塞ぐ 6話
白:じゃあみんな来週の林間学校遅刻しないでね〜
生徒:はーい
林間学校
乃木高の2年生は毎年林間学校に行くことになっているらしく今年も例外では無い
林間学校などというイベントは僕みたいな人間の敵でしかなく、来週のことを考えるだけで気分は沈んでいく一方である
翔:林間学校楽しみだなぁ〜
田:だね〜
前の席の2人はそんな会話をしている
さ:、、、
○:、、、
遠藤さんにはもちろんバイトの僕だとバレていないみたいで学校では特に会話は無い
田:さくちゃんも楽しみだよね?
さ:、、うん
ちょっと反応が遅れていた
このグループでイベントを毛嫌いしているのが僕だけではないのかもと思って少しだけ気分が楽になった
○:(これは自己満だな)
白:みんなじゃあね〜
女:先生またね〜
👋
白:井上くんちょっと来てー
終わりの挨拶とほぼ同時に立ち上がり帰路につこうとする僕に先生が話しかける
翔:悪いことしたんか?
○:心当たりない
翔:達者でな✋
○:はよ部活行け
翔:へいへい
翔太はそう言ってからかったように笑いながら部活に行く準備を進めた
正直心当たりがない訳では無い
職員室
白:この紙はどういうこと?
そう言って先生は前僕が提出した白紙の進路希望の紙をひらつかせた
○:、、これはですね、、、
白:はぁ〜
なんと返すか考えている僕に深いため息をついてきた
白:将来が想像つかないのは分かるけど、白紙で提出するのはないんじゃない?
先生の言うとおりだ
○:、、、はい、、
俯いてそう返事をするので精一杯だった
白:、、、とりあえず今回はこれでいいよ
○:、、はい、、ありがとうございます
白:これは一概に井上くんが悪い訳では無いと思うし、また決まった時に書いてくれればいいから
○:、、はい
そう言ってくれる先生だが、その優しさが今は辛い
先生は「それだけ」と言って帰してくれた
返却された紙を持って屋上に向かった
そうすれば彼女に会えると思ったから
なぜ彼女に会いたくなるのか自分でも分からない
いや、きっとわかっているけど気づいていないフリをしているだけなのだろう
つくづく自分に嫌気がさしてくる
屋上の景色はあの日と変わらない
運動場、空、音、手に持っている紙も何もかも変わらない
1度深呼吸をしてみた
大きく鼻から空気を吸い込んでみた
限界まで吸い込んで口から吐き出してみた
限界まで吐き出すと無意識に空気を吸い込んでしまう
それを拒絶したいのに僕の体は反射的に動いてしまう
将来何がしたいのか、この先どうなりたいのか、毎日考えている
考えて、考えて、考えているのに、答えが見つからない
誰か僕に答えを教えて欲しい
僕はこの先何をすればいい
どこに行けばいい
すぐ他人に縋りたくなる自分を僕は嫌悪する
頬を涙がつたう
それでも何も変わらない
○:はぁ、無意味だな
そう。無意味だ
こうやって考えるのも、悩むのも、ここに来るのも全て
「無意味だ」
🚪ガチャ
遥:また会ったね
そう彼女が微笑みながら優しく声をかけてくれた
○:お久しぶりです
僕は今の顔を見られないようにただまっすぐ正面を見ながらそうこたえる
遥:同級生なのに敬語なのってやっぱりちょっと変だよ笑
○:、、、そうかな、、
遥:そうだよ
彼女はそう言ってスケッチブックをペラペラとめくった
遥:ここの景色は変わらないね
どうやら彼女の目にも僕と同じように見えているらしい
その事がとても嬉しいと思った
遥:○○くんは将来どうなりたい?
○:?!、、、
彼女の急な問いかけに驚きが隠せないでいる僕に答えを待たずに話し続ける
遥:私は正直こうなりたいって言うイメージ?ビジョン?がわかないんだ〜
その発言にも驚いた
彼女はきっと僕とは違うと思っていたから
遥:私は周りに流されやすいからさ、周りから「美術部になったら〜」って言われて美術部になったし、「委員長似合いそう」って言われたからクラスの委員長になったんだよね笑
彼女はそうはにかんだように笑う
○:、、そうだったんですね
遥:そうだよ〜笑
○:てっきり自分で決めているものだと、、
そこまで言って思ってしまった
自分は自分が嫌いな人と同じ物差しで人を見ていた
彼女はきっとこう思うだろうと考えていた
「凝り固まったイメージ」「きっとそういう人」という考え方はそれだけで人をダメにしてしまうということを知っているのはずなのに
○:、、、ごめん
遥:なんで急に謝るの?
そう思うのも無理はない
○:、、なんとなく
遥:そっか笑
彼女は深くは聞いてこなかった
スケッチブックに絵を描く彼女を隣で見ていた
ペンを走らせる音がこの空間を支配している
この時間がもっと続いて欲しいと思う
...
○:、、そろそろ帰る
遥:、、うん
彼女にそう声をかけて
遥:敬語もうなしだから笑
いたずらっ子のように笑う彼女にまた心を動かされた
○:、、がんばってみる
遥:よろしい笑
僕が扉を閉めるまで彼女はこっちに手を振り続けていた
彼女と話してもこの先を想像することはできなかったけど、気持ちは楽になった
ちょっとだけ変わってみようと思い直すことが出来るかもと思った
○:(来週からは、、)
未来の自分を想像しながら校門を出た
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賀喜遥香
屋上に向かうと彼がいた
彼とは1年生の時同じクラスだった
彼への最初のイメージは目立たない暗い人だった
実際そうだった
それでもどこかで自分と似てるのかと思った
彼の過去を知りたいとも思った
だけどいきなりは聞けないから仲良くなろうとしたが
1年間特に接点がなかった
ここで会うのは2回目だから運命ではないにしろ、チャンスだと思った
遥:○○くんは将来どうなりたい?
、、、、、
彼は最後まで私の話を静かに聞いていた
言いたいことを話してスッキリした
絵を描いてる時も時に何も話さず隣で見ているだけだった
逆の立場なら私も多分同じことをしているだろうと、そう思った
○:、、、そろそろ帰る
彼がそう言って初めて、長い時間が経過していたことに気づいた
彼は他の人と違った見方で私を見てくれると、そう思った
彼が帰ったあともしばらく屋上にいた
彼が立っていた場所で校門から出ていく彼の姿を見ていた
次は過去の話をしてみようとそう思いながらスケッチブックを閉じた
…to be continued
「あとがき」
塞ぐ6話いかがでしたか?
今回の話はいつもよりもっと突拍子がなくてこんがらがると思いますが、今後の話に繋げるつもりなので飽きずに読んでもらえると幸いですm(_ _)m
○○の過去、賀喜遥香さんの過去、今後2人がどのように関わっていくのかを考察するのも楽しいんじゃないかなって思います。
次回は林間学校の話をしてみようかなって思うので楽しみにしていただけると嬉しいです。
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