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山際経済再生相辞任ドキュメント

 岸田首相は、旧統一教会との関係が相次いで浮上した山際氏を巡り、対応に逡巡を重ねてきた。

臨時国会前

 臨時国会前の9月下旬には、首相は「山際さんが自分の口で説明できないようなら困ったことになる」と周囲に不安を漏らし、松野官房長官を通じ、山際氏に自ら辞任する考えはあるかどうかを探ったこともあった。
 しかし、山際氏は「辞任の考えはない」、「しっかり説明するから大丈夫です」と強気の姿勢で、首相もそれ以上の対応は求めなかった。
 首相は最終的に、山際氏が野党から本格的に追及を受ける今月17~20日の衆参予算委員会の審議を見て、山際氏の処遇を判断することを決めた。
 首相には、山際氏が経済対策や新型コロナウイルス対策の責任者で、辞めさせれば混乱は避けられないとの懸念もあった。山際氏が国民の納得できる説明をすれば、続投は可能だとも期待したようだ。

 しかし、首相の思いとは裏腹に山際氏は旧統一教会との関わりについて、曖昧な説明を繰り返した。自民党内からも「答弁する姿勢が不誠実極まりなく、開き直りともとられかねない」と批判がわき上がった。
 また、野党側だけでなく与党内からも「瀬戸際大臣」だと揶揄する声も上がり、辞任は時間の問題との見方が広まった。(石井準一参院議院運営委員長は17日夜、「『瀬戸際大臣』の首とれんのか、野党がだらしないね」と発言したが、野党からの批判を受け謝罪した。)

 首相も「このままでは、新たな経済対策の裏付けとなる2022年度第2次補正予算案の審議は乗り切れない」とみて、20日の審議終了後、山際氏の辞任に向け、調整を本格化させた。

更迭の検討

 政府関係者によると、官邸サイドが山際氏に見切りを付け、閣僚交代にかじを切ったのは先週半ば。17日から始まった衆院予算委員会で山際氏は、野党から教団側との関係を問われても「記憶にない」「資料がないので分からない」などと不誠実な答弁を連発し、傷口を広げていた。さらに18日には「これから新しい事実など、さまざまなことが出てくる可能性はある」。自民幹部からも「もっと、まともなことが言えないのか」と突き放されていた。
 首相の下には「かばえばかばうだけ、政権の寿命を縮めますよ」と連日、山際氏の更迭を求める意見が届いていた。しかし、山際氏の後ろ盾となっていた甘利明前幹事長の続投を求める説得もあり、首相はいったんは事態を見守る構えも見せたが、最後は押し切るしかなかったという。

 更迭に向けた動きを一気に加速させたのは、教団トップ韓鶴子氏との面会報道だった。山際氏は「18年以外は記憶にない」と説明していたにもかかわらず、19年の面会時の写真がネット上に出回ると、21日の記者会見で追認せざるを得なかった。
 この日、首相は訪問先の豪州で周囲に「国会での説明がずっと同じじゃないか」とこぼし、「説明責任が果たせていない」と不満を隠さなかった。
 「首相はもう辞任させる腹をくくっていた」。周辺はこの時、首相は「更迭」を決断したと認める。

辞任の日

 この日の衆参の予算委員会の集中質疑にも山際大臣は出席した。野党議員から、韓氏との写真について厳しい追及を受けた。
 しかし、山際氏は、「2019年の時には、おそらく、ただ写真を撮っただけだと思いますよ。写真を撮るという行為は、ごく普通に毎日、毎日行われているものだと。先生だって、どこかの方に、『一緒に写真撮りませんか』と撮ることいっぱいあるんじゃないですか」との“開き直り”ともとれる発言もありました。

更迭

 フジテレビが午前11時半過ぎのニュースで『交代も視野に検討』と報じた。しかし、その時点で山際氏の更迭の情報は、総理を含めて5人しか知らなかった。なんらかの形でフジテレビに漏れたのだ。
 この報道を受けて、岸田首相は24日午後2時ごろの国会で、野党議員から“山際経済再生相の交代”について質問され、「そういったことは、全くありません」とはっきり否定した

 参院予算委の集中審議を終えた首相は、午後4時過ぎに官邸に戻ると、自民の麻生太郎副総裁ら党幹部に電話で「閣僚交代」を告げた。
 「仕方ないですね」。山際氏が所属する麻生派の会長でもある麻生氏は既に事態を把握しており、驚いた様子を見せなかったという。

 参院予算委が終了した24日午後、松野博一官房長官が山際氏を東京・赤坂の衆院議員宿舎に呼び出し、首相の意向を伝えた。すでに山際氏には、派閥会長の麻生太郎自民党副総裁からも首相が交代させる考えであることが伝わっていた。

