定期異動

日産に26年お世話になったが、11回異動した。平均在籍2.4年である。
定期異動は主にホワイトカラー対象の人事制度の一環であるが、いわゆる長期(終身)雇用という枠組みの中でなかなか、よく考えられた制度であると思う。

3年に一度ぐらいのペースで所属・職務を変えることで本人に知的刺激を与え、やる気を維持・向上させ、更に本人の知見の幅を広げるという目的もある。
一般的には同じ部門での異動が多いのだが、多くの職務を経験することで、その部門全体の仕事の流れや関係性について全体像が把握できるし、部門内人間関係も広がることで部門全体のチームワークも形成されやすい。

私は人事部門に所属していたが、事業所・工場と本社を交互に経験したり、
本社でも人事制度企画や教育、福利厚生など幅広く専門性や知見を積むことができる。そうした経験を積めば“総合力”が身につき、自ずから事業所・工場の課長などの上位のポジションも務まるというわけだ。

この定期異動のおかげで様々な上司・部下と出会うことで、いつの間にか360度評価がなされ多面的な評価が自然となされるというのが隠れたメリットがることは見逃せない。
時間をかけて多面的であるから、昇進や評価にサプライズがない。
一方、評価が固定してしまうという面もなくはないが、捨てる神あれば拾う神ありで、上司が変わったことで芽を出すケースも多く見てきた。

定期異動の今一つのメリットはメンター制度が黙示的に埋め込まれていることだ。多くの異動をすることで多くの”先輩“”上司”と出会う。直属の上司には相談できないことを気の合った先輩には話ができる、かつて自分を買ってくれた元上司が困難に直面した時にアドバイスをしてくれるというようなことなどがある。私自身もこのインフォーマルな”仕組み“に随分と助けられたし、多少なりとも助けた記憶がある。

昨今、ジョブ型雇用が人口に膾炙されているが、典型的なジョブ型雇用制度では定期異動はなじまない。私のいたフォードでも異動は本人の意思が基本で、あるポジションが空いた時にこちらから手を上げなければいつまでたっても同じジョブをこなすことになってしまう。

そうした仕組みの中ではポジションが上がると会社がメンターを付けてくれる場合がある。社内の場合であれば他部門の上司、社外であればプロフェッショナルである。厳しい役割へのプレッシャーをうまくガス抜きしてくれ、明日へのエネルギーをもらう。難しい課題解決のヒントや気づきを付与されるということもある。

メンバーシップ型雇用の中に埋め込まれていたいくつかのメリットを忘れ、あるいは気が付かず、闇雲にジョブ型雇用を入れるのは危険だ。ある仕組みが成立する前提、条件、様々な諸制度、労働市場を含めた社会的な雇用習慣などを十分考慮しなくてはいけない。
その意味ではメンバーシップ型雇用で機能していたメンター制度を明示的に採用するのも十分検討に値する。


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