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金のなる木

 ある時、道端に腰掛けていた商人があるものをくれた。
 鉢に入った小さな苗木。商人は受け取った苗木の鉢を指差して「毎日水を欠かさず与えなさい。今に面白いことが起こるから」そう言って、後は何も話さなかった。
 その日から私は、毎日欠かさず苗木に水を与えた。
 苗木はすくすくと順調に育った。そのうち鉢の狭さに窮屈そうにしていたので庭に移して育てた。
 苗木は庭に移してからも順調に背を伸ばし、10年経つ頃には立派な樹木に成長した。
 ある日のこと。いつものように水を与えに庭へやってくると、樹木の枝の先に紙切れが引っかかっているのに気がついた。
 手にとってよく見てみると、それは紙幣だった。
 次の日も、その次の日も樹木は紙幣を実らせた。
 私は大いに喜んだ。
 これで働かなくても暮らしていけるようになる。そう思った。
 家族も喜んだ。妻はその日のうちに仕事を辞め、子どもたちは学校を辞めた。
 
 その後のことは語るまでもあるまい。
 次第に家の中は荒れ、妻は酒に溺れた。子どもたちは人を襲って楽しむようになった。
 ある日のこと。子どもたちが死体を家に持ってきた。
 動揺した妻は、子のひとりを殺してしまった。
 もうひとりの子は逃げ出した。
 ふたつの死が横たわる部屋の中で、夫婦で泣いて笑い、疲れ果てた妻が眠りこけた後。
 私は1人庭に出て、金のなる木に油を撒き、火をつけた。

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