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写真の中での「人」の存在

最近、自身のスナップ写真をまとめた「one after another」の第7弾と第8弾を作成した。今一度作成した写真集を振り返ってみると、人が写っている写真が多いことに気がついた。今回はなぜ自分が人に惹かれるのか、人の何に反応しているのかについて考察をしたいと思う。

本題に入る前に、今読んでいる本について少し触れておく。ついこの前に書店で、『ありのままのイメージ:スナップ美学と日本写真史(甲斐義明, 東京大学出版会, 2021)』という本を見つけ、購入した。この本は、スナップ写真について、時代を代表する写真家(土門拳、木村伊兵衛、森山大道、牛腸茂雄など)の写真を中心に、各時代のスナップ写真の特徴を割と固く考察し論じた本である。これを読んでいると、スナップ写真にも時代によって、その特徴が異なり、社会的メッセージが含まれたり、あり方、目指し方、撮り方が写真家によって違うことがわかる。こういう写真の論評を読んでいると、自分がなぜその被写体を撮ったのか、どうしてそのような構図になったのか、自分においてのスナップ写真はなんなのかを分析したくなる。

さて、本題の私がなぜ人を撮るのかについてであるが、その理由は、「人の動きや
存在から、温もりや愛おしさ、面白さが見出されるから」だろう。例えば写真1の「ハート」では、川辺にいる人々を眺めていた時に、ふと2人の人物がハートを腕で形作った。その瞬間を捉えている。これは面白い!と感じて撮影した。この写真において、被写体と私との距離は離れている。また、自分にとってはこの「動作」が「偶然」生じたことが重要であり、その人物の顔や、誰であるかは重要ではない。

写真1「ハート」

続いて写真2「考える」では、画面左のお店で品物を選んでいる客と店員を狙って撮影をしている。しかしながら、ある程度人と距離がとられており、これはキャンディット・フォトとなっている。また、レンズは狙った被写体には向いておらずまっすぐ正面に向かっている。なぜこの構図なのか、理由は二つある。一つは、自分の正面の景色の一部として被写体を捉えたいからである。もう一つは、その場面を見ること自体は窃視ではないものの、ファイダーを除く行為の上で生じる窃視感を自分自身が避けているからだとも考えられる。ただここでも、選んでいるということが伺える「動作」が重要で、その人の顔などを含む個人情報は重要ではない。

写真2「考える」

最後の写真3「訪花」は、人がいなくても百日紅をとらえた風景写真としても成立するが、訪れた人が「主人公」としてこの風景の主題になっている。この写真では、まず花を訪れ見るという行為がポイントであると同時に、人物が僧侶の服装をしているというところも重要である。ただし、こちらも顔などの個人情報はあまり重要ではない。

写真3「訪花」

このように写真を分析・解説してみた。いずれも顔などの個人情報ははっきりとは写っていない。これは、撮影動機において顔の情報(容姿や表情)よりも、行為や雰囲気、ポーズが重要だとという自分の意識を反映していると言える。また、肖像権の観点から、なるべく本人が特定できないような写真を撮影するという意図も反映されているとも言える(世間の影響を受けている)。

・風景が先か、人が先か
これまで解説してきた通り、自分にとっては人の動きが重要だということがわかる。そういった意味では私の写真は人が先ということになる。ただ、写真3は人が点景としての役割を果たしているとも言える。ただし、私のスタイルの特徴として言えることは、「人ありきで、じゃあその人物が引き立つにはどういう構図をとればよいかを考える」ということだろう。つまり、魅力的な動きやポーズをとった人物がいて、それをはめこむために風景をフレームとして取り込むという形だ。一方で、これとは逆のスタイルで人物を点景にしている撮影者もいる。つまり、風景を先に発見し、そこに人がいればさらに引き締まるだろうなという、風景が先にくるスタイルである。ストリートスナップで、よく派手な通行人や傘をさした人をアクセントとして加えている写真があるが、これはおそらく後者の考えだろう。こういった人たちは、そこに人がはまるまで粘り強く待つ傾向にあり、凄まじい忍耐である。私は待つのが嫌いのなので(苦笑)あまりそのような写真は生まれない(あるいは、この無人の風景のここに人がいればいいのになという思考が苦手なのかもしれない)。こうして分析をしてみると、なんとなく撮っていたと思っていても、実は自分の興味や嗜好が写真にでていることがわかる。自分のスタイルがわかれば、他の人のスタイルや思考もなんとなくわかる気がして、道具が増えたような感覚がする。人を引き立てるために背景として風景を整えるか、風景を引き立てるために人をアクセントとして添えるのか。この考え方は、まあこれまでにも言及されてはいるだろうが、ポートレートや動物写真などあらゆるジャンルで応用が効きそうだ。

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