ジョブ型雇用メンバーシップ型雇用再論 

年初尚早、日経の記事にもなっていたが、各社ジョブ型雇用制度の導入・運用に苦戦しているようだ。先に論じたようにこの二分法的アプローチを蒸し返したい。

欧米がジョブ型雇用であることに異論はないが、その運用は社会慣習、中長期的な成長、それを現場で支える中間層のやる気なども視野に入れて誠に巧みであることは意外と知られていない。

ジョブ型雇用を教科書的に導入すると、ジョブディスクリプションを書き、報酬はそのジョブグレードに見合ったフラットにするということになるが、まずこの出だしに落とし穴が潜んでいる。

ジョブディスクリプションは無いと困るが、その職務範囲とそれを達成するための経験や資格、能力が書かれているが、これらは所詮ミニマムで、採用面接の際の最低チェックシートのようなもので、それらが満たされれば求められる成果が出るか誠に疑わしい。私がフォードに移る時も、それを見たが、内容は平板で、教科書的で、味気なく、動的でない。人事制度を企画・運用できることなどと書いてあっても実務で求められるのは、厳しいトップの要請をどう現場に落としていくか、また部下の人数も能力も限られている。その中で、具体的に成果を出すとなると、ジョブディスクリプションなどでは到底追い付かない。

採用してみれば、その成果は人によって雲泥の差が出る。最低点を下回れば、当然、お役御免となるが、合格点をとったら、成果に違いがあっても、報酬がほぼ同じというのもおかしい。賞与で差をつければいいという意見もあろうが、欧米では賞与は会社全体の成果が出なければ基本的にはゼロであり、報酬は年俸制が一般的である。

ジョブの数は組織設計する際、限られており、とりわけ高いポジションは少ない。となれば、優秀でも昇格は難しい。労働市場がオープンであれば、あるいは本人が働く地域に拘らなければ、転職という選択肢がある。しかし、欧米でも様々な理由で、ジョブホッピングを選ばないケースも散見される。そうした場合、優秀な人材をリテインしようとするのだが、報酬がグレードによって余りにフラットであると柔軟性に欠け、報酬を上げられず、
苦戦する。

実際の運用では、グレートごとの報酬は地位が低い場合、はかなり幅を持たせている。フォードでは、2ランク上のグレードと報酬がかぶるというケースも見られた。やはり、経験年数による、総合能力の向上を認めていたし、彼らのモチベーションに気を遣っていたのである。これを年功重視と表現しては言い過ぎだろうが、experience, seniorityは雇用慣行上、無視できない概念なのだ。

地位が上がれば、基礎的な報酬はフラットであっても、高いポジションにしか適用にならないボーナスやストックオプションなどでかなり差がつくような工夫がなされていた。

欧米は昇進は成果主義だが、報酬は結構“年功的”であることを忘れてはならない。安易にPay for Job, Pay for Performanceなどといって、木に竹を接ぐような愚を犯してはならない。あのアメリカで生まれたデミングの品質管理も日本の土壌に合わせ、育み、この日本で花が咲き、今やそれがグローバル基準になっている。世界の流れはジョブ型であるがそれをどう使いこなすか日本の経営者、人事責任者の責任は重い。

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