見出し画像

色白少年

 代々ワイルド科は、この古い勤務校の各科の中で、一番勢いのある科です。
 去年のワイルド科は、ちょっと騒々しかったですが、それでも手際もよく、聞いていないようで聞いているし、理解力もありました。
 その前のワイルド科なんか、キリッとしてしっかりしていたし、その前の前のワイルド科も、ちょっと見た目にこわいぐらいでした。

 でも、春先の今年の新ワイルド科は、あれ?ちょっとふにゃっとして、ばらばらな感じがするな~、と思っていました。ふつうはパリッとする春先にこんな感じとは、2学期になったら超低空飛行の珍しいワイルド科になるのかな~?と、思っていたのです。が、このごろ不思議と求心力と集中力を保っているような……?


 多分、求心力と集中力の大きな要因は、先々週の授業中、突然、「オレは心を入れ替えることにしました!」と宣言していた、教卓前の席に座っている、目つきの鋭いバスケ部の少年にあるのではないかと思います。


 
 1学期には、わたしの目の前で、よく崩れるようにして眠っていたり、机の上のごちゃごちゃを崩落させたりしていたのに、机の上は相変わらずだけど、最近起きていて、しかも、

 わたし:じゃあ、誰に読んでもらおうかな~……今日は19日だから…、
 バスケ部少年:先生、オレが読みます!オレが全部!読みますよ!

と、”全部”をやけに強調して言う。

 わたし:ほんとに?こんなに長いよ?
 バスケ部少年:ハイ、オレ読みます!
 わたし:じゃあ、お願いしようかな……、どうぞ。

と、漢字につっかかりながらも、大きな声でほんとに全部一人で読んでくれた。おかげで、クラスみんな、よく聞こえて集中して読んでいた気がする。単に、眠くなりがちな野球部が試合に行っていたから、というのもありそうだけど。

 でも、授業中のわたしの発言にも、なぞの上手な合いの手のようなものまで入れてくれて、おっ、と思う。授業って、ただのナレーションよりは、会話文のほうが、聞きやすいですよね?
 クラス全体が、授業にふっと寄ってくるような瞬間……。




 たびたび言いたくなりますが、こういう乗って来方って、ある種のバスケ部っぽく感じます。見た目に似合わず、人なつこい、人間好きな感じが。この学校だけの現象なのだろうか?
 なのですが、わたしが気になっているのは、この少年より、その相方のほう。

 バスケ部少年には、片思い(?)の相方がいて、授業中、よくちょっかいを出して、フラれています。二人でからみ合って、というより、バスケ部少年のいわゆる「ダル絡み」に相方くんが耐えている。
 相方くんが、「先生、コイツが邪魔してきます!」と言ってくるから、「😊😊。仲良し。」と言うと、
  相方くん:仲良くないです。
  バスケ部少年:いつもいっしょです。
  相方くん:一緒じゃないです。
  バスケ部少年:弁当もいっしょです。
  相方くん:一緒じゃないです。
  バスケ部少年:昼休みもいっしょです。
  相方くん:一緒じゃないです。
  バスケ部少年:トイレもいっしょです。
  相方くん:一緒じゃないです。
と、相方くんはものすごく素気ない。けど、バスケ部少年もすごくへこたれない。見習いたい。


 そんな二人を見ながら、相方くんはいったい何部なんだろう?と、ふと思った。
 運動部っぽいけど、ソフトテニスはない……。野球もぜったい違うな。サッカー……は、色白で日に焼けてないから、ない……。
 でも、バスケじゃないな~、この学校のバスケ部員はもっと大きくて強そう……。
 バドはもっとちょろちょろした感じだし、卓球にしてはポップな感じすぎるし、バレー……?
 ……いや、あんまり飛びそうな感じではないし、バレーならもっとシャイな人が多いよね。

 あ、もしかして!

 もしかして、存在を忘れていたけど、ハンドボール部かな。この素気ないようでも人当たりよく、バスケ部少年に絡まれている感じは。


 ハンド部とバスケ部って、競技も似ている気がするけど、部員の雰囲気もちょっと似ている気がする。ただ、この学校の生徒を見ていると、ハンドのほうがちょっとだけ爽やか・華やか系な気がします。
 バスケのほうがより相手に踏み込んでいく人が多いというか。ワイルド科に多いのがバスケ、素直科に多いのがハンド。窓を開けてまで手を振ってくるのがバスケ。廊下で出会うとにこにこしながら、「お久しぶりです!」とか言うのがハンド。この学校だけの現象なのだろうか?

 今年のワイルド科の担任の先生は、座席表の名前の橫に部活までは書いてくれていないから、はっきりしたことは分からない。世界は、分からないことだらけで興味深い。




(やっぱり今日も、猫しか起きてきません……。暇。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?