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満洲族不在の奉天を張作霖に 預けた 11/22

〔92〕満洲族不在の奉天が張作霖の王国に


 革命党が掲げた政治目的は「打倒清朝・回復中華・樹立民国・地権平等」であったが、宣統帝溥儀の退位に伴い満洲族が支那の統治権を放棄したことによって、「打倒清朝」と「回復中華」は実現し、かっ民族(支那人)による自治は達成した。
 帝政が崩壊して共和制に移行して達成した「樹立民国」は袁世凱の帝政宣言で一旦後退するが、激しい「護法運動」が帝政を撤回させる中で袁世凱が急死して中華民国の政体が固まった。
 残るは「地権平等」すなわち農地の再分配であるが、そもそも土地問題は簡単に片付くことではなく、今後の課題となった。
 孫文の唱えた三民主義、すなわち「民主主義」「民生主義」「民族主義」のうち、第一は達成され、第二もその方向を目指したが、問題は第三の「民族主義」である。
 これが漢族だけでなく少数民族の自治を意味することは言うまでもないが、漢族主体の政体となった中華民国は、大清帝国の版図をそのまま継承し、満洲・蒙古・西蔵・回鶻のほか壮族・苗族など少数民族の自治権を認めなかったのである。
 孫文の唱えた「民族主義」に正反対の事態であるが、漢族政体にこれを是正せんとする意欲は全くなく、ウイグル・チベット問題は今日も重大かつ深刻な問題となっている。
 回・蔵はさておき、満洲はどうなったか。孫文と秘かに提携して辛亥革命を裏側から実行した愛新覚羅家からすれば、革命の目的は「打倒清朝・回復中華」だけでなく、民族の故地満洲に満族の自治政体を樹立して愛新覚羅家が統治することであった。
 大清帝国は皇帝に愛新覚羅氏を仰いだが政治理念を「満漢平等」とし、重要官職は複数でその職に就く満族と漢族を同数とした。人口割では漢族が圧倒的に多いから、参政権において平等とは言えないが、大明帝国から大清帝国への政体変更の経緯からみて、不当なものではない。
 つまり、大清帝国は大明帝国に代って支那の宗主となった満族が漢族と共同統治する中華本部(チャイナプロパー)一八省、外藩として蔵(チベット)・回(ウイグル)・蒙(モンゴル)が加わったもので、本質は合衆国である。
 満洲は領域を遼寧・吉林・黒竜江の三省に分け総称して「東三省」と呼び、宗主国の故地として「封禁の地」すなわち漢族の進入を禁じる政治上の特区とされたが、清朝末期にロシアの南下が深刻な問題となると、多数の漢族の移住を許したのはロシアに対する人民の壁としたのである。
 かるがゆえに、清末期には満洲とくに遼寧省の住民は漢族が圧倒的多数を占めるようになり、ほんらい朝鮮族の集住地であった吉林省にも漢族が入って混住した。もともと人口希薄であった黒竜江省も漢族進入の影響は避けられなかったようである。
 ちなみに朝鮮族について謂えば、北朝鮮人は血統的に満族と血統的にほぼ同一民族であるが、南朝鮮(韓)は歴史的に倭人と混血していて、南北で差異がある。
 辛亥革命の当時、革命党は満洲にも浸入していて革命行動を起こしたが、これを鎮圧したのが馬賊の首領から義勇軍を組織してその司令官となった張作霖である。
 辛亥革命で、中華本部は華北の北洋軍閥と江南の革命党政体に分かれたが、満洲では張作霖隷下の奉天軍閥の政体が生まれたことで、袁世凱・孫文・張作霖が割拠する中華民国はあたかも三国志的な様相を示したが、面白いことに右の三者は、対外的には中華民国として一致していたのである。
 さて愈々満洲の近代秘史が始まる。結論から言えば、張作霖は愛新覚羅家の総帥醇親王がひそかに雇った傭兵隊長であった。
 これを語るのは白頭狸を除いて他にいないはずである。なぜならこの秘実は、狸自身がこれまで調査し研究し、確定した史実を整理統合した結果であって、改めて國體に確認せずとも諒解を得るに十分と信じるからである。
 ちなみに、この白頭狸説の一証は、意外なところに在った。それは堀川辰吉郎が醇親王から引き受けた愛新覚羅秘蔵の奉天文物を紀州徳川家で換金し、張作霖の軍資金としたことである。
 この文物は奉天北陵に秘匿されていたもので、民国三(一九一四)年に張作霖が強奪した体を取り、奉天特務機関長貴志彌次郎少将を通じて紀州徳川家で換金した代金として張作霖に支給したものであるから、実態は愛新覚羅家から張作霖に対する傭兵報酬であった。
 その過程で、関東大震災等により資金事情が悪くなった紀州徳川家
に堀川辰吉郎が資金援助したことが伝えられており、文物の一部は皇室の所管に移された、と聞いている。
 証拠は之に限らず上原勇作元帥と大谷光瑞師の関与も如実で、しかも上原元帥の個人的特務だった吉薗周蔵が遺した「周蔵手記」に具体的に記された内容からして疑いを差しはさむことのできない事実なのである。
 これを公開すれば、日中関係に関してこれまで語られてきたことがいかに皮相的なものであったかを知った日中の官民はもとより、世界中が一驚すること必定である。
 

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