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LARP(Live Action Role Playing)とQアノン(Q Anon)。その関係性を読み解く。

はじめに

LARPとQアノン。アナログなホビーカルチャーと、アメリカ社会を賑わすようになったデジタルカルチャーという、接点があまりない様に思われる2つの事柄が、Webニュース等の中で触れられるようになってきました。また、それに付随して情報の精査が不十分な構成の情報が見受けられることもあり、筆者としては「無用な誤解が生まれない様に」したい、という意図をもっております。

アナログゲームマガジンという、ゲーム関連ウェブ雑誌に投稿する記事として適当かどうかは悩みましたが、一つの事例として発生している事をお知らせする意味で有意義と考え、投稿させていただいております。

本記事は有料ですが、前半部分はLARPとQアノン、両者の関係性や活動の性質など、関係性がどのようなものであるのかについて言及しており、その部分は無料で読めます。

本稿をお読みの方の中には「そもそもLARPって、Qアノンってなんだ?」と疑問をお持ちの方も いらっしゃることを鑑み、下記にまとめました。
※LARPについては、筆者は普及する立場であるため詳しいものの、Qアノンの活動には諸説がある事や、筆者は専門的に取材しているわけではないため、客観性や正確性については十分ではない可能性がある点については、ご注意ください。

LARPは、実際に人がキャラクター(今の自分自身ではない何者か)に扮して物語が生み出されるような状況に対応することを通して、体験や経験とする遊びが文化として欧米を中心に根付いたもので、映画や小説のような物語の世界を体験することもできます。日本でも、西洋中世や忍者、ホラーやSFをテーマにしたLARPが盛んに行われています。こうしたLARPは、参加者が自分自身が扮するキャラクターを立ち振る舞うことで、普段の自分自身が体験できないような冒険やドラマを体感することができる魅力があります。また、状況を戦闘に特化させることで、まるで戦場に入り込んだかのような戦闘シミュレーションを行うLARPもあり、瞬間的な状況判断の連続や、戦略的な立ち振る舞いなどによって成功体験や学びを深めることが出来るのが魅力です。

一方、Qアノンは、匿名の投稿者「Q」と称する人物が投稿した陰謀論的と評価されている情報を、インターネット上の掲示板(4Chan)やSNSなどで拡散する現象です。Qアノンの主張には、陰謀論的と評価されている内容が含まれており、アメリカの政治情勢に混乱を招いたとされています。
Qアノンがアメリカで社会的に問題視されることを示す一つの例として、アメリカの議会議事堂を一部の市民が自らの政治信条を主張するなどのために乱入した事件があります。この事件を起こした市民の中に、Qアノンの支持者らがいた事や、その市民らが主張していた政治信条はQアノンの発信する見解を多く含んでいた事が挙げられます。

本記事の要点として、まずはっきりとさせておきたいのは「LARPをする人=Qアノン」であるなどといった言説が今後流布される事が有った場合。それは全くの誤解であり、LARPとQアノンは、直接的には何ら関係がない。ということです。

それでは、なぜLARPとQアノンが関係性があるように見える場合があるのでしょうか?

一つには、例に挙げた議会議事堂に市民らが乱入した事件で逮捕された「Qアノン・シャーマン」ことジェイコブ・アンソニー・チャンスリーが、日本では「バッファロー男」などと報じられる程度に、奇抜な格好をしており(顔を赤・白・青で塗り、角のついた毛皮の帽子をかぶったいでたち)その姿を「LARPをしているようだ」と評する人々が(欧米においては『LARPという言葉』はそこそこ認知されているため)多くいた事にあると考えられます。

ただ、こうした事は表層的に見えやすいところと言えますので、もう少し深堀りしていきましょう。

深掘りする上で挙げたい見解として、Qアノンとその支持者たちの活動が「LARPと同じように現実と虚構を混同する機能がある」という見解が見受けられます。しかし、実際の活動内容を見るとどうでしょうか?

