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頼もしい応援団長、カレーライス

職場で若い女子2人と話している時に、一番好きな食べ物は何かという話になった。
「カレーライス!」
私が答えると、きゃぁ~と笑われた。
えっ、そんなにおかしい?
「高校生みたいですね!」
まあたしかに、食べ盛りの男子高校生みたいではあるね(笑)

◆◆◆

私にとって幼少期からずっと、カレーライスは他の追随を許さない存在だ。
その原点にあるのは、子どもの頃に母が作ってくれたカレーである。市販のルーを使い、肉、玉ねぎ、じゃがいもが入った何の変哲もないカレー。
ヨーグルト、すりおろしりんご、にんにくといった隠し味もゼロの素朴な味だったが、こんなにおいしいものを作れるお母さんはものすごい料理上手だと誇らしかった。

◆◆◆

よく食べる健康な子だったが、小学校低学年の頃には自分はどもる人間で、どうやら他の子たちと違うらしいと自覚した。
毎朝の出席点呼の際に「はい」と返事ができず、授業中にたった数行の文章を読むのも他の生徒の何倍もの時間がかかる。
日直当番の日、授業前の「朝の会」の司会をつとめるのは拷問のようだった。
1人で留守番をしている時に自宅にかかってくる電話にも、怖くて出られなかった。

◆◆◆

次第にクラスメートから指摘されるようになった。
ある女子から突然言われた。「病気持ちなの?」
「えっ、何で?」
「だってさぁ、授業中に簡単なひらがなとかも読めないじゃん。なんか病気なのかなぁと思って」
何も答えることができず、「病気持ち」という言葉が胸に重くのしかかった。

別の女子は「ねえ、聞いてもいい?」と言う。
「何?」
「やっぱりいいや。気の毒だから」
上から目線の表情を見ながら、ああ、吃音のことを言いたいのだなと思い、「気の毒」という言葉に、唇を噛んだ。

◆◆◆

心労の絶えない学校生活が続いていたが、毎日、給食の時間は楽しみだった。どもることの不安と食欲は別という、妙な図太さがあった。
授業中にカレーの匂いが漂ってきた日は、心の中でガッツポーズした。つらい時、悲しい時でも食欲をそそるあの匂いは不思議な魔力を秘めていた。

配膳台の前に列を成している間、給食当番たちに「たくさん入れてね、お肉多めにしてね」と念を送った。
無心に食べながら、最後のひと口のためにごはん、ルー、肉をバランスよくとっておく。いよいよ口にいれた瞬間、肉ではなくじゃがいもだとわかった時の落胆といったら!
平静を装いながら、自分のミスを嘆いた。

学校ではおとなしくふるまっていたので、配膳台の大鍋におかわりに向かう勇気はなかった。男子に負けじとおかわりする何人かの女子の雄姿を見て、心底うらやましかった。

◆◆◆

吃音のためにハードモードな学校生活を送らざるをえなかった私を、カレーライスは応援し、寄り添ってくれた。数々の食べ物の中でもひときわ私を強く支え、鼓舞し、前へ進めと、小さな私を勇気づけてくれた頼もしい応援団長である。

◆◆◆

そんな昔話に耽っていると、カレーを食べたくなってきたので、ココイチへ行ってみた。
カレー好きを名乗っているわりには、日本風カレーのチェーン店に入ったことはなくて、初ココイチ。

メニューを見ながらさんざん悩んだ末、シンプルなポークカレーにトッピングでチーズを頼んだ。
素朴な味でおいしいけれど、チーズがぐんぐん伸びて、なかなか嚙み切れない。真面目にけっこう焦った(笑)

ボリューム満点で、食べ終わると、お腹がはちきれそうになった。
カツカレーとかは今はもう食べられないかも・・・。
やはり胃袋もそれなりに年をとっていることを実感した休日の午後だった。

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