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朝はふたたびここにあり


高校時代、演劇部員でした。
進学校だったためか、けっこうとがった感じの人が多く、練習の時は三島由紀夫や別役実などの戯曲を使ったりしていましたが、文化祭や市のコンクールではさすがにオーソドックスな「高校演劇戯曲集」などの脚本を使っていました。

高校一年の文化祭と市のコンクールでやったのが、そういった戯曲集に掲載されていた佐藤良和さんという方の「空は光り もう鳥は帰らない」という作品。広島・陸軍航空隊のミッションスクール出の女子挺身隊と22歳の陸軍技術少尉との恋物語を絡めた、昭和20年8月5日から6日にかけての広島のお話でした。(女子挺身隊というのは学徒動員の女性版のようなもので、主に軍需工場などで労働させられていたものだそうです。)

私はその中で唯一広島弁を話す「立岩邦子」という脇役をやらせてもらったのですが、新潟の高校生で広島弁なんか聞いたこともないのでアクセントもよくわからないまま「許してつかあさい」とか言ってました。(今ならもっとましに広島弁話せるのに!)

タイトルに使った「朝はふたたびここにあり」というのは、この作品の冒頭と、「その日の朝」に挿入される「朝」という歌の歌詞です。(島崎藤村作詞)

朝はふたたび ここにあり
朝はわれらと 共にあり
埋もれよ眠り 行けよ夢
隠れよさらば 小夜嵐(さよあらし)

野にいでよ 野にいでよ
稲の穂は 黄にみのりたり

元の曲は思いっきりド軍歌なのですが、舞台でやる時は女性だけで歌ったテープを使いました。なので私の記憶の中の「朝」は、女子挺身隊の皆で軽やかに歌うバージョンです。

毎年8月6日を迎えると、この歌を思いだします。

また来年も、あたりまえに朝がふたたびここにありますように。

※余談ですが、私が演じた立岩邦子は、一人だけ広島弁の狂言回し的な役回りで、挺身隊の同僚の子と両思いの技術少尉に自分も密かに想いを寄せつつ、明日戦地に赴く少尉と彼女に「ここで結婚式してしまえばええんじゃ!」と言ったりする切ないシーンもあったりしました。そして私自身、少尉役の先輩にリアルに片思いしていて…という甘酸っぱい思い出てんこ盛りだったり、というのはここだけの話です。

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