R5予備論文 商法

<コメント>
・設問2の方が解きやすいと判断し、こちらを先に回しました。
・305条は問題文を読み違えました。

<再現答案>
第1 設問2
1 Dは新株発行無効の訴え(会社法(以下略)828条1項2号)を適法に提起した。
2 新株発行の「無効」事由は、新株発行を無効とすると多数の利害関係人に影響を及ぼし法的安定性を害することから、重大な法令・定款に限られると解する。
3 まず、Dは本件発行価額一株当たり10万円であるところ、公正価額は一株当たり20万円であるから、本件発行価額は「特に有利な金額」(199条3項)にあたる。そして、かかる場合は株主総会特別決議を要するところ(201条1項、309条2項5号)、本問では同決議を経ていないため、重大な法令違反にあたると主張することが考えられる。
(1)この点、「特に有利な金額」とは、時価を基準とした公正価額より低い価額をいう。そして、公正価額とは資金調達目的を達成する限度で、既存株主にとって最も有利な金額をいうと解する。
本問では、発行価額は一株当たり10万円であり、公正価額である一株当たり20万円の50%でしかないから、「特に有利な金額」にあたるといえる。
(2)では有利発行の場合に、株主総会特別決議を経ていないことは重大な法令違反にあたるか。
この点、公開会社においては、株主の人間関係が希薄化しており持分比率維持の利益は既存株主にとって重要ではない。また、公開会社において新株発行は取締役会の業務執行の一内容となっている(201条)。よって、取引の安全や法的安定性を重視すべきである。
以上より、特別決議を欠く有利発行は重大な法令違反にあたらない。よって、この点は無効事由とならない。
4 次にDは、本件発行が支配維持を目的とする不公正発行(210条2号参照)であることを理由に、無効事由にあたると主張することが考えられる。
(1)この点、法が各機関の権限を配分した趣旨から、取締役が株主構成に干渉することは原則として許されない。よって、「著しく不公正な方法」とは、会社の支配権維持を主目的とした新株発行をいうと解する。
本問では、甲社に特段の資金需要は無かった。対立関係にある乙が持株数を1000株から2400株に増やしていた。そして、Aは乙がこれ以上持株比率を増やすことを阻止する目的を有していた。とすると、本件発行は会社の支配権維持を主目的とする発行にあたり、210条2号の差し止め事由にあたる。
(2)では、不公正発行は重大な法令違反にあたるか。
この点、会社の支配権維持を目的としているか否かは主観的な問題でありその判断基準が明確ではない。また、上記の通り、公開会社において新株発行は取締役会の業務執行の一内容に過ぎない。とすると、取引の安全や法的安定性を重視すべきである。
よって、不公正発行は重大な法令違反にはあたらず、無効事由にはならない。
5 次にDは、本件発行に際して通知・公告(201条3項)を欠いた点を無効事由として主張することが考えられる。
この点、通知・公告が求められる趣旨は、既存株主に新株発行差止請求(210条)の機会を保障する点にある。210条は株主の利益を保護するための重要な制度であるところ、通知公告を欠くと株主はその機会を奪われることになるから、通知・公告の欠如は重大な法令違反になると解する。
もっとも、差止事由が無い場合には株主は利益を害されることにならないから、法的安定性を重視して、通知・公告の欠如は重大な法令違反にはあたらないと解すべきである。
本問では、上述の通り特別決議を欠いた有利発行(「法令~違反」(210条1号))と不公正発行(「著しく不公正な方法」210条2号)という差止事由がある。
よって、原則通り、通知・公告は重要な法令違反にあたり、無効事由となる。
第2 設問1
1 乙は本件決議の取消の訴えを適法に提起した(831条1項)。
2 乙は、取消事由として、Eに議決権の代理権行使をさせなかったことが310条違反にあたり、「決議の方法」に「法令~違反」(831条1項1号)があったと主張することが考えられる。
(1)この点、議決権の代理行使を株主に限り認める旨の定款は、株主総会かく乱を防止する上で合理性があるため有効である。もっとも、310条は、会社の実質的所有者たる株主の権利行使の機会を保障する重要な趣旨であるから、かく乱の恐れが無い場合には定款の適用は排除されると解すべきである。
(2)本問では、Eは乙の従業員である。Eの職務内容は決算期における書類の整理のみであり、それ以外に勤務実態はない。とすると、Eには株主総会かく乱のおそれは無かったといえる。とすると、Eに対しては定款適用は排除され、Eに議決権代理権行使を認めるべきなのに、甲はEにこれを認めていない。
よって、310条違反があるといえる。
(3)よって、「決議の方法」に「法令~違反」(831条1項1号)があったといえる。
(4)また、乙は本件総会時点において1000株(議決権比率10%)を有する大株主であり、乙に対して議決権行使を認めなかったことは、「違反する事実が重大でな」いとはいえない。よって、裁量棄却も認められない(831条2項)。
(5)以上より、乙はこの点は取消事由として主張することができる。
3 乙は、本件招集通知に乙の提案議案が記載されなかった点が305条1項違反であり、取消事由になると主張することが考えられる。
(1)甲社は「取締役会設置会社」である(305条但し書き)。
(2)乙は甲株式を1000株有しており、100分の1以上の議決権を有している。
(3)乙は、令和4年6月頃から1000株を有しているため、「6ヶ月以上」引き続き有しているといえる。
(4)しかし、乙が提案議案の記載を請求したのは、令和5年6月12日であり、「8週間前」に請求したとはいえない。
(5)よって、甲社は乙の提案議案を招集通知に記載する必要はない。
(6)以上より、この点については305条1項違反はないため、取消事由にあたらない。
以上

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