LARPの場合

LARPに関わる人たちの活動の特徴は、「参加者は、『現実の空間の中で』LARP中に行われることは『虚構である(現実のものではない)』ことを事前に説明され、LARPが終われば参加者は現実の自分に戻ること」を重視されています。そのため、LARPをしている時とLARPをしていない時の自分を明確に分け隔てる意識を持って関わっていることが特徴です。

LARPは、「エンターテインメントとして、現実の自分自身(の心や体の働き)を用いて虚構の設定に没入し、体験や経験することを楽しむこと」を目的とする文化的な活動です。そうした活動の実態として、LARP中は現実の自分とそれを取り巻く環境を「虚構の設定」に重ね合わせて「体感」したり「行動やその結果」をシミュレーションする事が有ります。これをしている風景を、LARPに参加していない人たちが外から観測した場合、しばしば「現実と虚構を混同している」と見做されるのかもしれません。

しかしながら、そうした認識は誤りであると私は考えます。LARPの参加者たちは、最初から「これから行われることは『虚構』である」事を前提として活動しており、現実の物に対して虚構の設定に「見做し」た行動をすることはあっても、虚構の世界と現実の世界を混同して扱ってはいないからです。むしろ、積極的にそういった混同が起こらないように注意し、運営されます。

Qアノンの場合

一方、Qアノンの活動は、「『Q』と称する人物が投稿した謎かけに等しいメッセージを読み解く者たちが存在し、それによって読み解かれた内容が世の中から隠された真実であり、支持者らがアクセスした情報は、『虚構であると否定(評価)されているが、それは間違いであり、自分たちの主張は真実なのだ』といった言説によって、そういった情報に触れている時は「現実の自分」への帰属意識が高い状況にあります。つまり、活動に「自分自身」として関わっていることが特徴です。

そして、支持者たちは、その活動をエンターテインメントとして楽しんでいるわけではありません(一部、結果としてエンタメ化している側面もあるように思われますが)。Qアノンの支持者たちは、その情報を真実だと信じ、それに基づいて行動しています。しかしながらQアノンは、その情報源やメッセージの真偽について、十分な証拠を提示していないことが指摘されています。また、Qアノンの主張がそれを支持する人々によって現実に社会的混乱や暴力行為を引き起こす可能性があることが懸念されています。そういった背景から、「虚構と現実を混同させている」という見解が存在します。Qアノンの支持者たちには、社会によって虚構であると否定された情報を真実として信じ込む傾向があるためです。しかしながらこれは、現実と虚構を混同しているということではなく、情報の真偽を判断する手順と姿勢・能力に関わる事であると言えます。

また、Qアノンの活動には、謎かけに等しいメッセージを発することで、そのメッセージを読み解いた者に「真実を掘り当てた」という達成感を与える構造があります。しかしながら、その情報の真偽について十分な証拠がなく、曖昧であるならば、それはともすれば虚構の情報を現実のものであると信じさせるための意図された構造が見えるように思われます。
ここまで述べた事を改めて簡潔にまとめます。

LARPは、関係する全員が「虚構であることを前提として、虚構で設定付けられた事象に触れて体験し、自らへのフィードバックを楽しむこと」を目的とした娯楽・学習を伴う文化活動である。

Qアノンは、関係する多くの人々が、「現実の自分に関わっていることを前提として、様々な事象(この中には、根拠がないものも含まれる)に触れて体験や自らへのフィードバックを蓄積する中で、拡散を伴っていく」目的をもった活動である。

ここで、1つの問題が発生します。
Qアノンの活動が「陰謀論的であり、虚構である」という前提が社会的に存在する今。一般的な普通の感覚として読めば、上記のまとめは、以下のように読解できるのです。

LARPは、関係する全員が「虚構であることを前提として、虚構の設定をLARP中は現実空間で行うことで没入し、事実として体験することでLARP中に行われたことを自らへのフィードバックすることを楽しむこと」を目的とした娯楽・学習を伴う文化活動である。

Qアノンは、関係する多くの人々が、「虚構に満ちた言説を真実と信じ込み、虚構と現実を混同することで現実の自分に関わりがある事を前提として様々な事象(この中には、根拠がないものも含まれる)に触れて体験や自らへのフィードバックを蓄積する中で、拡散を伴っていく」目的をもった活動である。

このように、前提部分は違うものの、文脈としては虚構に触れながら自らへのフィードバックを伴う活動を行っているのだから、似たようなものではないか。という様に、読解できてしまうのではないか。

これによって、LARPとQアノンには直接的な関係性は無いにも関わらず、「虚構と現実を混同させている」という見解が成り立ちやすい状況にあるため、結果としてLARPとQアノンには関係がある。とみなされている状況が生まれているように思われます。

しかしながら、くどいようですがLARPとQアノンは、直接的には何ら関係がない。ということにつきましては、ここまでご説明したとおりです。

さて、これ以降の文章には、インターネット上を検索する中で「ということがあったらしい」とか「根拠薄弱」で「風聞」を伴った信ぴょう性に乏しい事柄をもって、LARPとQアノンに関する言及を行っていきます。眉唾ものの文章ですので、ポテチとコーラを片手に読んでいただけますよう、強くお願い申し上げます。

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