人で働いている人はたくさんいて、そういう人たちって、どうやって自分を強く持ちながら働いてんだろう? ってところが気になったのがインタビューをはじめたきっかけです。

徳永 そのときはすでに「さみしさ」っていうテーマははっきり持っていたんでしょうか?

アイ 持ってましたね。結局自分のさみしさって「誰かといなきゃいけないって思うこと」から来ているのかなって思っていて。だから、結婚した方がいいとか、子どもがいた方がいいとか、そういうのもさみしさから来ているんじゃないかと。じゃあそのさみしさに打ち勝って一人で生きてる人の、さみしさの紛らわせ方ってどうしてんだろうっていうところから、『うふふ』のテーマとしてマッチングアプリであったりとか、パパ活をとりあげてみたり。あとはこれはまだやっていないけど、女性用風俗とかホストクラブとか、そうした “女の人の新しい楽しみ“ みたいなところに、答えがあるんじゃないかとか思ってやり始めたのもあります。

徳永 それは「自分の欠けてるところをどうやって埋めてるの?」っていうリサーチってことですよね。今、アイちゃんの、さみしさに対する感覚はどうなっているのかな? この4年間で自分がガラッと変わってきたっていうことだったけど、欠けてたものが埋まってきたという感じはある?

アイ そうですね。でもこれは想像ついてたことでもあって、仕事がうまくいけば、さみしさっていうものがなくなるというか、自分が常に何かに依存しなきゃいけない体質だったんだなっていうことがわかってくるわけです。仕事で必要とされてるから今は大丈夫で、だけどこれが、また頑張らなきゃいけないとか、孤独を感じる状況になってくると、恋をしてた方が相手に必要とされるかなとか、結婚して子どもを作ったら子どもに必要とされるかなとか…常に自分を必要としてくれてる存在をどこかに作ろうとするんじゃないかって思います。

徳永 今は、仕事が充実していることで承認されている感覚があるってことですかね?

アイ すごく不安定だなと思いますね。さみしさはなくなったとは思っているけど、常に揺れ動いてるシーソーみたいで。どっちかがうまくいったら、こっちはうまくいかないし、でもそこがなくなったら、また違うところを埋めようとする。そんな感じはしますね。

2023年12月に発売になったヒグチ アイ監修『元カレかるた』/イラスト きょしょうさん


ーーーここで『元カレかるた』のことも話したいのですが。発売して一ヵ月ぐらい経ちましたが、今自分の中でどんな位置付けになってきましたか?

アイ いや、変なのを作ったなって思って。

徳永 (笑)周りの面白いリアクションとかありました?

アイ お父さんからは…

徳永 お父さん!?

アイ お父さん買ったらしくて「本当にヤバいことは隠しているんだね」って言われました。

徳永 お父さんはアイちゃんの恋愛遍歴を知っている?

アイ あれ?なんか知ってたんだっけ?と思って(笑)。お父さん、「ちゃんと笑えるものになってましたね」みたいな反応でした。

徳永 すごいな。お父さん娘のコレ(かるた)見たらなかなか複雑だよね。

アイ お父さんと私とお兄ちゃんとか、妹とか、三人で暮らしてることも結構あったから、その時の状況を全部隠すとかはしてなかったんですよね。お父さんは「なんか大変そうだな」みたいなのは知っててくれたはずで。妹は読み札見ては「これあのときの●●でしょー」、絵札見ては「これあの人のことじゃん!」みたいな感じになってます。

ーーー絵札の話になったので、ここまで沈黙を通していた、きょしょうさん(『元カレかるた』イラスト担当)、一言お願いします。

きょしょうさん 『うふふ』の創刊号で「あ行」から描き始めたときは、成田凌似の彼って指定があって。

アイ そうそう、言いました。指定しましたね。

徳永 どうでした?きょしょうさんの絵は。

アイ もう本当に最高ですよね。あのテイストのおかげで、少し過激な内容もマイルドになって。可愛くて、しかもオシャレな感じがあるというか、絶妙なバランスが何描いても許される感じがありますよね。

ーーーきょしょうさんは、一人で黙々と作業していて、大変そうな素振りも見せなかったですが、苦労したところ、ありましたか?

