成年後見(せいねんこうけん)という「福祉」のお手伝い(支援) sono1 成年後見の意味としくみ

いわさき生活福祉研究所 社会福祉士 いわさき としつぐ

 
☆彡 こどもの権利をまもり、きちんと手に入れるためのお手伝いをする「未成年後見」(みせいねんこうけんに対して、
☆彡 おとなの人の権利をまもり、きちんと手に入れるためのお手伝いをするのが「成年後見」(せいねんこうけんです。
 
※ 民法が改正さて、「成年」の定義がかわり、ちょっと面倒くさくなりま  
 したね。でも言葉の意味はわかりましたよね。「未成年」と「成年」で 
 す。
 
▢ 「権利」をきちんと手に入れる?
 わたしたちは「権利」というものを持っています。
 学校に通っているみなさんだと「基本的人権」(きほんてきじんけん)という言葉が教科書にでてきます。 ここでいう「権利」というのは、あの「基本的人権」のことです。

 「基本的人権」の中身は「日本国憲法」が、説明しています。
そして、「権利」は全ての人に保障されています。その根拠は「日本国憲法」です。
 つまり、憲法が日本に暮らす全ての人に「基本的人権はあなたのもの」と保障しているのです。そして、その中身についても「これが基本的人権です」と一応示しているのです(実際には、かなり抽象的な表現で書かれていて、過去の裁判の判決⦅判例⦆によって、少しずつ具体的になりつつはあります)。
 
 ただし、日本における法律のしくみは、この憲法や「基本的人権」の保障も含めて、「人」は「自分で情報を手に入れて、自分で手続きができて、足りないときはそれを正しく伝えることができる」という前提によって組み立てられています。
 このため、憲法が保障する権利や、様々な法律によって、私たちに保障される利益や恩恵などのほとんどは、いろいろな「手続き」や「申請」が条件になります。
 
 すると、「こども」や「認知症にかかっている人」や「知的障がいを持っている人」・「こころの病気を持っている人」など、「自分の権利」や「自分が困っていること」について、「十分に理解できない人、あるいは「ぜんぜん理解できない人」たちは、様々な法律で決められた「自分がもらえる権利」(たとえば、「補助金」や「福祉のサービス」・「法律のサービス」・etcなど)に気づけないで損をしてしまいます。
 また、誰かに騙されて「自分がもらえる権利」をとられてしまったり、「いじめ」にあっても何もできない、気づくことができない(これらは「権利侵害(けんりしんがい)」といいます)ことがあります。
 
 「権利をまもる(権利擁護 けんりようご)」という活動は、「権利侵害」に合わないようにお手伝いすることです。

 「きちんと手に入れるためのお手伝い」とは、本人が持っている権利やこれから手に入れることが可能な権利についての情報を、本人に知らせて、必要があれば、そのために手を貸すということです。

 法律のしくみや手続きについての理解が不足していて、手にしている状態が不十分な場合は、そのことを伝えて、きちんと手に入れることができるようなお手伝いもします。
 

▢ 「成年後見
さて、こんどは「後見」です。

 文字通り、解釈すれば「うしろからみる」ということになります。「後ろから 観ている」「お手伝い」って、どういうことでしょう。

 実際に活動する「本人」がいて、その上で、その様子を「後ろから 観ている」お手伝いをするということになります。

 この「後ろから 観ていてお手伝いをする人」のことを「後見人」(こうけんにん)と呼びます。このとき、未成年後見をする人を「未成年後見人」、成年後見をする人のことは「成年後見人」と呼びます。
 
 この文章の中で「本人」という場合は、後見人にお手伝いをしてもらう人のことをさします。「後見制度」の中では、「本人」のことを、「(未)成年後見人」に対して「(未)成年被後見人」(…ひこうけんにん)と呼びます。
 
 未成年でも成年でも、後見人の仕事「本人の権利をまもること」です。もしももらえる権利が不十分だったり、そもそも「権利侵害」(本人が当然もらえる権利をもらえず、損害を受けたり、困っている状態…たとえば「いじめ」や「○○ハラスメント」などは、「権利侵害」を受けている状態です)を受けている場合は、その「改善」や、「権利をとり戻す」ためのお手伝いをします。
 
