奇跡のような雑誌「クウネル」の終わり

マガジンハウスにku:nel(クウネル)という雑誌がありました。
2003年創刊。コンセプトは「ストーリーのあるモノと暮らしを提案する隔月刊誌」でした。「でした」というのは、昨年末に一旦お休みして、今年の1月20日にリニューアルして再登場したからです。

もともとのクウネルは「あのマガジンハウスがこんなに地味な絵面の雑誌を出すの?!」と驚くような、トレンドとか都会とか流行とかにくるっと背を向けた、市井の人々が日常を丁寧にそっと楽しく生きる暮らし方を次々と紹介してくれる雑誌でした。どこかで名前を聞いたことのある人たちがキラキラした自分のお薦めものを教えてくれる、という、よくある雑誌のフォーマットとはえらく違う趣きで、出てくる人たちは半分以上知らない、いわゆる「ふつうの」人ばかり。その「ふつうの」人たちのふつうの、でもそれぞれにちょっとこだわりを持った暮らしぶりに「おおっ、これは」とうなったり「うわあ、ステキ」とうらやましくなったり、そんなキラリと光るものが見えてくる、そういう特集で出来上がっている雑誌だったのです。

私がクウネルを知ったのは7~8年前。当時は季刊でした。美容院でふと手に取ってみて、なんてユニークな雑誌なんだろう、と一気に引き込まれ、以降美容院に行くたびにクウネルを読むことに。担当の美容師さんも私がクウネルを気に入ったことに気付き、私の席の前には必ず最新号を置いてくれるようになりました。

たとえば、2010年7月号「京都のこみち。」での特集で紹介されたお店はこんな具合。

「ふだんのあんこもおいしいえ」で紹介されている数々の食べ物がどれもこれもとてもおいしそうで、次回京都に行った時はぜったい立ち寄ってためしてみたいと思ってしまいます。
冨美屋さんの「小倉クリーム」。
日栄軒本舗さんの「懐中しるこ」。
小多福さんの8色おはぎ。
末廣屋さんの「老松」。
中村製餡所さんの「あんこ屋さんのもなかセット」。

どれもこれも色は地味め。おそらく他の雑誌の京都特集では決して出てこない、そこに住む人たちが普段遣いにして「ああ、おいしい」といただいているあんこのお店の数々だと思います。

そんなクウネルがいつか隔月刊になり、なんだかちょっと苦しそう、と思っているうちに入った「リニューアル」の報。新しい編集長は「オリーブ」などを手がけられた名物編集長さんらしい、と知り、「ああ、もしかしたら、今の素朴な居心地のいい『クウネル』はもう終わっちゃうのかな」そう思いました。いかにも儲かりそうにない紙面でしたものね(失礼)。

そして、予感は的中し、長年定期購読していた読者の方々の悲痛なコメントがAmazonレビューに並ぶことに。

レビューにあった

「ずっと宝物のような話を読み続けられた今までが奇跡だったのかもしれません。いろいろな事情をうかがわせるリニューアルでした。」

という言葉が私の今の気持ちをとても現してくれています。ああいう雑誌はもうお金にならない「道楽」の域なのでしょう。出版社が「ストーリーのあるモノと暮らしを提案する」ことをビジネスとして成立させられない、そういう時代になっているということなんですね。もしかしたらとっくになっていたけど、もう少し、もう少しと無理をしてくださっていたのかもしれません。申し訳ないです。お金にならない読者で、本当にごめんなさい。

新しいクウネルは、

好奇心がいっぱい、人生を楽しむことに積極的な50代の大人の女性たち。そんな素敵な女性たちにエールを送り、ともに新しい世界を広げていくことをめざして。

というコンセプトとのこと。もちろんそういう雑誌を求めていた方もいらっしゃるでしょう。それはそれとして、いいのだと思います。私自身はそういうものは他の雑誌でもう充分、というだけで。

これまでのクウネルの編集スタッフの皆様に心からお礼を申し上げます。
唯一無二の雑誌でステキな、ほっとする時間をくださり、本当にありがとうございました。
手許にあるバックナンバーを大切に読み返し、記事文中に出てくる場所を少しずつ実際に訪れてみたいたいと思います。

クウネルくん劇場 Vol. 87 それぞれのさようなら 

を見ながら、お別れします。ありがとう。さようなら。

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