24年前にビジュアルチャットを舞台にしたNHKドラマ「ネットワークベイビー」
先日ネット仲間と3人で飲みに行った。ひとりはパソコン通信「ニフティサーブ」時代からの長いつきあいで、この間ネットの世界はいろいろあったよねぇ、なんて話をしていたら、「ハビタット」の話題になった。
「ハビタット」というのは正式には「富士通ハビタット」という名前のサービスで、富士通が提供していたビジュアルチャットのこと。今では画像でアバターを動かして出会った相手とチャットする、なんていうのは特に驚くこともないサービスだと思うが、これが提供されたのは1990年。今から24年前のこと。現在と比べるととても貧弱なPCの処理能力と通信回線の容量であれを実現していたというのはすごいことだったのではないかと思ったりするのだが、それはともかく。
ハビタットと言えば、という流れで出てきたのがドラマ「ネットワークベイビー」。ハビタットをモデルにしたようなビジュアルチャットゲームを舞台にして、若くして子どもを亡くした女性が仮想世界の中であるキャラクターと出会ったことをきっかけに、止まっていた彼女の時間が動き出していく物語。調べたら1990年5月の放映だった。
あれは名作だったよね、すごかったよね、なんて思いだしながら話していて、それをツイッターでもつぶやいたら、ツイートを見た知人が録画ビデオを貸してくれることになり、放映以来実に24年ぶりに「ネットワークベイビー」を見ることができた。
24年ぶりのTVドラマは、さすがにヘアメイクやファッションなどの風俗は90年代というバブルの残り香のある時代を感じたが、ストーリー自体は古くさく感じることはなく、むしろ自分が年齢を重ねた分胸に迫ってきた。主役の京子は富田靖子が演じているのだが、これが非常に素晴らしい。ある種の狂気を内在した役は彼女にとてもよく似合う。
あらすじは下記のような感じ。
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経理から新技術開発のプロジェクトチームに異動となった京子は、開発中の新しいゲーム「ハロリアン」のテストモニターを頼まれる。ゲームどころかPCもほとんど触ったことのない彼女はとまどいながら自宅でログインし、わけもわからず迷い込んでいくうちに、生まれたての子どものようなキャラクターと出会う。「わたしに名前をつけて」とキャラクターから言われた時、京子は「なみ」と入力する。そして「あなたの名前は」と聞かれ「まま」と。「なみ」(奈美)は、京子が3才で亡くした娘の名前だった。離婚して一人で暮らしていた京子は、キャラクターとのつきあい方を「子育てのようなもの」と同僚に言われたことから、「なみ」を育てていくことに夢中になっていく。そんな折、「ハロリアン」のリリースを急遽一カ月前倒しにすることが決まり、3月31日にテストデータをすべて消去することになった。それは「なみ」も消えてしまうことを意味することを知った京子は、その日に向けてある計画を立て、準備をしていくのだった…。
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4月1日は奈美の誕生日であり命日。この日で時間が止まってしまっていた京子が、「なみ」に思いのたけを伝え、誕生日を祝うことができたことでやっと歩きだすことができた。ラストの元夫への「さよなら」を言う明るい表情がとても印象的だった。
なにせ24年前なので、PCや電話器などのツールは懐かしさを感じるレベルのものだ。京子が電車の中で携帯電話を窓にテープで貼り付け受信しながらラップトップPCに文字を打ち込み続けるシーンは鬼気せまるものがあると同時に時代の激しい変化を強く実感した。
子どもを失った母親の思いという普遍的なテーマを、仮想世界という当時では最新のテクノロジーとからめてまとめあげた物語はとても印象深いものであり、今見ても充分通用するドラマだと感じた。
残念ながらDVDにはなっていないようだが、この後世に残すべき名作をNHKさんにはぜひDVD化していただきたい。
ところで、ハビタットをモチーフにしたこのドラマはもちろん富士通が全面協力だったと当時耳にした記憶がある。おそらくハロリアンの画面やマシンなどは富士通で提供したのだろうと思う。(クレジットには富士通の名前はなかったが)
参考リンク:
主なテレビドラマ番組年表1990~1994(NHKテレビドラマカタログ)
スペシャルドラマ 1990年以後(NHKテレビドラマカタログ)
大河と朝ドラがNHKドラマの看板であるように、単発ドラマやドラマスペシャルはNHKらしい質の高さを問われるジャンルである。1990年代に入ってNHKスペシャル・ニューウェーブドラマが始まる。この時期はドラマ草創期からの巨匠世代から中堅世代へのディレクター交代期にあたり、さらに若手ディレクターを大抜擢して活性化させようという大胆かつ画期的な企画だった。第1シリーズは「エデンの街」(演出・杉森秀則)「ネットワークベイビー」(片岡敬司)「ネコノトピアネコノマニア」(木村淳)の3本。若いスタッフの瑞々しい感性とパワーが新鮮だった。
ニューウェーブドラマ ネットワークベイビー(テレビドラマデータベース)
第17回放送文化基金賞奨励賞受賞作品。「純愛が時代のトレンドになる昨今、現代人は純な心に飢えている。金銭がらみのホンネとは異なり、もっと人間的に生きるための「純粋なもの」が、これほど必要とされている時代はない。このドラマは、純な心を取り戻すために、そして純な心を忘れないために、コンピューターを使った1人の母親の物語である。【この項、NHK広報資料より引用】」「ドラマに最先端のコンピュータ・テクノロジーを導入した新しいスタイルのドラマで新世代のファンタジーを鮮やかに描いている」(放送文化基金賞受賞理由より)。
ネットワークベイビー(1990)(allcinema)
放映日 1990/05/01
放映時間 22:00~23:00
放映曜日 火曜日
放映局 NHK
上映時間 60分
製作国 日本
ジャンル ドラマ/ファンタジー
【クレジット】
演出: 片岡敬司
原作: 一色伸幸
脚本: 一色伸幸
音楽: 久石譲
制作: 澁谷康生
出演: 富田靖子
蛍雪次朗
川上麻衣子
橘ゆかり
斉木しげる
酒井敏也
向井亜紀
高野智子
古川友美
伊藤真
富士通ビジュアル通信15年の歩み
#ハビタットについてはこちらに詳しく説明されています
自分の分身が動き、しゃべるHabitatは、ゲーム機などと異なり、「人」と「人」が出会うオンライン上の仮想空間。その不思議な世界は、テレビや雑誌、そしてネットワーク研究者にも、さまざまな話題を提供してきました。
※2013年1月にブログ「くりおね あくえりあむ」に公開した記事を加筆修正
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