R5予備口述 2日目刑事

<パネル再現>
パネルの両面に事例①~⑥が記載。事例①~⑥の具体的な内容は<QA再現>の中に記載しています。

<QA再現>
■主査
◇私

■パネルに①~⑥の事案が記載されていますので、これに沿って質問をしていきます。まずパネル①を読み上げます。Aに何罪が成立しますか?
<パネル①>
AはVに対して包丁(刃渡り12センチメートル。Vを刺す前日にAが購入した。)をVの胸部に向かって突き刺した。結果Vは失血死した。Vの胸部には包丁が11センチ刺さっていた。
◇殺人罪が成立します。

■はい、では殺人罪の構成要件を教えてください
◇はい、人を殺すことです。

■はい、今言って頂いたのは、殺すという実行行為と死亡結果、そしてその因果関係が構成要件であると言って頂いたと思うんですが、まず客観的構成要件要素として「殺す」行為があるといえますか?
◇はい、「殺す」行為というのは人の死の結果が発生する現実的危険性のある行為をいいますが、Aの行為はVの心臓という急所を狙ったものであり、包丁という殺傷能力の高い凶器を使ったものですので、人の死の結果が発生する危険性の高い行為といえ「殺す」行為にあたります。

■はい、では次は主観的構成要件要素として、殺意について聞いていきたいのですが、パネル①の事例では殺意は認められますか?理由も合わせて教えて下さい。
◇はい、殺意は認められます。理由は、胸部という急所を狙っているということと、刃渡り12センチの包丁のうち11センチも刺さっているので、力を込めて刺したという事が伺われ、これらの点から殺意が認定できると考えました。あと、Aは包丁をVを刺す前日に買っているので、Vの殺害計画があったことが伺われて、この点からも殺意を認定できると考えました。

■はい。殺意が認められるには積極的に殺すという意思まで必要になりますか?
◇いえ、必要ありません。人の死の結果が発生することを未必的に認識・認容していれば足ります。

■はい、ではパネル②を読み上げます。この事例では何罪が成立しますか?
<パネル②>
AはVの胸部に向かって包丁を突き刺そうとした。しかし、Vはそれを腕で防いだ結果、死亡は免れた。しかし、腕で包丁を防いだため、腕を負傷した。
◇殺人未遂が成立します。

■なぜですか?
◇先ほどのパネル①と同じく、AはVの胸部という急所を狙っていますし、殺傷能力の高い包丁を利用したものなので、殺人罪の実行行為性が認められるためです。

■はい、ではパネル③を読み上げます。この場合は何罪が成立しますか?
<パネル③>
Aは、Vの腕を狙って包丁を突き刺そうとした。しかし、包丁は偶然Vの胸部に刺さり結果Vは死亡した。
◇傷害致死罪が成立します。

■Vの死の結果が発生しているのに殺人罪が成立しないのは何故ですか?
◇Aは腕を狙っていて急所を狙っていないので死の現実的危険が認められず実行行為性が認められないのと、また腕を狙っている以上殺人の故意も認められないためです。

■はい、ではパネル④を読み上げます。この場合は何罪が成立しますか。
<パネル④>
AはVから、Vが自殺をするための包丁を買ってくるようお願いされた。Aは包丁を買ってきてVに渡した。Vはその包丁を利用して自殺した。
◇はい、自殺幇助罪です。

■はい、自殺自体には犯罪は成立しませんよね?なぜ自殺を幇助した場合には犯罪が成立するのですか?
◇人の死というものに積極的に関与すること自体に違法性が認められるからです。

■はい、独自の違法性が認められるということですね。では次にパネル⑤を読み上げます。この場合には何が成立しますか?
<パネル⑤>
AはVから、Vを殺して欲しいとお願いをされて、Vの胸部に包丁を突きした。結果Vは死亡した。
◇同意殺人罪です。

■はい、嘱託殺人罪なんて言葉で言われたりもしますが、自殺幇助と嘱託殺人は何が違いますか?
◇はい、自殺幇助は自らが死を招く行為を行う一方で、嘱託殺人は嘱託を受けた他人が殺害行為を行うという点で、殺害行為の主体が異なります。

■はい、ではパネル⑥を読み上げます。この場合は何罪が成立しますか?
(パネル⑥)
AはVから「Aが私(V)の後を追って死んでくれるなら、私(V)を殺して欲しい」とお願いをされた。AはVに対して自分も追死すると言った上で、Vの承諾を得てVを殺害した。しかし、Aには追死する意思はなく、Aは追死しなかった。
◇えー、、、AがVを殺害しているので、殺人罪が成立します。

