レポート◆Ⅲ◆グレンスミス

そして 3 組目、グレンスミスの登場です。

今回は谷澤智文さんを加えた 5人編成。パーカーやネルシャツといった服装でそれぞれのポジションへ着きます。

あれ…?

みなさん、とてもラフで、くつろいだいでたち…。

(一番手の谷澤さんも然りでしたが)打ち合わせ当初、「せめてみんなフォーマルな服装で」という案も出ていた気がしたのですが…と、思っていると。

 1st 『 ROMAN ALBUM 』の 1曲目“泣き虫モンスター”から、続けて2nd 所収の“はじめてのぼうけん”と、しっとりとしたスタート。どちらもテンポはわりとゆったりとしていながらも、シンプルなことばがリズム良く紡がれ、それらを乗せるアンサンブルは分離することなくひとつの塊として、油絵具のように滑らかに情景を創ってゆきます。

テクニックやスキルについて、今だって言及できるほどわたしは詳しくは無いけれど、そこに考えを巡らせるよりも早くもっと原初的に、「この曲すてき!」とときめいていた、音楽への憧れが蘇ります。

久し振りにそのときめきを揺り起こされて、グレンスミスの世界に足を踏み入れかけた頃。 3 曲目に移る前に、宮崎さんの MC が入り・・・。

いきなり『ギムナジウム』と言おうとしてさんざん噛んだ挙句、『今日は、ギム何とかナイトだということらしい』とはぐらかされます。

「ちょっと待って!」というツッコミや戸惑いがありながらも、宮崎さんが喋りながら弾き始めてしまった“ 10 年前”のイントロのピアノの軽やかさ、美しさには、口惜しいくらい何も言えなくなってしまうのでした。

“10年前”は、文字通り10年越しに邂逅するファンと作家の物語なのですが、柔らかいことばで描かれる詩情と夢は、正しく少女漫画のそれである。郷くんが女性ことばで『でも、なんか来ちゃった』と歌う部分なんかは、『かくありたし』とあこがれるヒロイン像です(字面だと小悪魔感も加わるけれど、あざとさがないのよ)。

続く“こいやみ”という曲は2nd『Stevenson Screen』の試聴会で、一聴き惚れした曲でした。マイナー調で七五調にも近い日本的なフレーズ運び。恋することの切なさ痛さを押し出し、聴き様によっては禁じられた想いが隠されているとも取れる、深みのある曲です。これがライヴでどうなるかというのは毎回の愉しみ。前回はアコーディオンが入ってちょっとウェットでしたが、今回のバンドアレンジは思い切り良く、覚悟を感じる様にと印象が変わってきます。

そこからは“ネジの雨”“ティーンエイジ・ウルフ”そして「今回のイベントに一番近そう」(宮崎さん・談)な“センセートセート”と進みゆきます。合間に挟まれるMCは、なんとかギムナジウム話に寄せようとしてくれているのです。が、空回りの感、あり…。

少なくともこの日は非公式、未認証ではありますが、『萩尾望都』という作家への憧憬を軸にして、ギムナジウム、或いは寄宿舎、少年性というテーマをひとつ掲げていたのです。それはいわば額縁のようなもので、中に何を描くかは全く演者におまかせ。寄宿舎の少年たちになりきる必要も、演技をする必然もまったくないし、個々のステージでは、演奏は自由であってほしい。

特にグレンスミスは、わざわざこじつけのMCを持ってこなくてもその曲群のロマンティシズムから結びつけるのは容易いし、自然とその叙情性に寄ってきて、「こういう音楽を聴きたかった!」と思うシーンがひとつ、ふたつは浮かぶ筈。

で、あればこそ。

アー写のようなブレザースタイルで演奏する彼らが、観たかったんだけどね!

という思いはありつつも、1st、2ndの曲をバランスよく織り交ぜて全8曲。ラスト、「お好きにどうぞ」というリフレインをシンガロングする“ファンタジーに気をつけろ”という曲が、彼らからのこのイヴェントへの答えであったような気がしています。稀少な機会のライヴですが、グレンスミスのグレイテストヒッツをしっかり見届けられたステージでした。

セットリスト

1.泣き虫モンスター

2.はじめてのぼうけん

3.10年前

4.こいやみ

5.ネジの雨

6.ティーンエイジ・ウルフ

7.センセートセート

8.ファンタジーに気をつけろ

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