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堪忍袋

 堪忍袋の尾が切れて中身がこぼれる。取り返しがつかないと思っても今更遅かった。苛立ちは牙の形を取り、噛みつき、腹の底から沸き立つ真っ黒い感情に支配された言葉で彼を切りつける。
 もう元には戻らないのだ。鶏がヒヨコに戻れないみたいに、もうどうすることもできないのだ。互いに傷つけあって、罵り合って、互いの正義すらばかにして生傷は絶えない。
 かなしみは部屋の隙間に降り積もり、もはや足の踏み場もない。

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