3×3Questions

あれは確かフォードに転職して半年ほどたった時だったと思う。(ずいぶん昔だ)デトロイトの本社に世界中の子会社の人事責任者が集められた。本社の部課長も参加したので全員で100名ほどいただろうか。世界人事責任者会議である。

2日間の日程で、経営方針を聞いたり、人事戦略についての説明などがあった。簡単なグループディスカッションはあったが、これと言って得るものは少なかったように思う。(以前このnoteで紹介した"and Swedish"の話を除いて。)今にして思えば、“顔合わせ”で、人事コミュニティつくりといった形式的であった感は否めない。

しかし、今でも衝撃的な15分は、はっきりと記憶に残っている。
初日のセッションが終わった後、簡単な懇親会があった。ビール片手にやぁやぁと様々な人に挨拶すればいいのかと気軽に構えていた。

そこへ、最近ある大学教授から転身してきたばかりの教育部長が目の前に現れた。名は忘れたが、彼は簡単な自己紹介を済ますといたく真面目な顔をして次のような質問をしてきた。”ミスター佐藤、あなたは日本の人事責任者として今抱えている最重要課題を三つあげてください“私はたどたどしい英語で何とか答えた。若干のやり取りがあった後、“ではその課題に対しあなたはどのように対応しようとしているのか?”と矢継ぎ早の質問である。これも私はどうにか凌いだ。また彼からいくつかの質問やコメントがあった後、
最後に“ではミスター佐藤、教育部長である私がこの三つの重要課題解決のためにお手伝いすることがあれば教えてほしい。”私はすっかりビールの酔いもさめ、この鋭い3×3の質問に集中して答えた。

考えてみれば痛くまともな質問であるが、3×3の質問を真顔で間を置かず投げられると正直きつかった。彼は着任早々、世界中の子会社の課題を一気に把握しようとしていたのだろう。この時、私はしみじみ”外資系“に入社したのだなと感じたものだ。
こうしたストレートで正面切ってしかも的を得た簡潔なやり取りは日本では経験がなかった。対応には疲れたが何故か清々しかった。この質問スタイルはその後大いに使わせてもらっている。

ところで、彼は私と話しが終わると隣にいた、台湾の人事部長に声をかけていた。そばで聞こえてきたやり取りはどうも捗々しくない。翌年、その人事部長は退職したと聞いた。


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