仁左衛門&玉三郎 錦秋十月大歌舞伎 夜の部「婦系図」
歌舞伎ファンなら注目の2枚看板、
というよりゴールデンカップルの仁左&玉のペア。
泉鏡花「婦系図」ってどんな話だったかな、と思いつつ。
何か際立った演目の時しかいかない
真性でない歌舞伎ファンとしても、気になっていた。
チケットは早々に1等席を残し完売。
迷っているうちにそれも完売し、もう少しで楽日、
という頃にあわてて幕見の前日発売のチケットを購入。
いつからか、幕見のチケットの正面席は指定になり
前日発売になっており。
その昔、まだ孝夫だった頃のこの2人での「牡丹灯籠」が
どうしても見たくて、そのときは立ち見席で見た。
立ち見席はエリアが決まっているのだけれど、場所を確保するには
そこにいる必要がある。
しかも当然ながらずっと立っている。
若者でも、長時間だと腰にくる。
当時は公演時間も今より長かった気がするので結構きつかった。
今は、立ち見席はなく、ふらりと見に行くのならこの幕見席。
チケットを確保してやれやれと思っていたら
「婦系図」はさほど長くはないが2場に別れており
途中で一度幕が閉まる(休憩が入る)。
ということは、幕見チケットは2枚いる。
それに気づいてあわててもう1枚チケットをとる。
後から考えたら、最初にとった2場目がハイライトだったので
そこだけでもよかったのかな、とは思ったのだが。
歌舞伎好きの知人は結構見に行っている。
意見は総じて同じで、
「玉様のかわいさ、仁左様のイケメンぶりが、もう素敵!」
というもの。
一方で筋はちょっとねえ、ということか。
「婦系図」は本来はそこそこ長い話でかなりどろどろの内容。
その中で今回上演されたこの主税とお蔦の別れの場は、
「別れろ切れろは芸者の時に言うセリフ、いっそ死ねと」
という有名なセリフで語られる部分。
このセリフ、この話だったのか、と。
芸者上がりのお蔦とひっそりと所帯をもった学者の主税。
それが大恩ある師なばれて怒りを買い「俺をとるか、女をとるか」と迫られ
どうにも逃れられずに「女を捨てます」と答えることになる。
月明かりの美しい夜の湯島天神で、悩んだ末にお蔦に別れを切り出す。
主税が別れを切り出す前の
「二人で遠出なんて!」とはしゃぐお蔦。
花街を退く際にも人目をはばかり
慣例のおこわを配るといった祝儀もなしに多少の不義理をして去り
今も人目を忍んで暮らしている。まして一緒に外出することもない。
身よりを亡くし、花街の外で暮らしたこともなくどこか世事に疎い、
それでいて芸者衆らしい気っぷのいいお蔦の、
外見の美しさだけでない、かわいらしさ、まっすぐさが胸を打つ。
はしゃぐお蔦を前にして、ようやく絞り出すように別れを切り出す主税。
掏摸だった自分を拾い面倒を見て、一人前の学者に育ててもらった大恩ある
師匠から「俺をとるか、女をとるか」と詰め寄られては、と。
このあとは、たまたま居合わせた本郷薬師の縁日で偶然助けた掏摸騒動で
嫌疑がかかり、自分はもうここを去り静岡に身を寄せる、と告げる。
「静岡って箱根より遠いの?」と尋ねるどこか世間知らずのお蔦。
身寄りのないお蔦を案じて、おまえは決してここを離れるな、東京以外では
生きては行けまいと、師匠からもらった手切れ金を渡す。
最初の幕は、柳橋のさる奥座敷。
主税がお蔦と所帯を持ったことを師に責められる場面。
やいやいと迫られて、ついに「女と別れる」と約束させられる主税。
2幕目では、月のきれいな晩の湯島天神での
お蔦と主税の二人芝居だけになる。
派手な動きもなく、場面展開もほとんどなく
登場人物も限られる。
ほとんどセリフ運びと仕草だけで成立する
お互いを思い合う2人の別れの切なさ。
気丈に先行きのことを考えて、なんとか生きてゆくと答えながらも
「まだ家に帰るまでは一緒にいられるのね・・」とお蔦。
それでも、もう別れることが覆らないとわかって
湯島天神の境内から帰る際に、思わず足から崩れ落ちる。
正面席からじっくりと、オペラグラスも使いながら
名優の二人芝居を堪能する。
さすが、ベテランのゴールデンカップル。
派手さはないが、十分に堪能した2幕だった。
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