 午後5時に始まる自民党の役員会を岸田首相が突然欠席し、さらに、午後5時45分から山際大臣の出席が予定されていた経済財政諮問会議が突如、取りやめになった。そして、午後7時ごろには、山際大臣が自ら、辞任を表明するという急展開になった。

「こちらの思いは山際氏に伝えていた」。首相は周囲に事実上の更迭だったことを認めたが、後任人事は翌日に持ち越され、官邸の日程も変更を余儀なくされた。

辞任の記者会見

 山際大臣は辞任理由をこのように語った。

「このタイミングで、国会審議にさわらないようにするべきではないかと、自分自身で考えてきたんですけど、このタイミングを逃すわけにはいかないかなと思って」
「外部から指摘をされることによって、それを説明するという“後追い”の説明という形になってしまった。結果として、それが政権に対してもご迷惑をおかけすることになったと」


 また、首相は「職を辞したいという申し出があり、了とした」と記者団にこう述べ、厳しい表情を見せた。自らの任命責任については、「任命責任を感じているからこそ、今後の職責をしっかりと果たす」と強調した。

党内の反応

 物価高対策を盛り込んだ経済対策をとりまとめる直前に担当大臣が辞任するという岸田政権の場当たり的な対応に自民党内からも批判の声が上がっている。
 ある自民党幹部は「今、交代させる合理性は何もない。あまりに場当たり的で訳がわからない」閣僚の1人も「行き当たりばったりが過ぎる」と厳しく批判した。
 また、ある自民党幹部は「山際大臣を辞めさせるなら臨時国会が始まる前にやるべきだった。そもそも、内閣改造で留任させるべきでなかった」と岸田総理の一連の対応を批判した。

後任の人選

 後任選びでは、再び教団側との接点が指摘される事態は避けなければならない。政権の重要政策や新型コロナウイルス対応といった重責を担える人材とすれば「新任大臣には任せられない」(首相周辺)。閣僚経験者から選ぶことが早々に決まった。

 日本テレビは、政府関係者の情報として、後任の大臣には梶山幹事長代行(無派閥)、古川元法務大臣(茂木派)、斎藤元農水大臣(無派閥)ら閣僚経験者らの名前が浮上していて調整を急いでいると報じた。
 また、報道ステーションに出演したジャーナリストの後藤謙次氏は、上の三名に加え、後藤茂之前厚労大臣(無派閥)、松本剛明元外務大臣(麻生派)、宮下一郎党政調会長代理(安倍派)の名前を挙げた。
 さらに、NEWSZEROの番組内では梶山氏、古川氏、齋藤氏、後藤氏、松本氏の名が取り沙汰された。

後任大臣の決定

 首相は25日朝、予定より1時間早めて官邸に出邸。前夜から党幹部らが電話で後任選びへの意見を寄せるなか、候補者は2人まで絞り込まれた。
 午前11時頃、首相は、自民党の後藤茂之 前厚生労働大臣を後任に起用する意向を固め、本人を総理大臣官邸に呼んで起用を伝えた。

 首相は記者団の取材に応じ、「幅広く調整を行うことが求められる重要ポストで、補正予算、経済対策の取りまとめも目の前に控えている。政治経験の豊富さ、説明能力の高さ、経済、社会の変革に向けての情熱という3点を重視し、即戦力としてお願いすることにした」と述べた。
 また、今月、取りまとめる総合経済対策への影響について、「予定どおり行えると思っている。対策を補正予算にしっかりと反映させ、実行していかなければならない。後藤氏には、まさに中心的な役割を果たしてもらわなければならない」と述べた。

 内閣支持率が下がり続ける中経済対策を打ち出し反転攻勢を狙っていただけに山際大臣の辞任は、岸田政権にとって大きなダメージとなった。さらに、旧統一教会との関わりが指摘される細田博之衆院議長などにも辞任ドミノが波及する恐れがある。これから岸田首相には大きな試練が待ち受ける。

参考文献

  • 「政権の寿命を縮めますよ」迷走の末、遅すぎた‟更迭‟の決断(西日本新聞)

  • 山際氏辞任 対応後手で傷広がる…「開き直り」答弁 事実上更迭(読売新聞)

  • 首相が更迭否定…3時間後に急転 山際氏辞任、自民党内から不満噴出(朝日新聞)

  • 山際氏“更迭”その裏側は… 首相周辺「自分から辞表出す形に」(日テレNEWS)

  • 山際経済再生相が辞任意向固める 後任に梶山幹事長代行らの名前が浮上(日テレNEWS)

  • 山際大臣辞任で田崎史郎さんは「辞任ドミノ」の可能性に言及、細田衆院議長の名前を指摘(中日スポーツ)

  • 辞任した山際経済再生相の後任に後藤茂之 前厚労相起用へ(NHKニュース

  • 「説明責任果たせていない」 いら立つ首相、山際氏更迭は豪州で決断(朝日新聞)

  • 山際氏更迭を決断の首相、苦境打開できるのか(産経新聞)

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