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なぜ介護事業所のBCP作成は進まないのか

令和6年4月から全ての介護事業所において、災害に備えたBCPの作成が義務付けられることになりました。BCPとは (Business Continuity Plan)の略称で、業務継続計画ともいいます。介護事業所にとって。災害時においても出来る限り業務を止めることなく、限られた資源を活用してサービスを提供することは、利用者の生活を守る上で重要なことです。とはいっても全ての事業所で業務継続計画が作成されているかというと、そうではありません。

今回は、介護事業所において「なぜ災害時BCPの作成が進んでいないのか」「どうすれば作成できるのか」について解説していきます。

なぜBCPが必要なのか

いまや介護サービスは利用している高齢者にとって、生活支援にとどまらず命を守る存在といっても過言ではありません。自然災害や感染症がまん延したからといって、高齢者が介護サービスを受けられなくなることは、もはやあってはならないといえるでしょう。しかし台風や大雨、土砂崩れなど自然災害は日本のどこにいても、いつ見舞われるか分からない状況です。日頃から介護事業所として、いつ災害に遭遇しても限られた人員や資源で必要最低限の介護サービスを提供できるよう事前に計画を立てておくことが重要になります。

作成の進捗状況はどれくらいか


筆者は、令和元年から5年間日本介護支援専門員会災害特別委員として、介護支援専門員を対象に災害をテーマにした研修や介護事業者向けの災害対応マニュアル作成などをおこなってきました。令和4年8月には全国の介護支援専門員240名を対象に災害時BCPの進捗状況と課題を把握するためにアンケート調査をおこないました。ここからはそのアンケート結果をもとに、今なおBCP作成が進まない理由を考えてみます。

まず作成の進捗状況を尋ねた質問では、全体の70%が既に何らかの準備を始めていることが分かりました。とはいっても「ほぼできた」と回答したのは全体の2%程度で、「着手はしている(5割以下)」または「未着手」の事業所が全体の80%も占めていたのです。令和4年の数字なのでこのアンケート以降作成は進んでいるとはいえ、「BCPは短時間で気軽に作成できない」というのが、率直な感想なのではないでしょうか。

BCP作成が進まない理由

BCPの作成にあたっては、厚生労働省がひな形やガイドライン、解説動画をホームページ上で公開しています。自分の事業所に合わせた様式をダウンロードして、動画を見れば一通りBCPを作れるようになっているにもかかわらず、現場では作成が進んでいない理由には何があるのでしょうか。
アンケートから見えた理由としては、次のような意見があるようです。いくつかピックアップしてご紹介します。


<参考:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修|厚生労働省

具体的な書き方が分からない

回答者の37%が、具体的な書き方が分からないと回答しています。これは、特定の項目というよりBCP全体についての所感といえるでしょう。なぜなら厚生労働省の「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」では、BCPの各項目について一つずつ記載例が示されており、それらを参考にすれば作成できるはずだからです。にもかかわらず作成担当者が「具体的な書き方が分からない」と留まっている理由は、「BCPの取り扱い」に慎重になるあまり、災害時の具体的な対応にまで考えが至っていないといってもいいでしょう。

これを打破する方法はただ一つ「分からない項目は飛ばして、書けるところから書いていく」ことに尽きるのです。
<参考:自然災害発生時の業務継続ガイドライン(令和2年12月)

居宅固有、自事業所にあっていない

厚生労働省が示している災害時BCPのひな形には、全事業所共通版とサービス固有版(通所系・訪問系・居宅介護支援)が用意されています。基本的な活用方法は、全事業所共通版でひと通り標準項目を作成し、そのあと固有版を参考にしながら事業所にあった項目を追加するとよいでしょう。とはいっても、一人で運営している居宅介護支援事業所や地域資源が少なく他機関と連携がとれない事業所は、全事業所共通版ですら参考にならないため、実情に応じた項目や体制を考える手間がBCPのハードルを上げているのかもしれません。

母体・法人の方針が未定である

複数の事業所を運営している法人が災害に見舞われると、一部の事業所を休止してスタッフが被災した事業所に応援に出向いたり、停止している業務の復旧を優先したりする場合があります。つまり回答者の10%で「法人の方針が未定であるため、自分の事業所だけで災害時の対応を決められない」という答えが見られました。とはいえ、その場合でもご自身の事業所には「どのような災害リスクが想定されるか」「限られた資源で何ができるのか」についてスタッフで話し合い、共有しておくことは重要です。

被害想定ができない

今まで自然災害に遭遇したことがない地域やスタッフで被災した経験がない場合、災害はもちろん被害をイメージすることはできません。「自然災害発生時における業務継続計画<ひな形>P5被災想定」では、自治体が公表する被災想定を表で整理して記載することになっています。もし被害想定ができないということであれば、自治体のホームページなどで被害想定情報を公表している場合があるので確認してみましょう。また、ハザードマップポータルサイトでは、地域の被災リスクを災害ごとに地図で確認することができますので参考にしてください。
<参考:ハザードマップポータルサイト|国土交通省

時間が取れない

回答者の8%の方が、BCP作成が進まない理由として「時間が取れない」と答えています。率直に申し上げて、時間が取れないと思っている間は、ずっと取れないでしょう。介護事業所は常に利用者対応や急な相談、会議や記録業務など常になんらかの業務が傍らにあります。どうあがいても作成は義務化されますので、ここは思い切って設定した日時にスタッフが集まって、一気に「とりあえずBCPを作成する」よりほかありません。
そのあとは残った課題や修正などを、作成担当者で検討していくとよいでしょう。

作成するためのポイント

BCPを作成するためには、いくつかポイントがあります。この章では2つのポイントについて解説していきます。

100点の完成度を求めない

いきなり「見やすくかつ具体的な100点のBCP」を目指すと、かえって慎重になり作成は進みません。「具体的な書き方が分からない」という回答がアンケートで最も多くなるのも、目標とするBCPの完成度が高すぎるゆえ手がつかないのかもしれません。つまり100点の計画書を最初から目指すのではなく「40点程度のBCPから作ろう」と開き直り、完成後に少しずつ完成度をあげていく方が作りやすいかと思います。

できる業務を確定する

BCPの最大の目的は、災害時でも可能な限り業務を止めないということです。ですから最低限のスタッフしかいないときに、どの業務を優先しておこない、どの業務を切り捨てるか、ということをあらかじめ決めておくことが重要になります。通常の業務を100パワーとしたときに、災害が発生しても絶対に0にしないための備えと、できるだけ早期に100パワーに引き上げる対策が重要なのです。

まとめ

BCPは、利用者だけでなく介護業務と職員を守ることに重点を置いた内容になっています。介護事業所では以前から災害時に利用者を守るため「災害時対応マニュアル」を備えてきました。これからはBCPと災害時対応マニュアルが両輪となって利用者や職員の安全を守ることになります。

CloudBCPのご紹介

CloudBCPはBCPを最短5分で策定できるWebサービスです。介護・障害福祉に特化したBCP策定機能を提供しています。また、トレーニング機能を始めとする運用機能や、安否確認機能などもアプリの中で使え、BCP活動を完結することができます。

BCPは、最初のBCPをとにかく簡単に作り、その後の訓練を通して見直していく事が、実践的に使えるBCP活動に不可欠です。無料デモを行っておりますので、お気軽にご連絡ください。

本記事はCloudBCPブログの転載です。 https://www.cloud-bcp.com/posts/%E3%81%AA%E3%81%9C%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E6%89%80%E3%81%AEBCP%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%81%AF%E9%80%B2%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B

執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者

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