⑨本人訴訟で会社を訴える

 私は労働関係の書籍を何冊か購入し、訴状や証拠を作成しました。解雇の無効を主張して訴訟を提起する場合、請求の趣旨は、以下の事項を記載することになります。
①雇用契約上の地位を有することの確認請求
②解雇されてから判決が確定するまでの未払賃金支払請求
解雇を不法行為と捉えて、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことも考えられますが、上記の請求よりも認められる可能性が低く、認められたとして  も上記②よりも認容額が少なくなる場合が多いため、お勧めしません。
 未払賃金請求は、判決が確定するまでの未払賃金(「バックペイ」と呼ばれています。)が支払われることが重要です。解雇されてから判決が確定するまで会社で働いていないのだから、会社はその間の給料を支払う必要はないのではないかと思うかも知れませんが、会社が行った不当解雇のせいで労働者は働きたくても働けないのですから、労働者は賃金支払請求権を失わないという内容が、民法第536条第1項に定められています。地裁での審理が1年半かかり、控訴審での審理が半年かかった後に労働者側の勝訴判決が確定したとすると、会社側は労働者に2年半分の給料を支払うことになります。労働者側としては、訴訟の判決を引き延ばした方が、勝訴判決が得られた場合に得られる金額が大きくなることになります。賃金支払請求権の消滅時効は5年(労働基準法第115条)ですので、急いで訴訟を起こす必要はありません。あまり解雇されてから時間が経った後に訴訟を起こすと裁判官の心証が悪くなってしまう恐れがあるので、解雇されてから半年後ぐらいに訴訟を起こすのがちょうど良いと思います。私は早くこの件を解決したい気持ちがあり、解雇された後2週間後ぐらいに訴訟を提起しましたが、今考えると失敗したなと思います。労働者側は気長に考えて対応した方が会社側よりも有利な立場に立てると思います。
 なお、訴訟以外にも和解交渉や、労働審判申立てを行う方法もありますが、相手方が話し合いに応じない場合は時間の無駄なので、私は最初から訴訟を提起しました。
 訴訟を提起するには、①訴状、②甲号証(証拠)の写し、③証拠説明書を裁判所に提出することが必要です。私は、訴状等を東京地方裁判所に持参して、受付で手渡ししました。訴状等は郵送で提出することもできますが、訴訟に慣れていない人は、東京地裁まで赴いて受付に手渡しすることをお勧めします。手渡しすると、その場で係の人が訴状審査をして、不備があればその場で指摘してくれます。訴訟手続に慣れていない人は、必ず訴状に何らかの不備があると思います。私も、被告が法人の場合は被告の登記簿を訴状に添付することが必要ですが登記簿を添付していなかったため、登記簿を送付するよう言われました。郵送ですとこの連絡が何週間も後になることがあり、訴訟手続が遅れてしまいます。その他、印紙額が間違っていること等を指摘され、訴状を手書きで訂正し、訂正印を押印しました。
 当時、私の感触としては、判決となった場合、勝訴できる確率は6割ぐらいかなと少し弱気に考えてみました。私は、仕事で大きな問題を起こしていなかった一方で、①試用期間中の解雇であること、②担当業務が法務であったこと(法務は裁判官の専門分野であり、高い水準の業務能力が要求されるという噂がありました。)、③給料が年齢の割に高かったこと、④1件対応が遅れていた業務があったこと、から、敗訴する可能性もそれなりにあるのではないかと思っていました。そこで、このときは、和解で月給6か月分程度の解決金を得ることを目標にしていました。

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