きょしょうさん そうですね…、昨年『元カレかるた』を商品化することになって、描く元カレの種類が増えたじゃないですか。坊主の人とか、ちょっとチャラめの人とか。その描き分けが難しかったですね。会ったことはもちろんないし、どんな特徴かっていうところだけ聞いて描くキャラクターだったから、表現するのが難しかったです。

徳永 これ作ってるときは、かるたに登場するキャラクターの数から想定して、5〜6人の元カレエピソードをまとめてるのかと思ってたんだけど、発売するときスポーツ新聞に記事が掲載されたことによって、元カレの数がその数倍だったっていうことを知ることになったんだよね。

きょしょうさん ホント、数人なのかと思ってました。

徳永 描かれているそれぞれのキャラクターの中に、数人のエピソードが入ってるってことですよね。

アイ 札を作っていくのは思い出していく作業でもあって。でもかるたとして考えていくと、エピソードが混ざってきて、あの人とあの人のエピソードが合わさってこうなった、という札もありますね。


ーーー男性の視点からみた『元カレかるた』はどうでしたか? 女性ってこんな感じ方するんだとか、怖いなーって思った札はありますか?

きょしょうさん えー、どれだろう

徳永 そこまで見てるんだって思ったのはいくつもあるよね。「め」の札とかね。

『元カレかるた』め札

アイ 「め」の札は、結構周りの女子とかからも「あるある!」みたいな反応がありました。

徳永 これ気づかれてないだろうと思ってることも、結構気づかれてんだなとは思うよね。

アイ その話でいうと、電車で彼氏が暗証番号でスマホ開くとき、後ろの窓に映る画面は基本見るようにしていて、何かあったときには、それで開けられるようにしておきますね。

徳永 え?反射の反射で確認してるってこと?完全に犯罪者レベル?スパイの仕事?じゃないですか。

アイ あとスマホが指紋認証だった時代は、バレないように自分の指紋を登録しておきました。画面が閉じてしまう前に、こっそり自分の指紋を登録するのでちょっとテクが必要です。

徳永 どんな時に、彼氏のスマホ見たくなるのかな? 嘘ついてるとか、行動が怪しいときとか?

アイ 上手に隠してくれればいいと思うんですけどね。何か隠してる以上に、こっちをすごく大切にしてくれてるって雰囲気が出てたら、この状態をぐちゃぐちゃにしようとは思わないけど、嘘ついてそうだし、さらに大事にしてくれてないみたいな感じになると「ぶっこわしてもいいか」ってなって見ちゃう。でも疑ってスマホ見て証拠が出てきたとしても「スマホ見たよ。こんなのみつけたよ」みたいなこと、絶対言えないし、領収書も見ないようにしていたし。何か出てきたら嫌だし。だから何かあったらどうしようって思います。ちなみにスマホや領収書以外で、見られたら嫌だなってものありますか?

『元カレかるた』み札

徳永 うん、なんだろう? やっぱスマホかな。

アイ やっぱり、そうなんですね。スマホのデータ、写真とか、LINEのやりとりとかって、消すほどのものじゃないし、どうでもいいと思っているものがほとんどなんだろうけど。消してる方が明らかにアウトだし。でもどうでもいいものでも、見つけちゃうと怒るしかなくなっちゃうというか。

徳永 見ようとしない方がいいんじゃないの?

アイ そうなんですよ。やましいことの証拠見つけても、いいことはないし。最近『X』の「おすすめ」欄に「不倫された人」の投稿がたくさん表示されるようになったんですよ。そういうのばっかり見てるから。そういう人はとにかく相手のスマホも見てるし、風俗に行ったこととかも許せない、みたいなことも呟いてて。どのタイミングで相手のことを許せないっていう線を引くのかは人それぞれだなと思うんですけど、私はどこまでも許しちゃいそうな気がして、それが怖いんですよね。この関係を続けたいから許しちゃうことが多そうで。

徳永 そんな札もありましたよね。

『元カレかるた』そ札

ーーー 一番怖いなって思った札、どれですか?

