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Book「世界は五反田から始まった」

この本のことを知ったのは、HONZの書評からでした。まず題名にびっくり。「えっ、五反田って、あの五反田?!」

戸越銀座と五反田は直線距離でわずか1・5キロほどしか離れていない。この界隈に住む人にとっては、戸越銀座商店街も五反田駅周辺も生活圏なのだ。五反田駅を中心とした半径約1・5キロの円を、著者は〈大五反田〉と呼ぶ。
本書は〈大五反田〉の歴史を著者の個人史と結びつけて掘り下げた一冊だ。知らない街や他人様の歴史に興味はないと敬遠するのはあまりにもったいない。実は五反田は、日本の近現代史のエッセンスが凝縮されたような街なのである。「世界は五反田から始まった」という書名はけっしておおげさではなかった。戦後77年をきっかけに何か読みたいと考えている人がいたら、真っ先に手に取ってほしい傑作ノンフィクションである。

身近なエリアの見覚えのある地名がどかどか出てくる書評、そしてその切り口の斬新さに、読んでみたくなるのに時間はかかりませんでした。

「実家が戸越銀座で町工場を経営していた」という言葉にまず驚きました。「戸越銀座」と「町工場」が結びつかなかったのです。でもそれは、「戸越銀座」をあの商店街だけで捉えていたから。少し路地に入ると、実はそれらしき建屋が実はまだあるのです。

大正から昭和のものづくりを支えた下請け工場は、時代の流れの中で軍需工場の末端を担うようになり、そしてその性質から米軍の空襲を何度か受けることになったこと、なぜ五反田駅前にあんなにラブホ街があるのかということの歴史的経緯などが丁寧に調べられて書かれつつ、この本に引き込まれていくのは、単に歴史上の出来事を列挙するのでなく、「著者自身のルーツをたどる」という視点を軸として展開していくからでした。

建物疎開、武蔵小山の満州開拓団の悲劇、東京を幾度も襲った空襲は実は時間が経つにつれ性質が変わっていったこと等々、自分の中で点と点になっていた様々なことが「五反田」をキーワードに大きな面となり、流れとなって見えてくるのに、とても知的興奮を感じました。

東京大空襲のあとにも東京各地で空襲があったけど、死者の数が変わっている。それはなぜか。その時代を生きているひとたちの生き残ろうとする姿が浮き上がってきます。第49回大佛次郎賞受賞というのも納得。

五反田には縁のない皆様(と言うか、ほとんどの方は縁がないと思います)も、ぜひお読みいただきたい一冊でした。


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