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⑭人生に何度も打ち拉がれた。でも娘や最愛の彼の苦しみは想像を絶する。私の苦しみなんてたかが知れてる。何があろうとも人生に「Yes」と言ってみせる。

私は10代の頃、集団レ〇プされた。自殺未遂を繰り返していた。搬送先の病院はたいてい同じ。気づいたら救命救急の医師と交際していた。22歳も年上だった。彼は私の人生において最大の恩人であり、最愛の人。私は彼の子を20歳で出産した。でも、娘は生後15日で医療ミスで窒息死した。彼は、娘の後を追うかのように自殺した。

何度も人生に打ち拉がれる。涙が止まらない。1人で泣き続けた。悲しみ、怒り、孤独、喪失感、恐怖、絶望感・・・この感情は言葉では表現しきれない。

私は元々、無宗教。今でも、さほど信心深いわけではないが一応、仏教徒だ。娘を亡くしてから「天国という場所があり、私も死んだら天国で娘と再会できる」そう信じなくては、寂しすぎて生きていかれなくなった。

私はショートスリーパーだから、まず夢はみない。 でも、ある時、天国の娘から手紙と花が届く夢を見た。
「大好きなママへ。お友達と一緒に天国で、神様のお手伝いをしているよ。お花を育てたからママにもあげるね。ママが笑ってくれると嬉しいよ。」

偶然、小田和正さんの「ダイジョウブ」という曲を耳にした。
まるで、娘とこんな会話をしているかのように感じた。
「ねぇねぇ。パパ、ママ。ソラの笑顔は いつだってパパやママを幸せにしてるよね?」
「あぁ。そうだね。ソラの笑顔はいつだって、パパやママを幸せにしてくれるね。それは、ソラが遠い遠い天国に、旅立つ前も旅立った後も同じだね。ソラは、本当にいい子だね」
「ソラの笑顔が、いつだって幸せにしてくれるから、パパもママも、どんな悲しみにも決して負けないね」

産院を退院した日は雨の予報だったのに、実際は雲一つないキレイな秋晴れだった。私は娘を抱きながら「あぁ、幸せだな。この空を一生忘れない」と思った。彼が、青空にちなんで「天(ソラ)」と名づけた。

娘は、生後15日で医療ミスで窒息死した。どんなに苦しかっただろうか。想像を絶する。娘は、もっと生きたかったに違いない。娘は最後まで懸命に生きた。

「大丈夫。愛は、最高で最強のママになれるよ」
彼の声が聴こえた気がした。
この世に育てている子がいなくても、それでも私は母親だ。娘は、まだ赤ちゃんなのに母親の心配なんてさせられないと思った。娘は天国にいる。

私は空を見上げ、精一杯、娘に笑顔を見せたいと思った。

かつて私は自殺未遂を繰り返していた。1つだけ分かったことがある。死ぬことは決して楽になることではない。生きるのも大変だけど死ぬのも同じぐらい大変なことだ。
私たちの関係を唯一知っていた、彼の同僚が教えてくれた。奥様やお子様と住む自宅で自殺したと。彼がどんなふうに自殺したのか詳細は分からない。私には知る術がなかった。でも自殺なんて簡単には成し遂げられない。彼は、どれほど苦しんだのだろうか。想像を絶する。死にたいって思うのは、より良く生きたいと思っている証。彼だって、本当は生きたかったはず。

彼は、自殺未遂を繰り返す私を救ってくれた。集団レ〇プされ自分の乳房にひどく嫌悪感を持った。自分の乳房を果物ナイフで切り取ろうとした。意識を失うほど大量出血したが死ななかった。彼が私の命を救った。乳房を縫い合わせた。
「おっぱい見せて」
「嫌だ」
「どうして?」
「自分の胸・・・、大嫌い」
「好きになっていい。僕が治した」
人並にS〇Xできるよう、フラッシュバックと闘いながら何度もトライした。
彼は、不登校になった私を、登山やスキューバーダイビングに連れ出してくれた。彼は何年もかけて、私の人生を希望のあるものに変えてくれた。

彼と出会わなければ、私は今でも引きこもりで親のスネをかじって生活していたかもしれない。出産なんて経験できなかったかもしれない。
娘の死を少しでも無駄にしたくない、医療ミスを少しでも減らしたいと思った。医療従事者を目指すことにした私の受験勉強に、彼は付き合ってくれた。彼が勉強を教えてくれなかったら、きっと合格できなかった。
私名義のマンションも遺してくれた。20歳の誕生日祝いだと「ここにサインして」と言われたとき、ここまでしてもらえる価値が、自分にあるとは思えなかった。彼は私のために、時間もお金も労力も、これ以上ないってぐらい費やしてくれた。彼は私を幸せにしたかったに違いない。

彼が救ってくれた命と人生だから、最後の最後まで大切にしなくてはならないと思った。私は、彼が私に注いでくれた愛に値する人間になりたいと思った。娘と最愛の彼は、死ぬときどんなに苦しかっただろうか? 想像を絶する。私の苦しみなんて、たかが知れてる。

孤独感、絶望感、それが何だ。立ち上がれ!
人生に意味なんてなくてもかまわない。
不安や憎しみに負けたくない。
トライする気持ちを失いたくない。
天国の娘に笑顔を見せたい。
愛に溢れた人間でありたい。
死ぬときに、いい人生だったと思って死にたい。
何があろうとも「人生にYes」と言ってみせる。
私も天に召されたとき、娘に「ママ頑張ったね」と言ってもらえる自分でありたい。

地獄に手紙が出せるなら、こんな手紙を出したい。

マサくん。あなたは私の人生で最大の恩人であり最愛の人。今もマサくんを愛しているよ。 私が自殺未遂を繰り返してたときも、ソラが亡くなってしまったときも
「とても辛いね。死んでしまえば楽なのに、とか思うよね。でも、自殺すると天国には行けないんだよ。地獄に落ちるんだよ。もっと苦しむことになるんだよ。自殺したら天国のソラに会えなくなるから、辛いけど生きていこうね」
マサくんが、そう教えてくれたのに。マサくんは沢山の人の命を救ってたのに。ソラに会えないって知ってたのに。どうして自殺してしまったの?どうして私を置いていってしまったの?
私はマサくんに命を助けてもらったのに、マサくんの苦しみや悲しみに気づけなくて、本当にごめんなさい。いつも甘えてばかりでごめんなさい。私の愛は、とても幼かったね。
マサくんは本当に地獄にいるの?私は天国にいるソラにも、地獄にいるマサくんにも会いたいよ。両方に行く方法はないのかな?
会える相手を1人しか選べないなら、相当悩んだけど、私はソラに会いに行くね。長い間、待たせたのにパパにもママにも会えないなんて、きっとソラが悲しくなるから。それにね、マサくんが救ってくれた命と人生だから最後の最後まで大切にさせてほしいよ。
私も天に召されたら、まずはソラに会って抱きしめたい。それから、神様に交渉してみるよ。マサくんは本当は天国にいけたはずの人です。たった1度の過ちで地獄に落とされるなんて、あんまりです。マサくんを天国に招待してほしいですって。
マサくん、来世で生まれ変わったら、次こそ一緒に暮らそうね。またもや何度も人生に打ち拉がれたとしても、次は絶対にマサくんの手を離さない。マサくんが私を守ってくれたように、今度は私がマサくんを守ってみせるよ。そしたら、きっとソラも、もう一度、私たちの最愛の子として生まれてきてくれるよね。
マサくん。私を愛してくれて本当にありがとう。私もマサくんを愛しているよ。いつでも、どこにいても。それが例え、天国でも地獄でも。





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