徳永 割とドキッとしたのは、「い」の札かな。多分、男性はけっこうやってそうな気がするなって思いました。

『元カレかるた』い札

アイ ほんとですか? やったことありますか?

徳永 やったこと…ありますね。男女の考え方の違いというか、元カレと元カノって多分、記憶の置き場所が違うんだよなっていうのをすごく感じるエピソードだと思ったんですよね。男性は、元カノの記憶を綺麗なところにストックする。飾り棚に並べるイメージかな。そこから時々取り出して、お気に入りのフィギュアを眺めるみたいな感じのことをする男性が多分多くて、女性は元カレの記憶を割とすぐゴミ箱に捨てられるイメージがあります。一番大切な人だけがメインの席に座ってて、他はもうどんどん捨ててく感じがして。男性と女性のいろんな構造の違いがそれを産んでるんだと思うんですけど。

ーーー すごくうなずいてますけど、そうなんですか? きょしょうさん?

きょしょうさん Facebookとかで繋がってたりしたとき、今何やってるのかなって、ちょっと調べることはありますね。

アイ それってどんなタイミングで「どうしてるかな?」って思うんですか? よく一緒に行ったお店の前を通りかかったりとか?

きょしょうさん タイミング? んー特に思い当たらないですねえ。未練があるわけじゃないけど、ふと思い出すことはあります。

徳永 例えばですけど、一番大切な人と一緒に歩いていても、ふと通り過ぎた女の子を目で追ったりするんですよ、男の人って結構。それと近い感じで、きっかけ云々じゃなくて、「そういえば…」って、さっき言ってた脳内の飾り棚に並べてあるフィギュアを、「そういえばこんなのあったな。昔気に入ってたよなー」って眺めてまた棚に戻すぐらいの感じなんですよね。

アイ それに対して、彼女や奥さんから「やめてよ」って言われるのは、もう無理っていう感じですよね。

徳永 そう。だから「フィギュア捨てて」って言われたら、「嫌なんだったら捨てる」って言えるけど、その棚の部分を心の中からなくすのは多分難しいんじゃないかな。

アイ 「捨てました」って言っても、捨てた先でまた拾って結局棚に戻ってそうですね。

徳永 そうなんだよね。実際の物とかね。「に」の札にもあったでしょ。「その手紙を今すぐ捨てろ」とか。手紙とか写真とかを捨てろって言われたら捨てられるけど、心の中の棚に並んじゃってるお気に入りのフィギュアは消えないっちゃ消えないっすよね。

『元カレかるた』に札

アイ 「に」の札で思ったのは、手紙とか、捨てられる物を捨てさせることで、消えないものが逆にしっかり残っちゃうんじゃないかって思うこともあって。例えばその人からもらってずっと身につけてたものを捨てることで、逆に心の中にずっとあり続けちゃうみたいな。
マジで元カノには勝てない。その人の全ての元カノが消えて欲しいと思っちゃう。

徳永 元カノって、幻だよなーって思う。元カノにすっげえ振られ方して、向こうは僕の記憶は何も残ってないだろうって思うけど、そんな相手でも、キレイな思い出のところだけ飾っておくことできちゃうじゃないですか。幻は強いですよね。

アイ 本当に強いですよ。でも結局、その元カノの影が、今のその人を作ってくれていて、元カノが作ったものが入ってる今の状態が私も好きなんだから、もう元カノ! って思います。

徳永 でもそれでいったら、アイちゃんも誰かの元カノなわけだからね。

アイ まあ、そうなんですけどね。

ーーーこのあともそれぞれの恋愛観的な話で大変盛り上がりましたが、プライベート感が溢れすぎて、「ピー」という効果音が必要な内容も含まれるため省略します。また別の機会があれば…(笑)。

ーーー 徳永さんは「かるたプロデューサー」と名乗っていますが、どうですか今回、その視点でみた『元カレかるた』は?

