石巻の“組長”

宮城県石巻市に巻組という少々変わった小さな会社がある。古くなった家屋などのリノベーションを行い、共生型ハウスを作ったり、クリエーターを支援したり、2014年創設からその活動は広がり、深まり、多くの賛同者を巻き込んでいる。

このチームを率いているのが渡邊亮子さん、笑顔が飛び切り素敵で、人を巻き込む力が尋常ではない。2011年東日本大震災で石巻をボランティアで訪れてから、彼女の人生は大きく変化したようだ。遂にそこに住み着き、大学院で学んだ建築工学を活かした会社まで立ち上げた。その理想が凄い。これまでの資本主義、市場主義的発想に対し、大胆に挑戦している。大量生産、大量消費そして大量廃棄という循環に疑問を投げかけ、生活者という視点から“こと”を考えている。生産者があって消費者がこれに従うのではなく、生活者がいてその為にそれを支えるモノつくり者、コトつくり者がいるとでも言った発想だ。消費者という概念が出てこない、使う人が主人公。生産ではなく、モノやコトを提供するという物語だ。

数年前、ある縁で彼女の取り組みを直接、聞きたく、数名のビジネスパーソンと石巻まで出かけた。大企業で至上主義のど真ん中でせっせと汗を流している人たちに全く違う人生を生きているお手本を見せたかったのだ。その夜は、これも素晴らしい活動だが、廃校になった築100年の小学校をリノベーションして、少年・少女に里山・海と共に生活する宿泊設備モリウミアスでファウンダーの油井元太郎さん(この人も傑物)も囲んで、夜遅くまで熱気溢れた話で盛り上がった。

売上とか利益とか全く超越した活動。そしてこの二人の輝き。我々は圧倒された。彼女は”何故こんなに打ち込めるのか“といった問いには”自己肯定感”と答えていたが、その背景には石巻の惨状を前にし、自分は何者かということをとことん考え抜いたあるいは考えざるを得なかった一人の人間がいるということだ。それは偶々彼女はそう答えたが、中身はことばでは表すことは不可能だ。言葉はむなしい。こころを言葉に表すというのには限界があるとのその時、私は強く感じた。小林秀雄も同じようなことを何度も言っている。

3年ほど通ったが事情があって、この魅力的な石巻通いは中止となった。しかし、彼女らクリエイティブチームの活動はそのメルマガを通じて覗いていた。12月10日、下北沢のBONUS TRACKでクリエーターのアート作品などを展示するという催しがあると知り、普段、私のような昭和世代には縁のない下北沢という名にも魅かれ、訪れてみた。
下北の町模様は流石、時代の先を行っているなと新鮮さを感じながら、小さな展示場所に暫く、身を置いた。そこには廃材に一手間、一工夫をし、新鮮なアート作品や実用品に変身させている“作品”が並んでいた。するとそこに置いてあった“UPCYCLE”というパンフレットを見つけた。そこにはシェイクスピアの“Life is a series of choices”という言葉を引きながら、RECYCLEとは次元の違う、本来捨てられるような不用品や廃棄物に新しい価値を持たせ、新しい命を生み出すという素晴らしい考え方が述べられていた。
UPCYCLE  JAPANという団体も最近できたようだ。清々しい気持ちになった。若い世代が新しいモノの見方、考え方で未来を創っている。頼もしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?