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重たい


 部屋にイヤホンを忘れていた。
 出かける前に確認しなからこうなるのだ。電車を待つ人の列の中で気がついたもんだから、今更引き返すこともできなかった。
 磯子行きの電車がホームにぴたりと停車して、乗り込んだ車両には男子高校生がすでに数人で乗車していた。彼らは所構わずといった感じで立ち話をしているものだから、彼らの会話は嫌でも耳に届いてくる。
「俺、グラビアのおっぱいより好きな子のおっぱいのほうが好き(笑)」
 きもちわる。
 漏れる声から意識を逸らそうとして手許の携帯に映ったネットニュースには、行方不明の女性が無職の男性の部屋から遺体となって発見されたことが書かれていた。世間が注目した事件の結末、人の死、続けて想起したところで、下腹がきりきりと痛んだ。車両ががたんと揺れたあと、車窓を流れていった踏切前の人たちが血相をかえた様子で立ち尽くしていたのを視界が捉えた。

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