■でもVの方から殺すことをお願いしたんですよね?何故、嘱託殺人罪じゃなくて殺人罪が成立するんですか?
◇えー、殺人罪は人の意思に反する死が構成要件要素となるのですが、パネル⑥の事例では確かにVは同意しているのですが、これはAが追死すると言ったからこその同意であって、一方でAにその気は無かった以上Vの同意は錯誤に基づくものであって同意は無効という事になります。そうしますと、人の意思に反する死という殺人罪の構成要件に該当することになるので、殺人罪が成立すると考えました。

■はい、ではパネルに沿った質問は以上になります。次に手続について聞いていきます。Aを殺人罪の容疑で逮捕した後に、嘱託殺人であることが判明しました。Aを嘱託殺人で勾留請求することは認められますか?
◇はい、認められます。

■なぜですか?
◇えー、逮捕前置主義から原則的には同じ事実でないと勾留請求できないのですが、今回の事例では公訴事実の同一性が認められるので、勾留請求が認められることになります。

■はい、では、殺人罪の事実で逮捕・勾留した後に、嘱託殺人であることが判明しました。嘱託殺人の公訴事実で起訴できますか?
◇えー・・・、できません。

■先ほど勾留請求ではできると言って頂いたと思うんですが、起訴の場合はできないんですか?公訴事実は同一なんですよね?
◇すみません、訂正します。やはり公訴事実の同一性があるのでできます。

■はい、そうですよね。では、殺人罪で起訴した後に嘱託殺人の事実が判明したため、検察官は嘱託殺人の訴因に変更したいと考えました。訴因変更は可能ですか?
◇はい、可能です。

■なぜですか?
◇公訴事実の同一性があるからです。

■はい、先ほどの公訴事実の同一性と同じということですね。訴因変更の根拠条文は分かりますか?
◇312条です。

■はい、では、殺人罪で起訴した後に、同意の有無が争点となりましたが、結局同意の存否は判明しませんでした。この場合、裁判所は嘱託殺人の認定をすることができますか?
◇えー、、、そうですね、、、えー、、、同意の有無が真偽不明である以上、利益原則からは同意殺人罪が、あ、いえ、嘱託殺人罪が成立することになると、思い、ます・・・。(尻すぼみ)

■でも、同意の立証責任は検察官にありますよね?という事は真偽不明になったのなら、同意は無いものとして殺人罪が成立するんじゃないんですか?
◇・・・はい、訂正します。殺人罪が成立すると、思います・・・。(尻すぼみ)

■いえ、訂正しなくていいんですよ。今言って頂いた考え方が正しいんです。殺人罪か同意殺人かが争われている場合には検察官が立証すべきは同意の不存在という事になります。その立証に失敗した以上は、利益原則から嘱託殺人が成立するということになります。
◇はい・・・。

■では、殺人罪で起訴した後に嘱託殺人の存否が判明しました。この場合訴因変更をすることなく、嘱託殺人を認定することができますか?
◇はい、可能です。

■なぜですか?
◇同意殺人は殺人罪に内包されているといえるので、殺人罪の起訴によって、同意殺人の起訴も予備的・黙示的になされていると言えるからです。

■では、嘱託殺人罪で起訴した後に普通殺人罪であることが判明しました。この場合訴因変更をすることなく、同意殺人を認定することができますか?
◇いえ、できません。

■なぜですか?
◇殺人罪は同意殺人罪に包含されているとはいえないので、検察官が殺人罪を予備的・黙示的に主張しているとはいえないからです。

■はい、では最後の質問です。あなたはAの弁護人です。AはVの同意を得るなくVを殺害しました。しかしAは、知り合いであるBに、Vの同意があったかように証言させたいと考えています。あなたはAから、Bにそのような証言するよう働きかけることを依頼されました。あなたはそのような依頼を受けることができますか?
◇できません。

■なぜですか?
◇職務基本規程75条の偽証のそそのかしにあたるためです。

■はい。私からは以上ですが、何かありますか?(副査に向かって。副査、首を横に振る)はい、ではこれで終了になりますので、退室頂いて結構です。

◇はい、ありがとうございました。

<コメント>
所要時間は15分~20分の間だと思います。
殺人の同意の有無が真偽不明の場合に同意殺人を認定できるかという質問のところで、認定できる理由とできない理由が頭の中で交錯して混乱状態になりました。たまたま正解を言っていたらしいのですが、泥舟に乗って撤回してしまった事が悔やまれます。

※なお、パネルの再現は私が拾った事実を中心に記載しており、実際はもう少し記載ボリュームがあったと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?