▢ なぜ「お手伝い」なのか
 今、世界で福祉の仕事を行う場合の「理念」(仕事をすすめていく上で「考えたり、判断したりするときの基準」や その「元になる(考えるときの)筋道」)のひとつに「自立支援」という考え方があります。
 
 毎日の生活を営んでいくとき、主役となるのは「本人」です。たとえ「病気」や「障がい」をもっているとしても、「自分が なっとくできる生活」の実現のために「今持っている自分の力」を最大限につかって挑戦することが大切だと考えています。

 もしも、今持っている力では「不足するもの」や「困難なこと」がある場合は、必要な分の「お手伝い」をします。

 必要が認められる場合は「権利をまもるための全ての過程」を、また「生活を創造していくすべての過程」をお手伝いすることもあります。その場合でも、支援する人(たとえば「後見人」)は、「本人の意思」や「本人の希望」を、できる限り確認して、できる限り「本人が主人公」として「(自らの)権利」を行使(正しく、最大限に使う)できるようにお手伝いします。

 「支援」は、「本人」を主人公として、支援する人は、芝居の「黒子」のようなポジションをとりながら仕事をしていきます。
 
 現在の日本における「社会福祉」の援助は、先ほど述べたように「自立支援」という考え方が基本に置かれています。

 目標は「だれもがいきいきと 堂々と 快適な生活を 安全にあたりまえに 手にすることができるようにすること」です。

 人は「自分の力で 困難な問題 を解決し 一つ一つ乗り越えていく」とき、「いきいき」していますよね。日常生活の中で、自分でできないところ、不足しているところをお手伝いしてもらったり、助けてもらうことは、誰でも経験することです。ですから堂々と「助けて」と手を上げていいのです

 誰かに助けてもらうことがあっても、自分で気づいて、必要なお手伝いをお願いして解決していくことを「自立」といいます。
 
「福祉のサービス」や「福祉の援助(お手伝い)」では、この「自立した生活つくり」を目標としています。もうひとつは、自分で解決していくことが困難な場合は「残された能力を最大限に活用して、たとえ少しでも、生活創りのプロセスの中に参加し、できれば主導しながら活動できるようにお手伝いをする」という目標です。人生の活動の中で「本人が主役」となれるように支援することが大切にされているわけです。

 このようなことが「自立支援」と呼ばれる考え方の中身になります。
 
▢ 後見人の仕事
 さて、後見人の仕事を一言で言えば「本人の権利と利益をまもる」と表現されます。
 
 法律上は実際に本人の食事の世話をしたり、排泄のお手伝いをしたり(これらは「事実行為」と呼ばれます)など、介護をすることなどは求められません。
そのような手伝いが必要であれば、「サービスを(本人に代わって)コーディネート」し、不便が無いように環境を整えることが求められる仕事です。
 
 「サービスを使う」ためには、様々なサービスの情報を手に入れ、その中から安くて必要なものを選び、「契約」するこという作業が必要になります。

 例えば「介護保険制度」にあるサービスを利用するためには、まず、地域のケアマネジャーをさがして契約し、相談します。次にケアマネジャーに役所に行って介護認定の申請を行ってもらいます。認定がおりたら、介護計画(利用するサービスの種類や量の計画)を作ってもらい、ひとつひとつのサービス事業者との契約を行います。このような「手続き」や「契約」などは、法律(この場合は「介護保険制度」)が定めるサービスや利益を受けるために必要な行為(作業)です。

 このように、法律が持っている効果(ここでは、補助金がもらえたり、サービスが使えるようになったりすること)を手に入れるために必要な行為(一連の手続や事務作業)のことを「法律行為」と呼ぶわけです。

 後見人の仕事は「法律行為」が中心になります。
 
※実際の日常生活においては、「事実行為」と「法律行為」はつながっていることが多く、後見人が事実行為のお手伝いをすることも少なくないと思われます。
 
▢ 成年後見人に特別な資格は必要ありません
後見人となるために、必要な資格は特にありません。家庭裁判所が「本人の不利益」になる可能性があると判断しない限り、誰でも後見人になることができます
しかし、ここまで述べてきた「本人の利益」とか「権利をまもる」など、深く考えていくと、専門職の後見をお願いする方が良いのではないかと思われるケースも少なくありません。
 
