小生と5点ラジオとの出会い。「あなたの汗の匂いが好き」

7月に入ったばかりだというのに東京は連日の猛暑が続いている。
じりじりと肌を焼くような強烈な熱波によって、私の額からは大粒の汗が止めどなく流れ落ちて白い半袖ワイシャツに大きな汗染みを作っている。

「ああ、今年もこの時期になったんだ」
ハンカチを団扇代わりに風を仰ぎながら、また彼女のことを思い出してしまう。

あれは30年ほど前、小生が会社の出張で訪れた南フランスのとあるレストラン。観光客向けというより、地元の人に愛されるような、簡素ながら小綺麗な店内。どこか余所者には排他的な雰囲気を醸し出すその店構えは、私が生まれ育った田舎の故郷を連想させるものだった。

小さい頃から私は故郷が苦手だった。移住してきた余所者に対して、根拠のない噂や奇異の目を向ける大人たち。どこか息苦しくて、窮屈な世界から早く抜け出したいと、私は赤い門のある東京の大学に進学したのだった。

そんな苦手だったはずの雰囲気を醸し出すレストランに、私は出張で滞在する間毎日のように通い詰めていた。不思議なもので、あれほど苦手だった雰囲気に小生は居心地の良さを感じていたのだ。

そんなレストランでウェイターをしていたのが、彼女だ。金髪の髪に青い目をした彼女はいつも無表情でお客に接していた。初めて入店した際、あまりの愛想のなさに面食らってしまったが、地元の常連客にも同じ対応をするので逆にその距離感のある対応が小生には心地良かった。

長いようで短い出張が終わり帰国する前日の夜、私はまたあのレストランを訪れていた。店主や常連客ともお別れの挨拶を言える程度には関係が出来ており、とても寂しい気持ちで心がいっぱいだった。

そんな時、愛想のないウェイターの彼女がぽつり、小生に向かって言ったのだ。

「あなたの汗の匂いが好き」

驚いて振り向いた小生に、彼女は頬を赤らめ、足早に厨房の中へ逃げて行ってしまった。それ以降、フロアに出て来ることはなく、お別れの挨拶も出来ずに帰国したのだった。

日本に帰国した後も、何度かそのお店を再訪したがすでに彼女は仕事を辞めており、再会することは叶わなかった。

長くなってしまったが、この話にはまだ続きがある。

昨年の夏、「イオンモール幕張新都心」を訪れている時、小生は軽い熱中症になり店内で立ち上がれなくなってしまった。

そんな時、ハンカチを差し出して介抱をしてくれたのが、そう、あの愛想のないウェイターの彼女だったのだ。

「どうしてここに?」

つたないフランス語で質問する小生に彼女は答えた。

「5点ラジオがきっかけで、各地のイオンを巡っているの」

熱中症のせいなのか、言葉の壁のせいなのか、
小生は彼女の言葉の意味が理解できなかった。

これが5点ラジオと小生の出会いの始まり。
彼女に勧められて聞き始めた5点ラジオ。小生もおすすめします。



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