図書館本 20冊目 『イラク水滸伝』高野 秀行 後半

一週間ほどかけて後半、最終章まで読み終わりました。
ものすごい読み応えに、何だか自分の旅も終わってしまったような寂しさがあります。

二度目のイラク湿地帯「アフワール」旅で、古代シュメールから伝わる伝統的な舟「タラーデ」の完成を見届けて日本に戻ります。

その「タラーデ」による舟旅を予定していた三度目のイラク行きが、新型コロナのパンデミック等、諸々の事情によりタイミングを失い、延期が重なりました。

旅が延期になっている間に、ネットを介して出会ったのがイラクの「マーシュアラブ布」。
アフワールで作られているという、独特なデザインの刺繍布に魅せられて、次のイラク旅のテーマの一つに据えられます。

過去のイラク滞在でも、身近にあって目にしていたはずなのに、記憶のかけらにも残っていなかった布が今、心を捉えてしまったのです。
カラーの口絵写真の「マーシュアラブ布」が本当に素敵です。

私も、布とか刺繍とか(舟作りも!)、自分では出来ない手仕事にドキドキしてしまうので、ここでまた心拍数が上がります。

三年近くが経って、ようやく三度目のイラク旅へ。

今回の旅のテーマは、①タラーデに乗る ②マアダン(湿地民)の生活調査 ③マーシュアラブ布調査

この全てがとても面白いのです。

マアダンの生活探訪では、湿地での生活の場、葦による「浮島」作りを目の当りにし、(足で葦をガシガシ踏みつけて、水面20cmほど中空に、あっと言う間に居住可能空間を作り上げるのです!それも、快適なのです!)、湿地帯生活に欠かせない水牛の乳を使う「ゲーマル」作りも直に見せてもらい、慣れないIT 機器を使って遊動民の移動経路の調査も行います。

マーシュアラブ布調査では、その布(イラクではアザールと呼ばれていると判明)の特異性から「意外な発見や驚くべき展開の連続」に導かれ、新たな「湿地帯」の世界への繋がりが見えてきます。

もう、ワクワクで息が止まりそうです。

そして、念願の「タラーデ」による湿地探訪。
写真で見る舟がめちゃくちゃかっこいい!

セキュリティー問題と、水不足問題により、当初描いていた広範囲にわたる舟旅は叶いませんでしたが、すでに自分達の地元とも言えるであろう馴染みの湿地帯を、信頼できる楽しい仲間達と巡ることとなりました。

もう、この舟旅が素晴らし過ぎます。
頼りの地元メンバーの衣装の裏切りに高野さんがぶち切れて怒ったり、内輪もめで不穏な空気になったりもするんですが(そんな時の、愛すべき相方、山田隊長の超然とした様子が良いです)、一触即発の場面も、咄嗟の一発ギャグやらで大笑いのうちに和んだり、親しくなった湿地民一家の浮島で、その家族と語らい、すさまじい星空をながめながら一夜を過ごしたり…

イラクの湿地帯に、女性が乗り込んでこのような経験はできないと思います。
高野さんも、女性との接触には相当気を遣われています。
かと思えば、場所によっては女性がもうちょっとのびのびと生活されていたりもするようです。

この本で「ブリコラージュ」という言葉を知りました。
「周りにあるもの、使えるもので、それを生かしてできるだけの事をする」
そんな感じの言葉として何度も出てきました。

「行き当たりばったり」という言葉もとても頼もしく感じられました。

まず動いてみて、上手く行かなきゃ、そこからいくらでも他の手段を講じてみる、何度でも、色んな思いついた方法でやってみる。 (誰も責めたりしない! 考えてからやれよ!とか思わない!)
上手く行ったらみんなで大喜び!
これは楽しい!

地味な強さは本当に強い。

高野さんは、行動力も運も総動員で頼もしい仲間、居場所を作ってしまいます。不運も運のうちとばかりに色んな事に繋がって行きます。

芸は身を助けます。
語学力だけではありません。
まず行ってみて、敬意を持って、関わって、仲間が出来て、ギャグやジョークも教えられて、一発芸で楽しませて楽しんで、土地に馴染んで、仲間を愛して愛されて…
まさに人間ブリコラージュ、ブリコラージュ人間(使い方、合ってますか?)

ブリコラージュ、いいですね。いくらでも言います「ブリコラージュ」
生きものは本来、そうやって生きてきてるはずです。

『イラク水滸伝』はnoteを始めてからの図書館本20冊目、面白い本に出会えました。(面白い世界に、と言えるかも)

(あと、やはりというか、「シュメール」というワードに惹かれて『地球の歩き方 ムー 異世界の歩き方』をパラパラめくっちゃいました…)

『イラク水滸伝』はこう言う本ではないです。念のため。


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