レポート◆Ⅰ◆谷澤智文
さて。
11月23日、祝日の夕刻にいよいよ幕が開きました、
『ビロード蝶のほどきかた~今宵、ギムナジウムで~』。
オープニングにご登場くださったのは、谷澤智文さん。
ステージに現れたそのいでたちは、全体的にゆるーっとした、フォークロアを感じさせるコーディネイト。
まず、学園内では見かけないタイプです。
浮遊感を前面に出し、「不可思議だ」という言葉で始まった1曲目“惑う星”。続けて“Why don’t you come with me?”“マインド・ゲーム”と3曲通して披露。
“マインド・ゲーム”が終わったところで、「谷澤智文です」とストレートに自己紹介。
谷澤さん、この日、ご自宅で獲れた野菜をご持参くださり、『谷澤農園』ということで物販で販売していたのですが、それについて
「イギリスの寄宿舎で獲れた野菜です」と紹介。
そうか、谷澤さんはギムナジウムの園芸部員で、あったか…。
(ちなみに、イギリスだと多分ギムナジウムではなく、パブリック・スクールですね・・・。おそらく少女漫画のギムナジウムは、それも足して2か3くらいで割ってると思うので何ら問題は無いですが。と、野暮天)
MCのあとは“アカシック・レコーディング”そして流れるように“宇宙旅行”と、全5曲を演奏し、舞台を去ります。
『スペイシー』というキイワードに偽りなし。無重力を思わせるような柔らかいエフェクトを効かせたギターと、伸びやかな歌唱は“壁”をどんどん押し出し、空間を拡張してゆきます。そんな音像といい、ヴィジュアルといい、眼に見える姿はギムナジウムから遠く離れた地平に居るように見えました。
だがしかし。
『少女感覚の傾向と対策』という、萩尾望都さまと松岡正剛氏の対談記事(『色っぽい人々・同色対談』所収)のなかに、稲垣足穂が少年感覚について『いま、星をポケットに入れてきたばっかりの少年たちの横顔』と評した、と望都さまが語る箇所があります。そのセンテンスの美しさに思わず見惚れて、メモして鞄に忍ばせていたのですが、谷澤さんの歌を目の当たりにして、その一行が思い出されました。
限定的ではあるけれども、足穂や鳩山郁子さん、(ともすれば、あがた森魚氏の描く少年も)が描くようなまっすぐで硬質な少年像を、谷澤さんの歌に思いました。エフェクトを駆使してスペイシーな音を構築する部分は、実験を好む理科室の少年性。そこに重なるメロディや詞は時々、唱歌のようにも感じられ、音楽室のノスタルジーへと想いが駆け巡ります。まっすぐシンプルに正面から向かってきたかと思えば、心の底に入り込んで、記憶をくすぐるような仕掛けも併せ持っている。
寄宿舎、からは少し離れるけれども、放課後、見慣れた学び舎で、(ギムナジウムにはまだ年若い)夢想する少年たちが其処彼処を自由自在に走り回っているー。少々強引ではありますが、イメージはそちらに引き寄せられてゆきます。
“宇宙旅行”でのコール&レスポンスに、突然振られたお客さん方、戸惑いながらもか細く返します。その覚束ないながらも徐々に徐々に集合してゆく様子がまた、浮遊する楽曲の雰囲気にぴったりと合う。
その佇まいは今回のモチーフと遥か彼方にあれど、看過できない引力が谷澤さんのステージにはありました。
※ご自身で早速、この日の動画をUPされているので、是非ご覧ください。
前半3曲
後半2曲
セットリスト
1.惑う星
2.Why don't you come with me?
3.マインド・ゲーム
4.アカシック・レコーディング
5.宇宙旅行
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