徳永 大変面白いものができたと思っています。かるた作りって「コミュニティを育てるのに役立つもの」っていうのが、プロデュースする際の基本にあって、「みんなで札を考えましょう」ってやることで、共有しながら進んでいくことの面白さがあると思ってているんですけど。でも今回はヒグチアイの元カレの話をベースにしているので、そういう意味ではちょっと違っているんだけど、インスタライブを通して、視聴者から読み札を集めたりもしたし、もともとアイちゃんに発信力があるので『元カレかるた』を発信したことで、テレビのバラエティ番組や X とかでも「めちゃくちゃわかる」っていうリアクションがあって。ヒグチアイを中心としたコミュニティを育てるのに、かるたがちゃんと効いてるなって思いました。僕としては今までとはちょっと違った検証ができたし、やっぱり“かるた”というインパクトと、とっつきやすさがうまく働いたなと思いましたね。

アイ かるたって遊ぶならまず広い場所がないとできないんだっていうのは改めて思いましたね。例えばカフェとか、みんなでちょっとお茶しに行ったところで広げるのは無理だし。でも『元カレかるた』は、札をカバンの中に入れておけば飲み会とかみんなで話す場にふと出して、シャッフルして、「こういうことあったよね」みたいな会話ができるようなものになったかなと。「かるたとしての面白さ+人と喋るツール」になると思いましたね。

徳永 トークテーマカードとしても楽しめるかるたですよね。
かるたって100年生き残ってる遊びで、ゲームとしても優秀なんだけど、そこにちょっと解説をつけることで、僕は『44面体のガイドブック』って言ってるんだけど、元カレを44面から考察した“本”にもなる。

アイ そうですね。それが面白いんだなっていうことが発見でした。

ーーー きょしょうさんはかるたイラストレーターとして、様々なかるたを生み出してきたわけですけど、『元カレかるた』と今までの違いはありましたか?

きょしょうさん 違いはありましたね。僕自身、今まで 性 についての絵を描いたことはなかったから、裸の絵とか、どうなるんだろう…って思ってました。どこまで裸を出していいのかとか。

アイ めっちゃバランスよかったですよね。お尻とかカワイイし。札を見てるところを、他の人に見られても恥ずかしくないって感じがします。

きょしょうさん 「ぬ」の札も難しかったですね。

アイ どうやって描くのか私は全然考えずに、お願いしたものが、こんな絵になって… まさか「大きなかぶ」の絵になるとは。

きょしょうさん ありがとうございます。

『元カレかるた』ぬ札


ーーー 最後に、発行元であるナガオ考務店と、クラウドボックスにメッセージをお願いできますか。

アイ 社会人として、ちゃんとしてない私の面倒見てくれるのは、ナガオ考務店とクラウドボックスしかないと思ってるので、末永くお世話になりたいと思っております。『元カレかるた』のイベントもしていきたいし、『うふふ』も引き続きよろしくお願いします。

ーーー 楽しみですね。本当にありがとうございました。

ヒグチアイ /シンガーソングライター
圧倒的な説得力を持って迫るアルトヴォイスとピアノの旋律、本質的な音楽性の高さで高い評価を受ける。2022 年、 TV アニメ 「進撃の巨人」 The Final Season Part2 のエンディングとして書き下ろした 『悪魔の子』 が大きな反響を呼び、 世界中のチャートを席巻。また、 香取慎吾・のん ・青山吉能といったアーティストへの楽曲提供や、 アニメ 「ぼっち・ざ ・ろっく !」 の主題歌をはじめとする作詞を“樋口愛”名義で手掛ける。
● 自身監修による『元カレかるた』を発売(2023.12)
● 5枚目のアルバム「未成線上」をリリース(2024.1)
● 雑誌『うふふ』vol.03を発売(2024.02)
●HIGUCHIAI  band one-man live 2024 [ 未成線上 ]がスタート(2024.02)
ヒグチ アイオフィシャルサイト
『元カレかるた』・雑誌『うふふ』はヒグチアイ公式SHOPからお買い求めいただけます。


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