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【ホタテラーメンに成りたかった僕】④

【ホタテラーメンに成りたかった僕】④

初めての富山ブラック。
僕もご相伴にあずかった。
大きめなシナチクに大量のネギ。
顔を近づけるとガツンと黒コショウの香りが鼻腔を刺激する。

へえ〜ここ迄やっちゃって良いんだ。
コショウはお客さんが勝手に自分で入れるものだと先入観があったけどこっちで入れちゃって良いんだ。なるほど勉強になるな。

それにこのシナチク。
ゴリゴリとした歯応えある食感。顎に咀嚼力がいる。
それに比べてうちのシナチクの元気の無さと言ったらない。
お前何か持病が有るんじゃないかといつも気になるくらい弱々しい。元気なシナチクでこっちまで元気になる。

一応僕も醤油ラーメンを名乗っているんだけどこの富山ブラックの醤油の濃さと言ったら、真っ黒でいかにも塩辛そうだ。

改めて器全体を見渡すととにかく刺激が強い主張の激しいラーメンだと思う。

僕には出来ないこんな己を主張する事は。むしろ自己主張なくぼんやりと生きて来たから。

「お兄ちゃんいただきます」
「おう」
スープを啜るとコショウと濃口醤油のダブルパンチが脳天チョップの様に強烈にガツンと来る。

や、やられた。

これ以上の醤油ラーメンが他に有ると言うのか。
最上級グレードの見た目と味と香りだ。
「どうだ。うめーだろ」
お兄ちゃんが何故か勝ち誇った様に聞いてくる。
「最高に美味いです」
僕はお兄ちゃんを見上げて言う。
「そうだろ。この店はオイラも市内じゃイチオシだからな」
確かにこれで人気が出ないはずが無い。

人気の秘密は味だけじゃないと思う。
器一つとっても綺麗で店内はオシャレで洗練された感じだし、何よりお姉さんの元気な声とそれに負けず劣らず若い店員さん達のテキパキした働きぶりとお客さんの笑顔。
もうここはパラダイスだ。

僕は自分を恥じた。

僕の両親だって一生懸命頑張ってる。ちゃんと店内は綺麗に掃除だってやってるし残り物を使い回したりせずに新鮮な物を使うようにしている。

でもそれだけじゃ駄目なんだ。それは最低限しないといけないレベルだったんだ。

お兄ちゃん達はスープの熱さをものともせずゴクンゴクンと喉を鳴らして飲み込んでいく。
ああこの人達はラーメン食いのプロだ。

つづく

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