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『工場の業務プロセス改善』を主題にした小説・・・『TOC』(制約理論)とは何か



 『ザ・ゴール』(原起:英:The Goal)は、イスラエルの物理学者エリヤナ・ゴールドラットが著述し1984年に出版されたビジネス小説です。
製造業向けに「制約理論」:件の「制約条件の理論」を読みやすい小説仕立てで説明しています。
2014年時点では全世界で1000万人を超える読者がいるとされ、2001年に発売された日本語版も68万部を超えるベストセラーとなっています。続編も出版されており、人気のシリーズとなっています。
TOCはトヨタ生産方式をはじめとした、日本で経験則的に行われていた方式を分析し理論建てたものです。

「ザ・ゴール」日本語版

1.『TOC』(制約理論)の基本的な仮定

1.「TOC」とは、

 「TOC」とは、「制約条件の理論」(Theory of Constraints)の略です。
しかし、原題(Theory of Constraints)に「条件(Condition)」という言葉がないため、日本語訳としては「制約理論」の方が本来の意味に沿っていると考えられています。

2.基本的な考え方

「業務やシステム全体のパフォーマンスは一番の弱点である制約条件によって決まるため、制約条件(ボトルネック)となっている部分を改善し続ければパフォーマンスは上がる。」

 言い換えると「制約にフォーカスして問題解決を行えば、小さな変化と小さな努力で短時間のうちに著しい成果が行われる」ということです。
ゴールドラット氏は「制約」を肯定的に「レバレッジポイント」と呼びます。
 なおTOCの最終目的は、「スループット」(時間当たりの生産量・処理量・獲得利益など)を向上させることです。

2.制約と非制約の区別

1.TOCが他の経営や、改善方法と異なる点

 「TOC」が他の経営や、改善手法と決定的に異なる点は、正に「制約とそれ以外(非制約)の区別」であり、「この区別を欠いた如何なる努力も決して実を結ばない」というのがTOCの最も重要なメッセージです。

 また、もう一つ注意すべき点は「制約が新しいところに移ると、システムはそれまでと全く別ものになる」ということです。
その時は「以前の制約と非制約を前提とした方針や、プロセスを全て見直さなければなりません」
さもないと「古い方針そのものが制約になる」のです。
ですから、「制約が今 どこにあるのか」を、常に意識していなければなりません。

2.TOCの「継続的改善プロセス」の基本的フレームワーク

 「5段階集中プロセス(5Focusing Steps)」「思考プロセス(TP:Thinking Process)」「制約の特定(または選択)」あるいは「何を変えるか?」最初のステップに位置づけ、繰り返しそこに立ち返るところに明確に表現されています。

3.「5段階集中プロセス(5Focusing Steps)」とは、

  • ステップ1:制約条件を見つける
    ・改善すべき制約条件を特定します
    ・生産ラインの場合、生産能力が最も低いプロセスが制約条件になります

  • ステップ2:制約条件を最大限に活用する方針を決める
    ・制約条件を解消させる方法を考えます
    ・資金や、人材の投入を最小限に抑えて改善する方針を決定します

  • ステップ3:制約条件以外をステップ2の決定に従属させる
    ・制約条件以外の部分を制約条件に合わせて調整します

  • ステップ4:制約条件の能力を向上させる
    ・現状で出来ることを全てやりきった上で制約条件の能力向上を検討します

  • ステップ5:プロセスを繰り返し、生産性を上げる
    ・制約条件が解消されたことを確認し、新たな制約条件を探します

4.「思考プロセスを利用した問題解決方法」

  • ステップ1:問題の本質を見極める
    ・パフォーマンスの低下を招いている問題の本質を見極めます

3.「システム思考」

 組織というものを「相互に依存しあう要素からなる一体のシステム」と捉えることがTOCの本質です。
この視点を「システム思考」または「システムアプローチ」と呼びます。

 ゴールドラット博士は、
一つのシステムを「一本の鎖(または複数本の鎖がネット状に結合した格子)」に喩えました。
鎖を構成する輪(リンク)組織の構成要素(人、設備、部門や工場、サプライヤー・・・)成果物(製品やサービス)です。その中には、それらの活動や関係を制限または促進する方針や規範あるいは慣例といった無形の因子も含まれます。

4.「コストワールドとスループットワールド」

 制約と非制約を区別するということは輪と輪の繋がりによる相互依存を重視する事であり、「鎖の価値を強度で測ること」です。
それに対して制約と非制約の区別を無視あるいは認めないことは輪と輪の間の相互依存を無視する事であり、「鎖の価値を重量で測る」ことです。
「システム全体としての改善」を考えるとき、この違いは決定的になります。

1.「コストワールド」の世界観

 「重さ(軽さ)を鎖の価値と考える世界」では、どの輪を重く(軽く)しても、システムとしてのパフォーマンスが改善します。重量は足し算が成り立つ量なので大小はともかくどこを改善しようが、その分 全体に寄与するのです。
ですから、部分の生産性を追求することに価値があります。つまりどの輪も等しく重要で、どれかにフォーカスすることに意味はありません
この様な世界観を「コストワールド」と呼びます。

2.「スループットワールド」の世界観

 しかし「強度を鎖の価値と考える世界」では、一番 弱い輪の負担を一部肩代わりしたり軽減するもので無い限り、制約以外を改善してもシステム全体の改善・強化には寄与しません。つまり、どこにフォーカスして改善するかが重要なのです。 
この様な世界観を「スループットワールド」と呼びます。

 スループットワールドの世界観に立ち「全体最適」を追求するならば、「制約以外、つまり非制約は必要以上に働いてはいけません」
「制約のペースに合わせないといけない」のです。
組織のパフォーマンスを改善するには、鎖(チェーン)の一番弱いところを改善しなければいけないことになります。
どこもここもというのでは「組織としてのパフォーマンスは改善どころか、むしろ悪化してリソースと時間を無駄に消耗する」ことになります。.

5.「TOC」を一言で言うと、

 最後にゴールドラット博士は、TOCについて次の様に述べています。
「TOCを一言で言うならば、それはフォーカスだ。
ここで大事なのは、フォーカスとは何をすべきか決めると同時に、むしろ何をすべきでないかを決めるということだ。
なぜなら、すべてにフォーカスするということは、どれにもフォーカスしないのと同じだからだ。」

                 ( 了 )

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