R5予備論文 刑法

<コメント>
・解きやすそうな設問2から説きました。
・監禁は可能的自由というワードは思い出しましたが、対立説がでてきませんでした。そのため自説を創設してその場を凌ぐはめになりました。

<再現答案>
第1 設問2
1 甲がXの上着から携帯電話を取り出して自分のリュックサックに入れた行為について(行為1)
(1)行為1に窃盗罪(235条)が成立しないか
(2)Xの携帯電話は「他人の財物」にあたる
(3)「窃取」とは、占有者の意思に反する占有移転をいう。本問ではXは意識を失っているがなお占有の事実と意思を失っていないからXの占有が認められる。そして、甲はXの意思に反して携帯電話の占有を自己に移転したといえる。よって「窃取」にあたる。
(4)故意(38条1項本文)は問題無く認められる。
(5)不法領得の意思とは、①権利者を排除して、所有者のように振る舞う意思と②財物を経済的用法に従って利用する意思をいう。
携帯電話を廃棄する行為は、①権利者排除意思が認められるが、経済的用法に従って利用する行為ではない。よって、②経済的利用意思が認められない。よって、甲に不法領得の意識がみとめられない。
(6)以上より窃盗罪は成立しない。
2 Xの首を強く締めた行為について(行為2)
(1)行為2に殺人罪(199条)が成立しないか。
(2)首という枢要部を強く締める行為は、人の死の現実的危険性があるから、「殺」す行為にあたる。
(3)Xの死の結果が発生している。
(4)では、行為2とXの死に因果関係が認められるか。甲がXを崖下に落とすという事情(以下「介在事情」)が介在しているため、問題となる。
この点、因果関係は、結果を誰の行為に帰責するかという法的評価の問題だから、行為の危険が結果として現実化したときに認められると解する。
 上記(2)のとおり、行為2それ自体が死の結果の現実的危険のある行為である。確かに、直接的な死因となったのは介在事情である。しかし、他人の殺害行為に及んだ者が、犯行を隠ぺいするために、相手方を崖下に落とす等の行為をすることは通常あり得る行為である。とすると、介在事情は行為2によって誘発されたものといえる。よって、行為2に含まれる死の危険が現実化したといえ、因果関係が認められる。
(5)故意
確かに、Xが死に至る因果経過が客観面と甲の主観面で異なっている。しかし、殺人罪という構成要件内では符合しているため、因果関係の錯誤は故意の成立において問題とならない。
(6)以上より、甲に殺人罪が成立する。
3 甲がXの財布から3万円を抜き取って甲のズボンのポケットに入れた行為について(行為3)
(1)行為3に窃盗罪が成立しないか。
(2)Xの3万円は「他人の財物」にあたる。
(3)Xは気を失っているが、なお占有の事実と意思は認められるから3万円を占有している。甲はこれをXの意思に反して自己の占有に移転しているから「窃取」にあたる。
(4)故意
甲はXを行為2の時点で死んだと思っている。死者に占有は観念されない。とすると甲は占有移転の認識がなく、故意が認められないのではないか。
この点、死者の生前の占有は、殺害した者との関係では、殺害行為と領得行為に時間的場所的近接性が認められる限り、なお刑法上の保護に値すると解する。よって、かかる場合には行為を全体として評価して、生前の占有が侵害されたと解すべきである。
本問では、甲の主観においては、行為2と行為3は時間的場所的に近接している。とすると、甲はXの生前の占有を侵害した認識がある。よって、甲に故意が認められる。
(5)権利者排除意思および経済的利用意思もあるから不法領得の意思も認められる。
(6)以上より、行為3に窃盗罪が成立する。
4 甲が携帯電話を捨てた行為は、携帯電話の効用を失わせる行為であり「損壊」にあたる。また、甲に故意が認められるから、器物損壊罪(261条)が成立する。
5 罪数
上記2・3・4は併合罪(45条)となる。
第2 設問1
1 行為に監禁罪が成立するには、甲が小屋の扉をロープで縛った行為が「監禁」(220条1項)に当たる必要がある。
2 「監禁」とは、一定の区域からの脱出を不可能又は困難ならしめて、行動の自由を奪う行為をいう。
3 この点、監禁の本質を、実際に脱出しようとする行為を阻害することにある、と解する考え方がある。かかる考え方によると、Xは甲が小屋の扉をロープで縛ってからほどくまで、ずっと寝ていたのであり、実際に脱出しようとしていない。よって、実際に脱出しようとする行為を阻害されたといえないから、「監禁」にはあたらないということになる。
しかし、この考え方は、監禁の成否が、被害者の"脱出しようとする"という主観的行為に左右されることになり、処罰範囲の明確化の見地から妥当でない。
4一方、監禁の本質を、可能的自由を奪うこと、とする考え方がある。かかる考え方によると、客観的に脱出が不可能又は著しく困難であれば「監禁」が成立することになる。
甲は、木造で出入口が一つしかない小屋の、唯一の扉を内側から開けられないようロープできつく縛った。とすると、Xは小屋から脱出することが客観的に不可能又は著しく困難であったといえる。
よって、かかる考え方によると、甲の行為は「監禁」にあたり、監禁罪が成立することになる。

以上

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