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〔58〕白頭狸の戯作 妖曲天の逆手

〔58〕白頭狸の時務随想 妖曲 天の逆手
 これは紀州鷹匠山に棲むこと久しき狸にて候
 われ一介の老狸なれど、この度護国探題の許しにて、
 南光院の號を賜り、法師の一隅に列せられ賜わりしかば
 世に何がしか善根を施さばやと存じ、つらつら一閻浮提を窺い候に
 さても年来、諸力相剋の極みにて、兵馬の争乱処々にあるを観たり。
 時まさに彌勒下生の秋にあたり、これ降臨の予兆ならざるべからず。
 暮春清明の晨、狸の夢寐に現る光景は
 青草原に大船の澪を引きつつ流れゆく
 その船端を叩きつつ謳う声こそ怪しけれ
 諸手にて押せば崩るる船端の
 諸手にて押せば崩るる船端の
 先は、をぐらき蒼波が、渦巻くばかり大海の
 底さへ知れぬ深淵の 在りし処が 今はただ
 芒の茂る青野原
 さては出雲の国譲り 應とこたへて事代のみこと手拍子打ち鳴らし
 諸手せ押せば船端は 崩れて外の大海は
 青草原に変じしと 音に聞きしは これなるか
 天の逆手のいみじさよ 天の逆手の怖ろしや 

 およそ天下の千物万事、悉く対立させて互いの敵となす金神の世となりたぞよ。この度の金神は丑寅の金神だけではないのだぞよ。
 西の方なる憂苦來那国のさらに西なる我利血亜で生まれついたる屠露津鬼なる魔障が世界中に飛散して増やしたる眷属を偽金神となして謀りたる大騒ぎにてあるぞよ。
 もとより金神だけにては成らぬことゆえ、彌勒の下生を待ちて成したる事だぞよ。彌勒が下生されたるは、さる昭和四十七年壬子の歳をもちて弗神の金札をただの紙札とすり替へしインチキの穢れを禊払はんとなされたのだぞよ。
 ともかく天の逆手が打たれた以上、今の世は転覆し、既存のあらゆる勢力はあるいは東西に二分し、または南北に分かれ、古来の内外の境が開裂し、新たに上下の溝が広がるのはだれも止められない。
 今から十年はこれが続き、やがて人類のあるべき次の世に遷るのである。

 

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