現在、成年後見人や任意後見人などを担っている専門職は、弁護士・司法書士・社会福祉士などを中心に、税理士・行政書士なども活動しています。
個人だけではなく「法人後見」といい、お手伝いが必要な人に対して、個人ではなく、NPO法人や社会福祉法人などが「法人」として、後見人を受任することもあります(最近は、増えているように思われます)。法人が後見の仕事を行うので、担当する部署の誰かが病気になったとしても、同じ部署内で「被後見人」の情報を理解している他の誰かがすぐにカバーすることが可能です。ですから、被後見人としては、個人に後見をお願いするよりも「法人」にお願いする方が安心ではないかと考える専門家も少なくないようです。
 
▢ 成年後見制度のしくみを利用する手順
 成年後見制度のしくみを使うためには、家庭裁判所に申し込み(法律用語では「申立(もうしたて)」といいます)ます。
 
1、 相談
 直接、家庭裁判所に相談してもよいのですが、ご本人が高齢者であれば、身近な「ケアマネジャー」さんに相談したり、「地域包括支援センター」、「役所の窓口(福祉関係の窓口であれば、担当を教えてくれると思います)」などでも大丈夫です。
障がいをお持ちの方であれば、「相談支援センター」のようなところか、「役所の窓口(障がい者支援の担当窓口)」などがあります。
 この他、各地の弁護士会・司法書士会・社会福祉士会、各法テラスなどでも相談に応じてくれます。

2、手続き
 相談に行くと、申し込みの方法や、申立書(「申立の手引き」)の入手、申立書の記入の仕方、他にそろえるべき書類(医師の診断書や必要な戸籍・住民票など…etc)など教えてもらえます。
 その手順に従って、書類をそろえ、家庭裁判所に「成年後見の申立をしたい」旨電話で伝え、面接の予約や必要な手順等を改めて確認します。
 「相談」の際に、話されると思いますが、「後見人候補者」がいるかどうか聞かれます。心当たりがあれば、決めておくと手続きが早く進みます(それに関係する様式が「申立の手引き」の中に同封されています)。思い当たらない場合は「申立」(家庭裁判所の面談)の際にお願いすると、家庭裁判所に登録している専門職団体(多くは、弁護士会・司法書士会・社会福祉士会、地域によっては市民後見受任団体や家庭裁判所が個別に連携している団体などもあるかもしれません)に裁判所が推薦依頼を出し推薦を受け、選んでもらうこともできます。

※最近、民法が改正され、手続きが変わっているところもありますので、相談機関や家庭裁判所に確認してください

3,費用
 「申立」の際、印紙や切手などが求められます。「申立の手引き」や相談機関、家庭裁判所などで確認してください。
 
 ※「申立の手引き」は、相談機関や家庭裁判所の他、家庭裁判所のホームページからダウンロードすることができます
 
 その他、「医師の診断書(様式が決まっており、「申立の手引き」の中に入っています)」が必要で、これは医療機関により額がことなります(私が現役だった2019年頃では、仙台市で、数千円から一万円前後まで)。
 さらに、家庭裁判所が必要と判断すると、医師に鑑定が依頼され、「鑑定書」にかかった料金を求められることもあります(上に同じく、仙台市だと一万円前後から数万円くらい?例外的には十万円を超すこともあるとか…)。
 最後に、「後見報酬」です。家族や親族が行う後見では、無用だと思われますが、専門職や市民後見の一部などでは「後見人に対する報酬」が認められています。
 後見人は、実際に行った仕事(後見)について、概ね1年ごとに家庭裁判所に「後見報告書」を提出します。この時に「後見報酬の付与」を家庭裁判所に申立て、家庭裁判所が認めた報酬の額を「被後見人」の財産の中から受け取ることができます。その額は、仕事の中身や後見人が持つ資格・本人が持つ財産の状況などに応じて裁判所が判断します。
 
 
いかがでしたか?成年後見のしくみについて、少し理解していただけたでしょうか?
次回は「成年後見の中身」について、もう少し詳しい話をしてみたいと思います。

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