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第五章 需給調整と信用操作 8/30

 第五章 需給調整と信用操作
〔42〕触媒と通貨
 物質の化学反応を触媒が促進し、成体エネルギーの代謝を酵素が促進することが判ったのは二〇世紀のことである。
 二種類の物質間に介在してその反応を促進するものを触媒と言い、酵素もその一種であるが、触媒は化学反応や代謝の前後を通じてそれ自体は変化しない。
 「触」とは接触で「触れること」を意味し、「媒」とは仲立ちを意味するから、触媒とは「両者に直接接触して仲立をするもの」の謂いである。
 人類社会で行われる経済活動は財貨(物質)とサービス(エネルギー)の交換行動の連鎖であるが、触媒と同様にこれを促進させるものが社会に存在する。これが「信用」であるが、言ってみれば「社会的触媒」である。
 化学工場では生産のために触媒を購求し、人間は身体を構成する栄養素を取り込み、または活動エネルギーとするための酵素を摂取するが、これと同様に、社会は経済活動の循環を促進するための「信用」が必要である。
 通常の用語としての「信用」は、以下の三つのどれかを意味するが、ここで論じるのは、その内の三である。
 一・確かなものと信じて受け入れること。
 二・過去の実績から信頼できると判断すること。
 三・後日の反対給付を期して現在給付する債権債務関係。
 
 人類社会が拡大発展してきたのは、各経済主体がそれぞれに行う生産活動もさることながら、これを組み合わせた社会的分業によるものである。
 社会的分業は各経済主体の生産行為の組み合わせによって成り立つが、その組み合わせを促進するのが「信用」で化学反応における「触媒」と同じ作用をする。
 触媒は必ずしも無機物とは限らず、光触媒のようなエネルギーや酵素のごとき有機物などさまざまな態様があるが、「信用」にも貨幣のごとき無機物のほか、人的信用のごときエネルギー類似の心理作用、債権債務のような酵素類似の代謝促進作用がある(あくまでも比喩ですから深く考えないように願いたい)。
 人類の社会を構成する根本的要素が「信用」であって、もしそれ何れの態様にせよ「信用」が崩壊した場合、その社会はすでに社会ではないのである。
 つまり「信用なき社会は存立しない」ので、これを「信用の第一法則」とするが、次に第二法則がある。「経済の拡大発展は必ず信用の拡大を伴う」これである。
 経済の成長とは財貨・サービスの生産額が増大することであるが、
経済成長には必ずそれに応じた信用の増加を必要とする、というのが「信用の第二法則」なのである。
 ここまでくると第三法則もありそうで、本稿を書き進めていくうちに、発見されるような気がする。


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