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【X世代のカツ丼】東海林さだお風エッセイ

【X世代のカツ丼】

大手チェーン店の「かつや」が我が町に出来て久しい。
私も何度か食べに行った事がある。
食べる度に「何か違うんだよな」と思う。

決して不味い訳ではない。そもそもそんな不味かったらチェーン店として生き残れない。
味としては及第点と言わざるを得ない。

でも、何か物足らないのである。

何が物足らないと問われてもこれですと明確に返答出来ないもどかしさがある。

蓋を開けた時には誰が見ても紛れも無くカツ丼なのだが、一口食べると「ふ〜んそうなのね」となのね感が否めない。
感動がないのだ。

出来れば一口食べた時に「ウヒョー、ウメー」と叫びたい。でも躊躇してしまう。この躊躇は何処からやってくるのだろうか。

それは遠い記憶にある昔のカツ丼の味が忘れられないからだと思う。

昔のカツ丼はもっと美味かった。
もっとボリュームがあった。
もっとカツが分厚かった。
もっとコショウが効いていた。
もっと味が濃かった。
もっと溶き卵が元気だった。
もっとご飯がふっくらしてた。

何時の頃からカツ丼は衰退して行ったのだろう。日本経済の衰退と密接な関係があったのだろうか。
昭和のカツ丼は夢や希望が詰まっていた。刑事ドラマでは必ずカツ丼が出ていて容疑者がカツ丼を食べて涙したものだった。

今、カツ丼を食べて涙する人はいない。

容疑者にはマックとポテトが無難だし安上がりな気がする。
いや、卵かけご飯でも良さそうな気がする。
いやいや、永谷園の鮭茶漬けでも良さそうな気がする。

それほど迄にカツ丼の社会的地位は下落してしまった。
カツ丼は会社で言えば部長クラスの重鎮であった。その重鎮は今ではITが使えない厄介者なのである。

X世代の人は胸に手を当ててよくよく考えて頂きたい。自分は今職場で家庭で地域でカツ丼的存在なのかと。
昔の様な威厳や存在感が有るのかと。

おしまい

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